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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
15/84

1560年 6月12日  3:30 尾張国/沓掛城

  1560年 6月12日  3:30 尾張国/沓掛城(くつかけじょう)

   今川方 今川本隊

        義元本陣 2000人 総大将・今川義元/軍師・庵原之政(あんばらゆきまさ)/先陣長・葛山氏元(かつらやまうじもと)/次陣長・関口氏広/後陣長・岡部正綱/右陣長・三浦義就(よしなり)/左陣長・朝比奈元長

        前備え 1000人 主将・松井宗信/副将・蒲原氏徳(かんばらうじのり)/先鋒隊長・安倍元真/次鋒隊長・福島(くしま)助昌/後方隊長・一宮元実

        中備え 1000人 主将・由比(ゆい)正信/副将・荻清誉(おぎきよたか)/先鋒隊長・勝間田政行/次鋒隊長・佐竹高貞/後方隊長・沢田忠頼

        後備え 1000人 主将・富士信忠/副将・興津(おきつ)清房/先鋒隊長・井上継隆/次鋒隊長・大村家重(いえしげ)/後方隊長・飯尾乗連(いのお のりつら)

       中嶋砦攻撃隊

        前備え 2500人 主将・松平政忠/副将・菅沼定村/先鋒隊長・戸田重貞/次鋒隊長・奥平 貞能(さだよし)/三隊長・牧野貞成/後方隊長・粟生(あわお)永信

        中備え 3000人 主将・井伊直盛/副将・久野(くのう)元宗/先鋒隊長・天野景貫(かげつら)/次鋒隊長・堀越氏延(うじのぶ)/三隊長・小笠原氏清/後方隊長・天方(あまがた)通興

       鎌倉往還備え 1500人 浅井(あざい)政敏

       客将 北条氏繁(うじしげ) 1000人/武田信玄・山本勘助 100人




   控えの間

   今川義元  

  

 予は大広間に続く控えの間の一つでうつらうつらとしていた。普段であれば、眠っている時間帯である。

 夢を見ていた。場所は既に馴染みとなった駿河(するが)国・長慶寺。

「・・・(今川)義元殿か?」

「はっ」

 師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))はこの前訪れた時より窶れていた。もう目も見えないらしい。師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))は妻を娶らなかったため、子もおらず、代わりに出自である庵原氏(あんばら氏)の加護を受けていた。

「長かったのう」

 師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))はポツリと呟く。

花倉(はなくら)の御内乱・河東の乱あたりが一番辛かった」

「はい。師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))のお陰で乗り切れました」

「謙遜を。よいかな・・・戦と言うものは、主君と臣下があって初めて出来るもの。其方(そなた)と言う名君がいたからこそ、ワシはその下で思いっきり戦えたのじゃ」

「名君などと・・・」

 今日の師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))は機嫌がいいらしい。

「しかし、不味くもあった。花倉(はなくら)の御内乱時には我らには味方がいなかった。だから、其方(そなた)の母御を抱き込み、北条に頼んだ。それは決して間違ってはおらん。しかし、国内に味方がいなかった事が我ら二人のみで何事も決する仕組みにしてしまった。ワシも若かったのかも知れん。今になって後継者の事を考えなければいけなくなった」

「(今川)氏真は内政に問題ないかと」

 (今川)氏真は予の長子である。

「ふむ。及第点かのう・・・和歌や蹴鞠に現を抜かさぬよう手綱を取っておけ」

 師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))の採点は厳しいと苦笑する。

「まあ、内政はいい。後は外政・・・軍事と外交、か」

 師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))は暫く思案する。

「軍事は暫く軍配を(庵原)((あんばら))之政(ゆきまさ)に預けておけ」

 之政とは師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))の大甥・庵原之政(あんばらゆきまさ)の事だ。

