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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
10/84

1560年 6月12日  1:30 尾張国/大高道/大高街道合流地点

  

   今川方 大高(おおだか)城方面隊

    丸根砦攻撃隊 2000人 主将・松平元康・副将/・酒井忠次/軍師・石川家成

    鷲津砦攻撃隊 3000人 主将・朝比奈泰朝/副将・匂坂(さぎさか)長能/先鋒隊長・久貝(くがい)正勝/次鋒隊長・新野親矩(にいのちかのり)/三隊長・本多忠真/後方隊長・大原資良(すけよし)/本多忠勝



「誠でござるか?」

 手紙を見せられ、松平元康の家中の者が驚きの声を上げる。

 松平元康はいつもとは違う年相応の笑顔を見せる。

「実は・・・」

 沓掛城(くつかけじょう)を出立する際、水野信元に手紙を送り、先程返事が返ってきたと話す。

 松平家と水野家の紐帯は厚い。松平家の先々代・清康の頃より、尾張国東部・三河国は今川家と織田家の係争地となっていた。言わば両家の代理戦争を松平家と水野家は行っていたのだ。勿論、ただ争っていただけではない。お家の生き残りを懸け、水面下では同盟を結んでいた。両家当主は今川家・織田家の盛衰を巧みに読み取り、戦国の世を生き抜いてきたのだ。

 今、今川家が攻めに転じ、織田家が受けて立つ構図となっている。当然、攻める側は有利である事は明らかだった。

「これで兵糧入れも成功したも同然」

 松平元康の家臣である酒井忠次が手放しで松平元康の(はかりごと)を褒める。

「あいや、待たれよ。大高(おおだか)城の南には、まだ砦が二つ残っていたはず」

 もう一方の将である朝比奈泰朝が指摘する。

 酒井忠次は渋い顔になる。

「いえ、問題ないでしょう」

 松平元康は静かに断言する。朝比奈泰朝は先を促すように松平元康に視線を送る。松平元康は一つ咳をして、

「確かに(朝比奈)泰朝様の申す通り、大高(おおだか)城の南から南東にかけては3つの砦がございます。しかし、此度の仕儀により、向山(むかいやま)砦は無人になりました。これでは向山(むかいやま)砦を挟んだ残りの砦は連携が取れません。細作の調べでは両砦には合わせて300ほどしか残っておりません。向山(むかいやま)砦の水野勢1000人がいれば両砦を含め、北の丸根砦・鷲津砦と連携され、兵糧入れも容易ではなかったでしょう」

 松平元康は理論整然と説明する。朝比奈泰朝は唸るしかなかった。

「では、兵糧入れの経路は如何いたす?」

 松平元康は開かれた絵図面を指差す。

「この場所から道を南に外れ、川沿いに進みます。正光寺(しょうこうじ)砦に近くなりますが、先程申した通り兵力不足で単独で我が軍(朝比奈泰朝・松平元康隊)に横槍は入れてこないでしょう。無論、用心は怠りませんが・・・。この経路を使うメリットはもう一つあります。一度川を渡れば、北側が川となり、天然の濠として北側の丸根砦・鷲津砦を牽制出来ます。また、丸根砦・鷲津砦から距離があり、間には大高(おおだか)城もある。織田方もそう簡単に、砦を空にしてまで我々の邪魔は出来ないでしょう」

 朝比奈泰朝も含め配下の者達は絵図面を凝視する。

「・・・ふむ」

 朝比奈泰朝は納得したように息を吐く。

「それでよいでしょう」

 配下の者も朝比奈泰朝に追随するように首を振る。

(怖ろしいほどに完璧な戦略だ)

 朝比奈泰朝は敵にしたくないなと不意に思った。


 経路は松平元康案を採用する事で決し、足軽がまず先行し安全を確保した上で、小荷駄隊を急かす。幾ら敵が少ないとは言え、油断は禁物と松平元康と朝比奈泰朝は示し合わせ、速やかに正光寺(しょうこうじ)砦付近を通過する事にした。

 道を外れ、一旦川を渡らなければならないため、小荷駄隊が川を渡る時は兵が先行して辺りを警戒した。小荷駄隊は浅いながらも川を渡る事で動きを鈍くした。もっとも緊張が走る瞬間だった。

(拙者が織田方であれば、この時を逃さぬが・・・)

 朝比奈泰朝は警戒の手を緩めずに思った。

 松平元康の指摘通り、正光寺(しょうこうじ)砦からの兵糧入れに対する妨害はなかった。勿論、正光寺(しょうこうじ)砦が無人だった訳ではなく、見張り番の姿は見えたし、松明に照らされて映る人影も確認出来た。

 小荷駄隊も含めた全ての朝比奈泰朝・松平元康隊が正光寺(しょうこうじ)砦前を抜けるまで二人の緊張は最大限にまで高まっていた。時間にすればそれ程長くはなかったはずだが、分単位・秒単位で流れる二人の時間間隔は非常に長く感じられたのだ。正光寺(しょうこうじ)砦前を通過し、大高(おおだか)城の灯りが見えた時、二人は初めて心が弛緩し、どっと疲れが身体中に出た。

 だが、二人の苦難はここで終わりでなかった。

「・・・妙だな」

 朝比奈泰朝が大高(おおだか)城を見遣りながらぽつりと漏らす。朝比奈泰朝の呟きを聞き咎めた松平元康が朝比奈泰朝を仰ぎ見る。二人は馬を並べてゆっくりと並走していた。

「如何なされた?」

「見張りの兵がおらん」

 松平元康ははっと前を見る。

「そう言えば・・・」

 二人は不安に駆られ、自然と馬の足を速めた。

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