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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
13/84

1560年 6月12日  2:30 尾張国/丸根砦・鷲津砦

  1560年 6月12日  2:30 尾張国/丸根砦・鷲津砦

   織田方 佐久間盛重(もりしげ) 300人・千秋季忠(せんしゅうすえただ) 150人・佐々政次 150人



 佐久間盛重(もりしげ)が守る丸根砦は、丸根と言う小高い丘の上に作られた三重の砦だ。頂上に主郭と副郭が配置され、斜面を下った楕円形の外縁の狭く細長い平地に二ノ曲輪(くるわ)がある。更に斜面を下った下には二ノ曲輪(くるわ)よりも面積の広い三ノ曲輪(くるわ)がある。三ノ曲輪(くるわ)は山麓から絶壁で隔てられており、各所が拡張され、兵溜まりが三箇所程設けられていた。更にそのが外縁部の一部に独立曲輪(くるわ)が点在し、急斜面からの攻撃を難くしていた。一番下の三ノ曲輪(くるわ)に繋がる道以外は急斜面となっており、逆茂木が配されていた。小さな正門のある馬出し状の副郭には階段状の通路しかなく、それ以外は断崖と呼んで言い急斜面に覆われている。主郭は副郭より一段高い位置に配され、形ばかりの正門が設えられていた。主郭には井楼櫓(せいろうやぐら)が砦の四面に配置され、死角を補っていた。間に合わせの感もあるが、それなりの防御が整えられていた。丸根砦は1000㎡ほどの小砦であったため、砦内には200人しか収容出来ず、入り切れなかった兵は砦の側面や前面に配されていた。主郭・副郭・二ノ曲輪(くるわ)・三ノ曲輪(くるわ)にはそれぞれ兵が配されており、寡兵ではあるが、この砦に通じる道は狭い山道しかなく、その他は急斜面となっており、攻め口は限定されている。攻め手が山道を登って来れば、主郭・副郭・二ノ曲輪(くるわ)・三ノ曲輪(くるわ)からの波状攻撃を受ける事になる。元々は大高(おおだか)城への荷を止めるために作られた砦であり、大規模な戦には向いていない。しかし、守将である佐久間盛重(もりしげ)が信長の大高(おおだか)城包囲陣の構想を基に出来得る限りの守りを固めていた。 

 独自の判断で氷上砦(ひかみとりで)正光寺(しょうこうじ)砦を退去し丸根砦に向かった千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次は、使者を送り共闘を持ち掛けるも追い返される。

「どういう事か!」

 佐々政次の怒号が飛び交う。漸く辿り着いた丸根砦で、佐々政次・千秋季忠(せんしゅうすえただ)隊は思わぬ応対を受けていた。

「ですから、両名は受け入れる事は出来ません。早々に持ち場に戻られよ」

 副郭にある副門の門番は判で押したように繰り返す。先程から佐々政次・千秋季忠(せんしゅうすえただ)と門番は同じような押し問答を繰り返していた。

「埒が明かぬわっ!」

 佐々政次が刀を振り上げる。門番は槍を構え、緊張が走る。

「佐々(政次)殿、止められよ」

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)が佐々政次を押し留める。

「門番よ、佐久間(盛重(もりしげ))殿に取り次いでほしい。受け入れられぬの一点張りでは此方(こちら)も引き下がれぬ故」

 それでも諦めない千秋季忠(せんしゅうすえただ)は直談判に及んだ。



   丸根砦


「まだ立ち去らぬか?」

 守将である佐久間盛重(もりしげ)がいきなり砦の門まで出向いたため、正門の番兵は驚いた様に叩頭する。

「はっ!丸根砦で共闘したいと申し出ております。使者には無用と追い返したのですが、千秋季忠(せんしゅうすえただ)様・佐々政次様両名が門近くまで近寄り、直談判を申し出ています」

 暫し考える。

「矢と弓を持て」

「はっ?」

 察しの悪い近習に繰り返す。

「ワシの矢と弓を持って来い」

 怒鳴りあげると、近習は慌てて走り出す。佐久間盛重(もりしげ)は尾張国の五器所(ごきそ)城主である。此度の戦で丸根砦の守備を命ぜられたが、五器所(ごきそ)城の守備も疎かに出来ぬ。そのため、主だった家臣は五器所(ごきそ)城に留まらせ、佐久間盛重(もりしげ)が丸根砦の全権を受け持っていた。生きて帰れるか判からぬ最前線の砦に有能な配下を全て連れて来る訳にもいかなかったのだ。

 先程の近習が息を切らせて弓矢を携えてくる。受け取るとずっしりとした重みを感じる。佐久間盛重(もりしげ)特製の弓で、通常よりも2回りも大きい。

 見れば、門に近づこうと相手の将が迂回するように歩いているのが見えた。佐久間盛重(もりしげ)はその5歩先を狙い放った。矢は先頭を行く将の2歩手前の地面に突き立つ。

(ちっ、一歩手前を狙ったつもりなのに・・・腕が鈍ったわ)

 佐久間盛重(もりしげ)は内心苦笑する。

 当然、射掛けられた将は激昂する。相手は無断で退去した理由を懇々と説明するが、敵前逃亡である事に変わりはない。今直ぐにでも砦に戻るよう促す。

 (こちらは指示する立場ではない。持ち場に戻るよう勧告するしか出来ぬ。そんな事も判らぬのか)

