1560年 6月12日 3:00 尾張国/大高城/広間
1560年 6月12日 3:00 尾張国/大高城/広間
今川方 大高城 500人 鵜殿長成・鵜殿長照
大高城方面隊
丸根砦攻撃隊 2000人 主将・松平元康・副将/・酒井忠次/軍師・石川家成
鷲津砦攻撃隊 3000人 主将・朝比奈泰朝/副将・匂坂長能/先鋒隊長・久貝正勝/次鋒隊長・新野親矩/三隊長・本多忠真/後方隊長・大原資良/本多忠勝
戦前の荒々しい雰囲気が大高城を包んでいる。兵は戦に備え槍を扱き、刀の手入れに余念がない。小荷駄隊は炊き出しを行い、早い朝餉をせっせと運んでいる。城外には物売りや遊女が入り込んでいる様で、異様な活気を呈していた。本来戦場に平民が入るのは禁じられているが、駆り出された農民兵を慰撫する意味で、殆ど黙認されていた。戦場になった在住の農民達も自分の農地を荒らされる訳であるから、人が集まる場所で物売りでもしなければ採算が採れぬ。年貢が免除される訳でもないから、これ位のお目こぼしが無ければ一揆でも起きかねないため、領主も見て見ぬ振りをしなければならない。俄かではあるが、露店や仮小屋が建てられ、強かな商人・旅芸人・猿楽師も入り混じり、門前市の様な賑わいを見せていた。
その中で、朝比奈泰朝・松平元康・鵜殿長成が大高城の広間に集まっていた。各将の部下が従い、城下の活気を羨まし気に盗み見ていた。軍議が催されている広間にはやや重々しい空気が漂っている。織田方の謀略により、当初の予定より厳しい戦いになる事が予想されたからだ。
「まず、我が隊(朝比奈泰朝隊)は鷲津砦を、松平(元康)殿には丸根砦を攻めていただく。鵜殿(長成)殿は大高城の守備を」
既に沓掛城の戦評定で決定している事項の確認であった。朝比奈泰朝の言葉に松平元康が頷く。
「大高城守備に兵を割いては貰えぬので?」
鵜殿長成が不安そうに言う。当然であろう。大高城を守備する鵜殿長照隊は織田方の策略によって殆どが使い物にならなくなっていた。鵜殿長成が不満を抱くのも然りである。朝比奈泰朝・松平元康隊に総出で出られては大高城の守備が心許ない。しかし、鷲津砦・丸根砦の攻撃隊にも事情がある。
「確か、鷲津砦・丸根砦は大高城の守兵が疲弊しているのを存じているのであったな、鵜殿(長成)殿?」
朝比奈泰朝が忌々し気に確認する。松平元康は朝比奈泰朝の言葉に棘を感じながら、気持ちが判るため敢えて黙した。鵜殿長成は渋々頷く。
「大高城には氷上砦・向山砦・正光寺砦の他に、鷲津砦・丸根砦の兵も寄せていた。間違いありますまい」
鵜殿長成も大高城を囲む砦に入る織田兵には兄の事もあり恨みがある。しかし自前の兵が攻撃に使えない以上、大高城に留まるしかない。
(情けない・・・兄の仇も取れぬとは。敵を前にしておきながら)
鵜殿長成は忸怩たる思いで拳を握り締める。
「鷲津砦・丸根砦の士気は高いと考えられる。ならば此方も全力で掛からねばなるまい」
朝比奈泰朝の言に松平元康は同意する。
「織田方は大高城の現状を鑑み、城の守備に兵を割くであろうと考えているのは必定」
松平元康が朝比奈泰朝の言葉に被せるように言葉を続ける事によって、鵜殿長成の反論を防いだ。
「うむ。ならば、織田方の裏を欠くためにも、最大勢力で臨まねばな」
(鵜殿[長照]隊は除くがな)
朝比奈泰朝はそう呟くのをぐっと堪えた。松平元康も同様の意見であった。
「兵達にも済まぬが・・・直ぐに陣触れを」
朝比奈泰朝は城下の様子を見て毅然と部下に命ずる。
「そうですな。時間が経てば経つ程、此方は不利になります故」
松平元康も頷く。夜が明ければ、織田方から丸根砦・鷲津砦への後詰が来る可能性も否定出来ない今、早めに攻撃をして、両砦を落としておきたかった。今は不在であるが、大高城の南面を守っていた織田方の兵の動向も判らぬ現在、敵が動く前に行動するべきだと両者は考えていた。
「では戦の準備を。鵜殿(長成)、大高城の守備を頼み申す」
「・・・はっ」
鵜殿長成は不承不承頷くしかなかった。




