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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
12/84

1560年 6月12日  1:30 尾張国/向山砦・正光寺砦

  1560年 6月12日  1:30 尾張国/向山(むかいやま)砦・正光寺(しょうこうじ)

   織田方 千秋季忠(せんしゅうすえただ) 150人・佐々政次 150人



   正光寺(しょうこうじ)

        

「おのれ、ここまで易々と大高(おおだか)城への兵糧入れを許すとはっ!!」

 佐々政次は砦の櫓に立ち、歯噛みしながら大高(おおだか)城に向かって移動する朝比奈泰朝・松平元康隊を見逃すしかなかった。織田信長のそもそもの戦略である大高(おおだか)城砦群包囲網では、大高(おおだか)城救援の今川方の後詰(兵糧入れも含む)を防ぎ、もしくは、今川方の大高(おおだか)城方面隊を撃退し、今川方の他の方面隊を大高(おおだか)城に引き付け、義元本隊を桶狭間に誘き出し、これを討つ事であった。その根底が崩れてしまったのだから、佐々政次が悔やむのは無理なからぬ事であった。

「よいか佐々(政次)殿、決して兵糧入れを邪魔してはならぬ。下手に突けば反撃を受け、砦に敵が押し寄せればなす術もなし。悔しいとは思うが、自重してくれ」

 氷上砦(ひかみとりで)の兵を纏めるため正光寺(しょうこうじ)砦を後にした千秋季忠(せんしゅうすえただ)は、去り際に口を酸っぱくして佐々政次を繰り返し自制を促した。此処(ここ)は専守防衛の一点であると。

(判っている、判っておる)

 佐々政次は千秋季忠(せんしゅうすえただ)の言葉が正しいとは理解していながらも、感情に流されかねない自分を抑えていた。松明を灯した朝比奈泰朝・松平元康隊が足早に正光寺(しょうこうじ)砦の麓を通り過ぎて行く。小荷駄隊は多くの兵に囲まれ、佐々政次の目から見ても隙が無い。

(誰じゃ、隊を指揮しているのは?)

 悔しい中で、佐々政次は今川方の兵の統率には感心していた。朝比奈泰朝・松平元康隊が正光寺(しょうこうじ)砦の麓を通過し、大高(おおだか)城に入って行くのを、正光寺(しょうこうじ)砦を守る織田兵達は憎しみを込めて睨んでいた。苛立ち紛れに矢を明後日の方向に放つ輩もいた。だが佐々政次は咎める事はしなかった。敵を前にして何も出来ない悔しさを佐々政次自身が一番理解していたからだ。朝比奈泰朝・松平元康隊の姿が完全に消え、正光寺(しょうこうじ)砦も初めて安全を確保する事が出来た。

(それよりも・・・)

「我々も準備せねばなるまい。合流する千秋季忠(せんしゅうすえただ)隊を待たせる訳にもいかん」

 佐々政次は率先して、正光寺(しょうこうじ)砦を離れる指示を始めた。彼の視線が一瞬向山(むかいやま)砦に見、そして遥か後方の緒川城を睨みつけた。



   向山(むかいやま)


「よし!」

 氷上砦(ひかみとりで)へ戻り兵を纏めた千秋季忠(せんしゅうすえただ)は、直接正光寺(しょうこうじ)砦には向かわず、向山(むかいやま)砦に身を潜めていた。朝比奈泰朝・松平元康隊が大高(おおだか)城に向かっていたため、此方(こちら)の動きを気取られぬためである。また、正光寺(しょうこうじ)砦が万が一攻撃を受けた際の備えの意味もあった。

 朝比奈泰朝・松平元康隊の後方隊が完全に見えなくなってから、千秋季忠(せんしゅうすえただ)隊は動き出した。


 正光寺(しょうこうじ)砦に辿り着くと、既に佐々政次隊は準備が整っていた。

「済まぬ、佐々(政次)殿。少し時間がかかってしまった」

「問題ありませぬ。さ、先を急ぎましょう」

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)は佐々政次が突出する事を懸念していたが、佐々政次は非常に落ち着いているように見えた。

(心配し過ぎたか)

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)は心配性な自分に苦笑するしかなかった。

「今川方は?」

向山(むかいやま)砦で窺っていたが、全ての兵が大高(おおだか)城に向かった。心配あるまい」

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)はしっかりと頷く。

「では参ろうか」

 2つの隊は合流して、一路北の丸根砦を目指す。既に使い番を丸根砦に向かわせていた。両隊(佐々政次・千秋季忠(せんしゅうすえただ)隊)に元気はない。大高(おおだか)城への兵糧入れをみすみす逃し、守っていた砦を退去せざるを得ないのだから。大高(おおだか)城に入った後詰(朝比奈泰朝・松平元康隊)が大高(おおだか)城場周辺に哨戒兵を展開する前に砦を離れなければ今川方に捕捉される可能性があったため、両隊(佐々政次・千秋季忠(せんしゅうすえただ)隊)は迅速に動かなければならなかった。

 佐々政次は前方を見遣る。どの兵も頭を下げ、元気がないように見える。

(拙者も兵から見れば、悄然としているように見えるのだろうか)

 佐々政次は自嘲気味に思う。

 将も兵も足取りが重かった。

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