 佐久間盛重(もりしげ)は話を打ち切るように正門を離れた。

 

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊が悄然として砦を去って行く。鷲津砦に向かうのであろうか、進路は東だった。

(向こうはもっとけんもほろろであろう。こちらより小さな砦じゃからな)

 居所で千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊を見つめていた。

(しかし、水野[信元]め。このタイミングで撤退じゃと?どうやら、裏で今川に繋がっていたという事か。ま、今となっては詮無い事)

 佐久間盛重(もりしげ)は悲壮な覚悟で太刀を握り締めた。



   千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊


「くっ!味方に対して弓矢で挨拶とは!!丸根砦の将は分別がないっ」

 佐々政次は矢を射掛けられた事に激怒していた。中てようとしてた訳でなく、威嚇で射った事は判っていたが、憤懣やるせなった。佐々政次は刀を抜き、門番に切り掛からんばかりだった。先程まで相対していた門番の顔は蒼白になっていた。門内の織田兵も臨戦態勢が如く緊張が走った。仰ぎ見れば大柄な男が次の矢を準備しているのが見えた。守兵はそれが主将である佐久間盛重(もりしげ)であると認識した。中々立ち去ろうとしない千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次に業を煮やしたのであろう。このままでは今川方が押し寄せた場合、満足に反撃が出来ない事は明らかだった。

「落ち着かれよ、佐々(政次)殿」

「しかしっ・・・」

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)が佐々政次の正面に立つ。千秋季忠(せんしゅうすえただ)もこのままこの場に留まる愚を悟っていた。守将である佐久間盛重(もりしげ)が入城を認めなければ、此処(ここ)で共に戦う事は出来ないのだ。そして、大高(おおだか)城に兵糧入れを成功した今川方が何時(いつ)この砦の攻撃を始めても不思議ではないのだ。何時(いつ)までも門前で押し問答を続ける訳にはいかなかった。

「丸根砦の守将・佐久間盛重(もりしげ)殿にも立場がある。佐久間(盛重(もりしげ))殿も(織田)信長様より主命を帯びて砦を守っておられるのだ。此方(こちら)は砦を放棄した身。拒絶されれば従うしかあるまい」

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)の懇々とした説得に納得したように佐々政次は目を伏せる。佐々政次とて理性では理解出来ていた。しかし、矢を射掛けられ行き場のない怒りを抑えられないのだ。

「・・・ではこれから如何するか?」

 彼はぼそりと呟く。

「取り敢えず、鷲津砦に向かいましょう。向こうは(織田)信長様の一族である織田秀敏様が守将に入っておる」

正光寺(しょうこうじ)砦は・・・」

 佐々政次が未練がましく守将を勤めていた正光寺(しょうこうじ)砦の方角を見遣る。

「諦められよ。既に正光寺(しょうこうじ)砦だけでなく向山(むかいやま)砦、身どもが守っていた氷上砦(ひかみとりで)も今川方に押さえられておる。斥候(せっこう)の報せでは大高(おおだか)城周辺は今川の兵が充満しており、砦に返す事も叶わぬ」

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)は消沈した声で言う。

「・・・判り申した」

 佐々政次は消極的に頷く。二人は会話する中で、鷲津砦も入城を断られる事を内心察し合っていた。


 二人は丸根砦を後にし、丸根砦の西方に位置する鷲津砦に向かう。鷲津砦は1008㎡ある丸根砦よりも一回りも二回りも小さい平方m675㎡しかない小さな砦だ。一縷の望みを抱いて二人だが、鷲津砦の守将・織田秀敏からも砦に入る事は拒否された。

「済まぬ、|千秋(季忠)《せんしゅう(すえただ)》殿・佐々(政次)殿。鷲津砦は余りに小さい。これ以上の入兵は出来ぬのじゃ」

 守将である織田秀敏は門の前の柵より申し訳なさそうに二人に謝った。鷲津砦は海岸線沿いの険峻な断崖上に立てられた小さな砦であった。

「ならば門の前で前衛を・・・」

 佐々政次の願いに織田秀敏は無常に首を横に振る。鷲津砦に繋がる主要道である大高(おおだか)街道に今川方の兵を誘い込み、これを撃破するのが戦略だった。大高(おおだか)街道に味方が居てはそれが出来ず、逆に付け入れられる懼れもあった。味方は多ければ多いに越した事はないが、戦略上支障になっては兵は生かせぬ。

「門に続く細い山道はこの砦の生命線。南東の丸根砦と連携しておる。それだけは出来ぬ」

 更に言い募ろうとする佐々政次を千秋季忠(せんしゅうすえただ)が思い留ませる。

「佐々(政次)殿」

 一瞬、二人の視線が強く交差する。先に折れたのは佐々政次であった。彼の心にどのような思いが去来しているのか。

「行こう」

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)が強く促す。暫く留まった様子の佐々政次であったが、悄然と肩を落とし、千秋季忠(せんしゅうすえただ)に従うように歩き出す。

「・・・済まぬ」

 背後で織田秀敏の言葉が聞こえたような気がした。

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊は鷲津砦を迂回し、砦の西側から北上する事になる。行き先は中嶋砦であった。 

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