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童話

童話:コソ泥ムネトの歌

作者: 夢のもつれ

 ムネトはコソ泥でした。お話の世界だとカッコイイ怪盗や気の毒な人たちを救う大泥棒が活躍しますが、ムネトはそんなのと違って、子どもからキャンディーを取り上げたり、犬の餌の肉を横取りしたり、つまらない悪事ばかり働いていました。


 今日も町のお巡りさんにお説教をくらっています。


「ムネト。おまえいつまでバカなことばかりやってるんだ? おれはおまえの亡くなったおっかさんから、『どうか息子の親代わりになってやってくれ。父親がわからないあいつを父親だと思って叱りつけてやってくれ』って、息を引き取る間際まで頼まれたんだぞ」


「ちっ。おふくろはもう死んじまって、いないんだからもういいじゃないですか。あんただって暇じゃないんでしょ?」


「おまえがそんな態度なら、牢屋で一晩頭を冷やしてもらおうか。無銭飲食は立派な犯罪だからな」


「そんなんで済むなら……いえ、何もありませんよ。いや、牢屋とはつらいな。あはは」


 牢屋に連れて行かれると誰もいません。


「いくら平和な町だとは言え、誰もいないのは珍しいですね」


「まったくだ。ここんとこ誰も悪事を働かないからな。おまえが一週間ぶりにここに入る人間だ」


 お巡りさんはしっかりと鍵を掛けて、おやすみを言って去ります。ムネトもごろっと横になり、何の気なしにつぶやきました。


「今日もつまらない一日だった」


「そうなんだ。最後の日なのにね」


 びっくりして起き上がりました。かわいい女の子の声でいきなりそう言われたら誰だって驚きますよね。


「どこだ? どこにいる?」


 暗い牢屋のあちこちに目をやります。月の光が差し込んでいます。


「ここよ」


 女の子は座っていました。でも、それは床にではなく、天井に。


「ひっ! 化け物!」


「失礼ね。こんなかわいい化け物がいるもんですか」


「じゃ、じゃあ、なんだよ。人間じゃないだろ?」


 女の子はちょっと考え込むような素振りで言います。


「それはそうね。推理してみて」


「さっきおれの死期を……おまえ、死神か?」


「正解! コソ泥のくせに勘がいいわね」


「死神ってもっとこう、怖いものだと思ってたが」


「怖い方がよかった?」


「いや、そうじゃない。正直怖いのは嫌だ」


「死ってすごく怖くて、すごく気持ちいいものなの」


 天井からムネトの顔を真っ直ぐ見て言います。逆さまの顔だと表情がわかりにくいです。


「気持ちいいなんて嘘だろ。騙して連れて行くつもりだろ?」


「あはは。あなたじゃあるまいし。もうすぐ死ぬ人を騙してどうするの」


「おれが死ぬのは決まりなのか?」


「そうね。明日の陽が昇る前に連れて行くわ」


「じゃあ、仕方ないか。それまでおれの話し相手になってくれないか?」


「あっさりしてるわね。そういうのも仕事のうちかな。誰でも誰にも聞かれずに最期に言っておきたいことってあるみたいね。言ってみて」


「おれはずっと逃げてきたんだ。最初は学校だった。好きだった女の子がいたのに、どうしても好きだと言えないまま卒業してしまった。あの子はそんなに好きじゃなかったんだって自分にうそをついて」


「よくあることじゃない」


 女の子は足をぶらぶらさせながら聞いています。背中で結んだ大きなリボンが暗がりの中でもはっきり見えます。


「次はおやじだ。友だちの父親がおれに言ったんだ。酒場でいつも飲んだくれている男がおふくろと作った子どもがおれだと。おれは自分はあんなだらしない男とは違うと証明したくて、あの男の前に立ったんだ」


