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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
20/84

1560年 6月12日  7:30 尾張国/大高城周辺  2

  1560年 6月12日  7:30 尾張国/大高(おおだか)城周辺

   織田方 鷲津砦 200人 守将・織田秀敏/副将・飯尾定宗/飯尾尚清

       丸根砦 300人 守将・佐久間盛重(もりしげ) 

   今川方 大高(おおだか)城 鵜殿長成・鵜殿長照   

       大高(おおだか)城方面隊

        丸根砦攻撃隊 2000人 主将・松平元康・副将/・酒井忠次/軍師・石川家成

        鷲津砦攻撃隊 3000人 主将・朝比奈泰朝/副将・匂坂(さぎさか)長能/先鋒隊長・久貝(くがい)正勝/次鋒隊長・新野親矩(にいのちかのり)/三隊長・本多忠真/後方隊長・大原資良(すけよし)/本多忠勝


   鷲津砦

   朝比奈泰朝隊


「これは難儀な」

 鷲津砦を見た朝比奈泰朝は絶句する。

「平野から隔絶された浮き城のようですな」

 副将・匂坂(さぎさか)長能が上手い事を言う。

(我攻めが出来ぬな)

 断崖の間を縫うようして続く道を険しい顔で睨んだ。

「定石通りでよろしいか?」

 副将・匂坂(さぎさか)長能が先鋒隊からの攻撃を示唆する。

「それしかあるまい」

 朝比奈泰朝はそう言うしかなかった。


 仕寄りの準備が整った鷲津砦攻撃隊は順次攻撃を開始する。

「よいか!先ずは鬨の声を上げよ。先鋒隊は30分後に攻撃を開始せよ」

 大将隊から使い番が命を受けて次々と飛び出して行く。丸根砦攻撃隊と連携をと取るため、遅延攻撃を仕掛けるのだ。

 鬨の声が鷲津砦攻撃隊から上がり、フライング気味に次鋒隊から一人の武者が飛び出す。先鋒隊を追い越しての軍規違反だ。先鋒隊の兵卒から怒号が聞こえる。しかし、その武者はブーイングをものともせず、急な斜面を駆け上がるように砦の正門に向かって行く。

(無茶苦茶な)

 朝比奈泰朝が思わず座っていた床几から立ち上がる。傍らに居た匂坂(さぎさか)長能も目を丸くしている。

「何奴じゃ?」

 朝比奈泰朝の問いに匂坂(さぎさか)名能は首を横に振る。

 その時、一人の無骨な武者が二人の前に現れ、頭を下げる。

「朝比奈(泰朝)様、申し訳ござらん。今、飛び出して行った馬鹿者は不肖の我が息子・(本多)忠勝です。ご存分に処罰を!」

(次鋒隊の本多[忠真]殿、か)

 その時、怒号が歓声に変わり、三人は思わず前方を見遣る。強引に斜面を駆け上がり、先鋒隊を追い越した本多忠勝が鷲津砦の正門に取り付いたのだ。急斜面からの攻撃に鷲津砦の正門を守る織田方は虚を突かれたように攻撃の手が緩んだ。

「本多真忠が一子・本多忠勝、鷲津砦の一番槍を貰い受けたぁっ!」

 そう叫ぶなり、自慢の大身槍を振り回す。

「何をしておるかっ!弓隊構え!!」

 侍大将の一喝に、固まっていた織田兵が我に返る。

「遅いっ!」

 織田兵が弓に矢を番える前に、本多忠勝の蜻蛉切(とんぼきり)が頭上の織田兵を狩る。槍に貫かれた兵がどっと地上に落ちる音がした。それを機に、今川方の兵が勇んで山道を駆け上がって行く。

 それを見聞していた朝比奈泰朝が思わず膝を叩く。

「本多(忠真)殿、でかした!其方(そなた)の息子(本多忠勝)殿には、一番槍の手柄として後で褒美を取らす」

「は、はあ」

 お叱りを受ける思っていた本多忠真は意外な展開に神妙な顔をした。



   丸根砦

   松平元康隊 


 丸根砦攻撃隊の先鋒隊が丸根砦に襲い掛かる。

「行けい!行けい!遮二無二に攻め掛かるのじゃ!!山道だけでなく足場の良い斜面も使え」

 先鋒隊が急斜面を物ともせず、目一杯横広がりになる。

(足りぬ)