「外交は・・・(今川)義元殿しかおらぬか」

「・・・はい」

「軍事や外交は複数の者に分配するのがよかろう。専横されるのは悪戯に家中に混乱を招く」

「はい」

「後は・・・」

 何人かの駿河(するが)勢の名前が挙がったが、二人ともピンと来なかった。

「(松平)元康は?」

 元服したばかりの三河勢の筆頭の御曹司だ。

「確かに軍事の才はあるが、野心が強すぎる」

 そんなものかと(今川)義元は内心首を傾げる。

「野心が強すぎる者は専横に走り易い。やはり複数の者に差配するのがよかろう」 

「はい」

「後、駿河(するが)勢は飼い殺しにするがよい。直参とでもしておけばよい。今後は遠江(とおとうみ)勢・三河勢を優遇するがよかろう。そして、尾張勢は先鋒として使い潰せ。尾張勢は反復常ならぬ」

 領国化した国人衆を先鋒として使うのは戦国の世ではよくある事だ。我が今川家は長らく駿河(するが)国を領していたため、その後領国化した他国勢に比べ、今川家での家格が上がり過ぎ、不均衡が生じてしまっていた。師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))はそれを指摘しているのだ。

「後はそうだのう・・・」

 師匠(せんせい)太原雪斎(たいげんせっさい))の言葉を上書きする声が戸外からする。

「お休みのところ申し訳ありません。御屋形(今川義元)様、遣いが参っております」

 ここで夢を破られる。大高(おおだか)城から遣いが来たようだ。



   大広間


 今川義元が大広間に戻ると、諸将が大高(おおだか)城からの使い番が来たのを知り、三々五々集まっていたようだ。大高(おおだか)城の使い番が何か口走ったのだろう。中は活気に満ちていた。本来であれば主君に報告する前に臣下に内容を漏らすなどと今川義元は内心憤慨していた。

(そろそろ使い番も駿河(するが)勢から遠江(とおとうみ)勢に切り替える時期か)

 今川義元は駿河(するが)勢の規律の低さを嘆いた。

 今川義元が上座に座るのを見計らい、由比(ゆい)正信が仕切る。

「御屋形(今川義元)様もお見えになった。軍議を再開したい」

 皆が襟元を正す。

大高(おおだか)城に向かった朝比奈泰朝殿から遣いが参った。先ずは報告を」

「はっ!」

 一人の若武者が平伏する。名乗りを上げる。朝比奈泰朝の配下の者だ。

「申し上げます。我が朝比奈(泰朝)隊と松平(元康)隊、未明に大高(おおだか)城に兵糧入れを行いました!両軍とも死傷者ありません」

「おう!」

 大広間の諸将はどよめく。

「引き続き大高(おおだか)城を塞ぐ砦の攻撃に当たります」

 そう告げると使い番は平伏する。

「頼もしい」

「引き続き励め」

 諸将から声を掛けられ、使い番は誇らし気に笑顔になる。

「して、織田方の砦群の様子は?」

 庵原之政(あんばらゆきまさ)がさり気なく問う。

「はっ!確と確認した訳でありませぬが・・・大高(おおだか)城を囲む南の砦の一つ・向山(むかいやま)砦の水野軍が撤退したようです。それに伴い、向山(むかいやま)砦の両側にある氷上砦(ひかみとりで)正光寺(しょうこうじ)砦の織田勢が撤退した模様」

 使い番の言葉を聞き、諸将が再びどよめく。

 庵原之政(あんばらゆきまさ)と今川義元がチラリと視線を交わす。

大高(おおだか)城の包囲網が崩れましたな)

(うむ)

(これで信長の戦略は崩壊した)

(水野[信元]め、漸く裏切りおった)

           

「疲れたであろう。暫しゆるりとせい。別室を与える」

 今川義元に直接声を掛けられ、余程嬉しかったのであろう、勿体なきお言葉と平伏する。

「御屋形(今川義元)様自らの言葉、恐悦至極に存じますが、主(朝比奈泰朝)にすぐ復命せねばなりませぬ。無礼とは存じますが平にご容赦を」

「許す。(朝比奈)泰朝・(松平)元康にようやったと伝えよ」

 今川義元も若武者の所作に満更でもないようだ。使い番の若武者は再度平伏すると大広間を後にする。

 諸将の雑談が始まり、暫くゆるりとした時が流れる。

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