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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
27/84

1560年 6月12日  6:00 尾張国/沓掛城正門前

  1560年 6月12日  6:00 尾張国/沓掛城(くつかけじょう)正門前

   今川方 今川本隊

        先発隊 1000人 瀬名氏俊

 

        

 先行していた瀬名氏俊の先鋒隊の兵士が桶狭間丘陵を斜面を登り、桶狭間山に辿り着く。続く小荷駄隊は斜面ため、荷を解くかなるべく緩やかな場所から登るため、麓に控えていた。

「これは・・・」

 頂上に登った瀬名氏俊は唸る。山の背後は絶壁であり、見晴らしもよい。万が一背後も衝かれる心配もない。だが、山自体が円錐状の峰となっており、とてもではないが本陣を構築出来るような平地がなかった。

此処(ここ)は無理であろう。軍師殿[庵原之政(あんばらゆきまさ)]は事前に調べているはず)

 瀬名氏俊は何か齟齬(そご)があったのであろうかと考えを巡らすが、何も思いつかない。

「となると・・・」

 桶狭間山から登って来た道を見遣る。桶狭間山がある桶狭間丘陵には近崎道(ちかさきみち)と呼ばれる山道が続いている。この道を中心に僅かながら細長く平地が広がっている。そもそも桶狭間山だけがこの桶狭間丘陵で突出して高地ではなく、小高い丘程度の高低差なのだ。

(あそこ、か。あそこなら、木々を伐採すれば、桶狭間道からも本陣が見えるやも知れぬ)

 近崎道(ちかさきみち)は余り使われていないためか、鬱蒼(うっそう)とした木々の間を縫う様に続いている。場所によっては木々の枝や(くさむら)を払わなければ道筋すら判らぬ所があった。殆ど獣道と言ってもいい。

「工兵隊に命じよ。近崎道(ちかさきみち)の平地を均せと」

 瀬名氏俊が重臣に命じる。

近崎道(ちかさきみち)で宜しいので」

 重臣は桶狭間山を見下ろしながら聞き返す。今川義元の命令は桶狭間山に陣を構築せよとの仰せであったからだ。

「このような切り立った場所に本陣は構築出来ぬ。それに此処(ここ)では桶狭間道も見渡せず、三河勢・尾張勢の不信を買ってしまう。現場の裁量で臨機応変に対応出来ずしてどうするか。何のために御屋形(今川義元)様が私に陣地構築を命じたか、理解せよ」

 瀬名氏俊を重臣を諭すように説明する。

庵原[之政](あんばら[ゆきまさ])殿め。この地が厄介な土地と知っていて、私に命じたか。・・・ま、それだけ買われているという事か)

 苦笑するしかなかった。

「小荷駄隊には近崎道(ちかさきみち)の平地に本陣を構築する想定で資材を運べと命じよ。桶狭間山まで無駄足を踏ませるなよ」

 使い番に厳命した。


 工兵隊が平地の木々や(くさむら)を刈り、陣地構築が出来るように土地を均していく。小荷駄隊は均された土地に資材を麓から運んでくる。近崎道(ちかさきみち)の北西の斜面に手が入れられ、木々が伐採されていく。漸く丘陵の平地から桶狭間道が見渡せるようになる。

「これで取り敢えず形にはなった」

 瀬名氏俊は独り言ちする。背後を見遣れば、地面に置かれた資材を使い、本陣が構築され始めていた。工兵隊が水を得た魚の如く近崎道(ちかさきみち)を縫う様に動き回る。

「よいか。時が余りない。皆の者、励め」

 瀬名氏俊が兵を叱咤する。

(御屋形[今川義元]様出陣の先触れ前には形になねば)

 一度命ぜられた以上、瀬名氏俊にも責任がある。それ以上に責任感の強い男でもあった。

 陣の構築から数時間後、本陣が造られ、仮小屋も幾つか建てられた。本陣には幕が張られ、後は今川義元を待つばかりとなった。

(やれやれ、結構時間を取られた)

 長時間指示を出していた瀬名氏俊の声は嗄れ、咳をしていた。近崎道(ちかさきみち)の平地からは小荷駄隊・工兵隊は南方の田楽坪(でんがくつぼ)に移動し、遅い朝食を取らせている。兵卒が辺りを警戒し、工兵隊の隊長と瀬名氏俊が本陣の検分をしていた。絵図面を見つつ、本陣がしっかりと構築されているか確認していた。概ね絵図面通りの本陣が構築されている事に瀬名氏俊は満足する。

「ふむ、いいだろう。ご苦労であった。田楽坪(でんがくつぼ)で休め、食事も用意しておる」

 瀬名氏俊に認められた工兵隊の隊長は嬉しそうな顔で平地を後にする。近崎道(ちかさきみち)の平地にはこの後、見張りの兵を残し、殆どの兵は田楽坪(でんがくつぼ)に撤退する予定だ。見張りの兵も交代制となり、義元本陣が近崎道(ちかさきみち)の平地に着くまで任務に当たる。

 辺りに織田兵の影は全くなかった。

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