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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
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1560年 6月12日  6:00 清洲城/信長寝所

  1560年 6月12日  6:00 清洲城/信長寝所

   織田方 織田信長(影武者)・諸将


 最前線である大高(おおだか)城の北の鷲津砦・丸根砦で激戦が展開されている頃、織田信長の居城である清洲城は静寂に包まれていた。前日の深夜に行われた軍議も織田信長が強引に終わらせ、織田方の諸将も各居城に戻っていた。しかし、その刻が確実に近づいているのを織田信長は感じていた。

 物音がする。かなりの健脚と見えて足の動きに無駄がない。使い番だろうと織田信長は思った。外に控える近習と小声で話している。何か事が起きたのであろう。

「(織田)信長様、お休みのところ申し訳ありません」

 織田信長は既に寝具の上に起き上がっていた。昨日からこの時がいつ来てもいいように備えていたのだ。そのせいで殆ど眠れなかったようで目に隈が出来ていた。

「よい。申せ」

「急ぎにて、直言を許し願いたく。今日、午前4時。織田方、鷲津砦・丸根砦を今川方が攻撃。鷲津砦守将・織田秀敏様より救援されたしの要請。どうか後詰を!」

 織田信長は立ち上がり、戸を開け放つ。

「相判かった!」

 彼は小姓に鼓を持たせる。

「人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻の如くなり 一度生を得て 滅せぬもののあるべきか」

 幸若舞の「敦盛」・・・彼が好んで舞ったとされている。演技過剰じゃなと内心苦笑する。彼の足も軽やかに舞いを続ける。一通り舞った後で、彼は扇子を投げ捨てる。いつもの戦闘モードに入っていた。

「貝を吹け!具足を持て!!」

 小姓たちに命じ、織田信長は寝所を出る。小姓たちは手際よく鎧を纏わせる。さらに立ったまま用意された湯漬けをかき込み、兜を着けた。

 鷲津砦・丸根砦のある東方を見遣れば、既に陽が昇っていた。織田信長は両頬を手で張り、自らを奮い立たせる。

「出陣じゃ」

 と甲高い声を上げる。広間から出た織田信長はそのまま廊下を通り、階下へと降りて行く。城門前に辿り着くと、門を守っていた衛兵が驚いた様に傅く。彼は颯爽と馬に跨り、顎で開門を促す。衛兵によって慌ただしく城門が開かれ、昨夜から城門前に用意された馬で出陣する。城門前は閑散としていた。戦の臭いを嗅ぎつけた商人や遊女が織田信長に気づいて算を乱して散って行く。彼は苦笑した。

 追随するのは、何と小姓衆僅か5名。

(格好がつかぬな)

 彼はぼやいた。


 城門を出る時、別の小姓が散るように走り抜けていく。織田信長が出陣する事を諸将に報せに行くのであろう。ご苦労な事だと冷めた目で織田信長は見ていた。重臣達が集まる前に清洲城を後にし、熱田神宮辺りまで出張る必要があった。清洲城で重臣達と出食わせば、引き止められるのは必定だ。面倒事はなるべく避けたい。只でさえ織田信長と重臣達はしっくり行っていないのだ。大戦を前に身内で揉めるのは避けたかった。

 織田信長は清洲城に控える兵すらも置き去りにして、一路東に向かった。


 織田信長が単身で桶狭間に向かった報せは居城に居た重臣達に知れ渡る。織田信長の小姓衆に叩き起こされた諸将は慌てふためき、取り敢えず清洲城城門前に集まる。

「何!?(織田)信長様は既に出陣したと」

 筆頭家老の林秀貞が頭を抱える。

「揃ったのはこれだけかい?」

 家老の一人、森可成(よしなり)が呻く。小姓の報せにより、清洲城には続々と諸将が集まっていた。しかし肝心の織田信長は不在で、諸将は途方に暮れていた。本来であれば指示を出すべき重臣達も混乱していたのだ。

「池田恒興殿はどうした。所在不明?丹羽長秀殿は動けぬと?同族の氏勝に不穏な動きがあると。河尻(秀隆)・佐々(成政)の近習は如何した?何!?(織田)信長様に追随したかも知れぬと?|斯様(かよう)《かよう》な仕儀で如何するか」

 平手長政(信長を諫める為、諫死した平手正秀の子)が混乱している。他の重臣達も今回の織田信長の仕儀には困惑していた。

「たった一人で戦場に向かわれるとは」

 織田信長の常日頃の奇矯に慣れていた重臣達も流石に此度の遣り用には呆れ果てるばかりであった。豪で鳴らす森可成(よしなり)も腕を組んで黙している。

 劣勢の織田方は、取るものも取り敢えず出陣する者、趨勢を見極める者、動かぬ者、様々であった。

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