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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
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1560年 6月12日  5:30 尾張国/沓掛城正門前

  1560年 6月12日  5:30 尾張国/沓掛城(くつかけじょう)正門前

   今川方 今川本隊

        先発隊 1000人 瀬名氏俊



 早朝、沓掛城(くつかけじょう)の正門に1000人の兵卒が集まり、2000人の工兵隊・1000人の小荷駄隊と共に沓掛城(くつかけじょう)を後にする。見送る者は沓掛城(くつかけじょう)を守る衛兵位であった。工兵隊は桶狭間山周辺に本陣の構築を、小荷駄隊は本陣の構築の資材を運搬していた。桶狭間山に本陣を作るために急遽集められた瀬名氏俊隊である。瀬名氏俊は後ろを振り返る。彼が思っていた以上に長蛇の列になっている。それだけ大仕事なのだと自分に言い聞かせる。

「御屋形(今川義元)様も無茶を言いよる」

 瀬名氏俊は馬上でぼやいていた。今川義元の本陣が桶狭間山に出陣が決したのが5時過ぎ。其処から命を受けた瀬名氏俊は急ピッチで桶狭間山へ向かう準備を整えて来たのだ。

「(瀬名)氏俊様、そろそろ出立を・・・」

 重臣の一人が伺候(しこう)する。

「相判った」

 周りを固める馬廻(うままわり)の準備が整うのを確認し、瀬名氏俊は馬に鞭を呉れる。わなないた馬はゆっくりと進み出す。 瀬名氏俊は駿河(するが)国の豪族であり、今川家とも縁が深い。弟・親永は駿河(するが)国の名門・関口家に養子に入り、今川家内でも存在を示している。瀬名氏俊は後方隊や戦目付等、後方支援的な役割に就く事が多く、武門と言うより文官に近い性格を持っていた。此度の義元本陣構築もその流れであった。

 此度陣地を構築しようとしている桶狭間山は、沓掛城(くつかけじょう)から4㎞の位置にある。山と言うより、桶狭間丘陵のやや小高い丘と表現した方がいいかも知れない。桶狭間丘陵の東端にあり、背後は崖で通る事は出来ない。庵原之政(あんばらゆきまさ)が言っていた通り、本陣を置くには格好の高地である。ただ、主戦場となる桶狭間道からは大きく外れ、桶狭間道に陣取るであろう三河勢・遠江(とおとうみ)勢からも見えず、些か中途半端な位置だと感じていた。寧ろ背後の崖から桶狭間口から見えるあたり、三河勢・遠江(とおとうみ)勢より結果的に駿河(するが)勢の意向を反映してしまったと表現するのが正しかった。

(これでは三河勢・遠江(とおとうみ)勢から不満が出るやも知れぬ)

 瀬名氏俊は今川義元の懸念が判る様な気がした。彼から見ても、今川義元は決して武威に関しても何ら劣るところがない。却って今までは太原雪斎(たいげんせっさい)の陰に隠れていたが、従来好戦的な人間だと考えていた。太原雪斎(たいげんせっさい)と言う軍師がいたため前線には出る機会がなかったが、その死後、元来の性格が露わになってきたのかも知れないと。太原雪斎(たいげんせっさい)の死後、今川義元は三河勢を先鋒として着実に尾張国を版図(はんと)に入れんと盛んに侵入を試みている。尾張国で織田信長が急速に勢力を拡大している事に危機感を抱いての事もあるが、調略によって一歩ずつ織田方を切り崩していた政策から転換を図ったかの様であった。そして此度の戦はその様相を如実に表していた。

 放っていた斥候(せっこう)の一人が瀬名氏俊の元に戻って来る。

「申し上げます。桶狭間山の周辺を探索しましたが、織田方の影はありませぬ」

「間違いないか?」

「確と」

 斥候(せっこう)は断言する。

(軍議のとおりか。織田は鳴海城と大高(おおだか)城周辺に兵を集中させているという事か。織田方が桶狭間道に伏兵を配しているかも知れぬと思ったのは杞憂であったか。しかし解せぬな。私であれば、兵が多少分散しようとも桶狭間丘陵が迫る細い桶狭間道に伏兵を置いて、今川方の牽制位はするものだが)

 顎に手を置き、暫し思いに耽る。瀬名氏俊の申す通り、桶狭間道は狭隘(きょうあい)な道である。鳴海道(なるみみち)と合流する開けた土地までは伏兵を置くには格好の場所が数多く存在する。逆に桶狭間道の上の桶狭間丘陵にそれなりの戦力をおけば、挟撃で今川方にも打撃を与えられるはずである。

(それだけ兵が足りないという事か)

 瀬名氏俊は独り言ちする。その時、斥候(せっこう)が未だに伺候(しこう)している事に気づく。

「他に何かあるか?」

 彼は尋ねる。

「実は・・・」

 斥候(せっこう)が困った様に視線を逸らす。瀬名氏俊はおやと思った。

「大変申し上げ難い(にくい)事なれば・・・」

 斥候(せっこう)が言葉を濁す。

「よい、申せ」

 瀬名氏俊が促すと、斥候(せっこう)は本当に言い(づら)そうに続ける。

「桶狭間山に陣を構えるのは無理かと」

「何!?」

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