「何も言えなかったんでしょ」


 女の子は髪の毛をいじりながらすぐに言いました。


「意地悪だなあ。そのとおりだ。あんなやつはいずれ天罰が下るなんてごまかしてな」


「あなたの問題は他人につく以上に自分にうそを吐くところじゃないかな。今更手遅れだけど」


「そうかもしれない。まあ、続きを聞いてくれ。仕事だ。これは本当に駄目だった。学校の先生に勧められて鍛冶屋の見習いになったのに、友だちにそんなキツイしごとやめて、行商をやろうって。だのに売り物を仕入れるカネまで博打に使っちまった。――博打ってのは勝てるって幻想の魅力もあるが、負けたら破滅だって思うのがいちばんの快感なんだ」


「どうしようもないわね。博打は駄目だけど、自分に合う仕事を探していろいろやってみるのは悪いことじゃないわ」


「二十回だぞ! いや、二十二回か? そんなに転々としてると」


「誰も雇ってくれないよね」


「やっぱりそうなのか?」


「雇う側に立ってみたらわかるでしょ。履歴を偽る気力もないのかって思うかもね」


 女の子はため息交じりに言います。


「大人になってからは仕事も決まったのがなくてふらふらしてるのに、なぜか女にはモテたんだ。しかし、なぜだか続かないんだ」


「あなたが女を真面目に考えずにうそで固めてたか、女があなたを真面目に考えずにその場しのぎのうそをついてたからでしょうね」


「あ、そうか。なんかわかった気がする! おまえ子どものくせにすごいな」


 女の子はふくれっ面になって言いました。


「だから、あたしは子どもじゃないって」


「化けてるのか?」


「化けてもいないの。逆よ。あなたにとっての死ってこういう感じなの。心当たりない?」


 ムネトは一瞬息を止めて、見上げていた首が疲れたというような仕草をして、視線を落としました。


「心当たりなんかない。ちょっと疲れたな。寝るよ」


「うん。連れて行く前に起こすね」


 ムネトは眠ってもいないし、眠くもありませんでした。


「ああ、そうだ。肝心のことを言い忘れてた」


 返事はありませんでしたが、ムネトは言葉を続けました。


「おれがなぜコソ泥になったかだ。さっき言ったみたいにおれはどの仕事も長続きしなかったんだが、コソ泥は続いてる。性に合ったんだろうな。ずるくても、だらしなくてもコソ泥だからで済ませてもらえる。困った奴だ、どうしようもない奴だって思われるのは慣れてしまえば楽なものなんだ。玉が転がっていって窪みに止まるようなものだ。うそという窪みに」


 ひと息吐きましたが、女の子の反応はありません。天井を見ても、牢屋の隅々まで見てもあの女の子の姿はありません。


「やれやれ、死神にまで見放されるとはね。……確かにあんたの顔には見覚えがあるよ。十年以上前に迷子になったあんたをおぶって、あちこち親を探したな。しかし、それとおれの死と何の関係が」


 その時の気持ちを思い出そうと一生懸命考えます。


 はっとします。たぶんこんなことを言ったんじゃないかという気がしてきました。


「おれは背中の子に『もしいくら探してもおまえの親が見つからなきゃ、一緒に暮らそうぜ』って言ったんだ。そうして、こんなデタラメな歌を歌って女の子を慰めたんだ。


  おれはおまえの親じゃないし

  おまえはおれの子どもじゃない

  でも、なかよく暮らしていければ

  楽しく毎日が過ぎていければ

  それはもう家族みたいなもの

  ホイさ! やれさ!


  悲しいことがあっても

  おれはおまえの頭をなでてやるし

  おまえはおれの涙をぬぐってくれるだろう

  いつか終わりが来るかもしれないけど

  それまで楽しくやろう

  ホイさ! やれさ!


 ぐずってた女の子はいつの間にか眠っていた。親はわりとすぐに見つかったが、そういうことか」


「思い出せた?」


 女の子がふわりと降りて来て、言いました。窓を背にしているので、長い髪の毛が虹色に輝きます。


「ああ、わかったよ。うそっぱちの歌を歌ってたあの時がおれの人生でいちばん楽しかった瞬間だ」


「じゃあ、行こうか。……おんぶじゃなくて手を握ってくれる?」


 太陽が地平線に姿を見せ始めました。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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