 後方から先鋒隊の動きを見ていた松平元康は不満気に鼻を鳴らす。

 大高(おおだか)街道から続く細い山道は丸根砦の入口で終わりでなく、左右に分かれ、三ノ曲輪(くるわ)の下の平地に続いている。しかし、その僅かな平地には曲輪(くるわ)に入りきらなかった織田兵が(ひし)めき合っている。

 丸根砦攻撃隊の先鋒隊は丸根砦の正門に殺到する。しかし、砦からは無数の矢が放たれ、砦内への丸根砦攻撃隊の侵入を阻む。そして、それに連動するように山道に続く左右の平地からは織田兵が正門前に張り付いた丸根砦攻撃隊を攻撃する。これに驚いた丸根砦攻撃隊が引けば、正門が開かれ、丸根砦の決死隊が突入する。押し込まれた丸根砦攻撃隊が隊列を立て直し再び攻め掛かれば、丸根砦の突撃隊は引き、弓矢隊が矢を降らす。この連携に、丸根砦攻撃隊は少しずつ削られていった。

「も、(松平)元康様っ!」

 思い通りに行かず、軍師の石川家成の顔は見る見るうちに蒼ざめていった。だが、松平元康は手で制す。

「先鋒隊を最後方に引かせよ。そして、次鋒隊を前に立てよ。相手に息吐く間を与えるなっ!!」

 きびきびと命令を下す。松平元康の意図を察した三河兵は先鋒隊が山道を抜け、丸根砦攻撃隊の最後方まで退く。間断なく次鋒隊が先鋒隊の穴を埋めるように最前線に張り付いた。松平元康の思惑通り、丸根砦の織田方は休む間もなく砦に取り付いた丸根砦攻撃隊の次鋒隊の相手をしなければいけなくなる。

「よいかっ!次は大将隊が続く。(石川)家成っ!その方が率いよ」

「判り申した」

 石川家成が悲壮な表情で頷く。

(その次は後方隊・・・佐久間盛重(もりしげ)、どこまで持つかな?)


 佐久間盛重(もりしげ)の予想通り、丸根砦攻撃隊は丸根砦に接道する細い山道を目一杯使い、攻撃を仕掛けてきた。

(少しは工夫してきたか。だが、想定の範囲内だ)

 彼はほくそ笑む。

 丸根砦攻撃隊の尖兵が正門に張り付き、砦内の侵入を試みる。

「弓隊っ!」

 佐久間盛重(もりしげ)が号令すると、砦内から無数の矢が放たれる。矢は正門がある三ノ曲輪(くるわ)だけでなく、二ノ曲輪(くるわ)や更に上の主郭や副郭からも放たれる。高低差を利用した矢は破壊力を増す。矢が当たった丸根砦攻撃隊の兵の殆どは身体を射抜かれていた。正門に取り付いた丸根砦攻撃隊の先鋒隊が怯むと、今度は道の左右から挟撃するように織田兵が湧き出る。挟撃されては堪らぬと丸根砦攻撃隊が引く。

「今じゃっ!」

 大胆にも正門が開け放たれる。中から守将の佐久間盛重(もりしげ)を先頭に突撃隊が繰り出される。正面からの強襲に丸根砦攻撃隊はどっと崩れ立つ。

「堪えよっ!」

 先鋒隊の隊長・酒井忠次が兵を叱咤するが、さしもの三河兵も勢いに乗った丸根砦の突撃隊になす術もなかった。中でも佐久間盛重(もりしげ)を先頭にした騎馬隊は強兵で知られる三河兵を蹂躙(じゅうりん)した。

「腰が引けてるわ!」

 佐久間盛重(もりしげ)は大身槍を振り回し、三河兵を薙ぎ倒した。正門前に殺到していた丸根砦攻撃隊の先鋒隊は山道の後方まで大きく後退していった。それを確認し、

「引けいっ!」

 馬首を返した佐久間盛重(もりしげ)は波が返すが如く、見事な去り際を見せる。正門が再び固く閉ざされ、弓兵が再配置される。

「(佐久間)盛重(もりしげ)様、お見事っ!」

 出迎えた近習達が称賛する。砦内の城兵も歓声を上げる。弓を間断なく射る者、大石を落とす者、糞尿を浴びせ掛ける者、砦の壁をよじ登ろうとする丸根砦攻撃隊の兵を槍で落とす者、様々な兵卒が奮い立った。

「ふんっ」

 佐久間盛重(もりしげ)も満更ではないように槍を抱え直す。

「松平元康、口ほどでもないわ」

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