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異世界王子様ライフ3  作者: 銀紫蝶
第一部
9/56

翼風のギルドマスター


赤い大地に寂寥の風が叩きつける。


山脈から吹き降ろす風は、砂塵と、濃密な瘴気と、猛り狂う魔物達を連れて来る。


辺境の都市、三日目の朝。





寝苦しさに自然と目が覚め、眼を開けると子狼がじっと、外を見詰めていた。


なにやらピリピリと空気が緊張を孕み、宿屋の外、都市全体が騒がしい。


今日にも少し遠出して、山脈側を調べるつもりだったのだが。


木板の窓を少し開けると、黎明のうす藍の光と、ただならぬざわめきが、そこかしこから。


「レテュー?」


確認するように、呼びかける。


「……グル」


綺麗な灰青の毛皮が、静電気でも浴びたように、ぶわりと立っている。


何かあったのだろう。水を飲み、顔を洗い、情報を求めてギルドに足を向けることにした。




ギルド翼風は、外にまで人があふれている状況だった。


近くまで来たものの、物々しさに入れないでいたら、外に立っていた他のギルド員が、親切に教えてくれた。


「坊主、新人か。今日からしばらく通常依頼はムリだぞ。山下ろしがくる」


「山下ろし?」


山脈のふもと、深い森は魔物が多く、魔の森と呼ばれている。普段から危険な森だが、年に数回、魔物を一気に吐き出すらしい。


ぐるりと首を巡らせて、問題の山脈の方を眺めた。


確かに、この都市に着いた時より、はるかに濃密な魔の……粒子というか、よくない空気を、森全体に感じた。


「……」


「これからベテラン組みが対処にあたるから、宿に戻っといた方がいいぞ。落ち着くまで、一、二週間はかかるからな」


ザワザワと、冒険者達が話している。物資の調達、武器の話、他のギルドとの兼ね合い……様々な事を。


どうしようか迷っていると、道にたむろしていた冒険者達が、何かを見て姿勢を正した。


ザッザッと足音を立て、ギルド翼風に向かって来たのは壮年の男達。只者ではない空気を振り撒きながら、先頭にいた人物二人だけ、建物内に入って行った。


残りの追随してきた数人は、周りの冒険者を視線で威嚇しながら、入り口横に待機する。


中で何やら、言い争う声が。


つい、視線を飛ばす。


カウンターにいた受付嬢に、さっきの人物達が無理を言っているようだ。ギルドマスターを呼び付け、それを受付嬢が断ったらしく。


「小娘が、図に乗るなよ」


「……っ」


殺気を放つ男達。中にいたギルド員達も、殺気立つ。


一触即発の空気のなか、二階からゆっくりと降りて来て姿を現したのは四十代くらいの渋い男だ。彼が翼風の、ギルドマスターなのだろう。


ヤレヤレと気軽に肩をすくめ、乗り込んできた男達に向き直る。


「わざわざ足を運んでまで、なんの用だ」


見た目だけでなく声まで渋い。くたびれた疲労感漂う人物なのだが……温和そうに見えて、何か油断ならないものを感じた。


「山下ろしの件だ」


「ウチはいつも通りやるよ。そっちも変わらんだろうが」


「いや、今回の間引きは、縦列でなく、横にしたい。ウチが前列、中列を仕切る」


「……ふむ」


何の話か分からなかったが、黙って聞いていたギルド員が、みな驚き、悔しそうな顔になる。


翼風のギルドマスターは、じろりと相手を見返し、耐えている身内を見回し、片眉だけ持ち上げる。


「……そりゃあ、そっちが危険なんじゃねぇか? 人数足りんのか?」


「あんたはただ、承諾してくれればいい」


「……いいだろう」


「マスターっ!?」


受付嬢が叫んだが、男達は言質を取ったとばかりに笑い、さっさと建物から出ていく。


見送るように、ギルドマスターがドアまで顔を出す。実際に見ても、渋い。


歴戦の戦士といった風貌で……かち合った眼は、鈍色。


(……アレ?)


なんで、こっちに歩いて来るのだろうか。


「ふーん、お前が例の新人か」


「オン!」


レテューが返事した。周りが何故か緩んだ空気に。


「ちょっと来い」


肩をつかまれ、何を言うヒマもなく、ギルド内に連れて行かれた。


「マスター! なんで承諾したんですか! 後列じゃあ……って、……え?」


怒りマークがついていそうな受付嬢も軽くあしらって、何故か二階へ。


「マスター? なんで彼を」


「ちょっと内緒話な。誰も入れんなよ」


何故か誰も止めてくれない。執務室ぽい部屋に連れて行かれる。


初対面のはずだ。


シャツから頭を出す子狼の頭を一つ撫で、応接間の古いソファに座らされる。肩に、手が乗ったまま。


「……あの」


成り行きが分からず戸惑っていると、うっすら笑いながら言われた。


「覗き見は感心しねぇな」


──透視がバレている。


強ばるリュウキから離れて、テーブルの上の飲み物をカップに注ぐ。


「俺はカンだけ良くてな。嬢が気にしてたんで討伐記録見たが、ありゃあなんだ? ガキが倒せるランクじゃねえ。その子狼か?」


「オン!」


「……そうか。まぁ、そんな話じゃなくてな……。その遠見? スキルか何かか? それでちょっと、アイツらが何したいのか、見てくれねーか?」


リュウキのシャツの中から飛び出て、レテューはテーブルの上に座った。


ギルドマスターと対峙するように。


振られている尻尾を確認して、リュウキはうなすいた。


山脈に、用事があるのはリュウキも一緒だ。


だがまず──。


「さっきの人達は?」


詳しい話を聞かないことには、何も判断出来なかった。






「アイツらは、ギルド、金の船の幹部連中だ。山下ろしの場所取り……の前に、数を減らすため一回森に間引きに行くんだが……その隊列で、有利な位置を取りに来たワケだ」


初日に、親切な屋台のおじさんが説明してくれた話を思い出した。


たしか、商人? がバッグについているとか。なんとか。


「いつもは、ギルド事に縦列で割ってるんだがな。今回は、前列と中列……つまり、ほとんど総取を狙ってきたのさ」


ギルドマスターが、簡単に図を描いてくれた。山脈に踏み込む列を、縦でなく、横に三本引く。


「……あぶなくない?」


「はっ! 冒険者は魔物を狩ってナンボだからな。先に山に入った方が、実入りはいいし、大物を独占できるんだ」


「……」


事情はなんとなく理解したが、リュウキが呼ばれた理由が分からない。


「あの様子だと、他のギルドにも了承済みだろうな。ココでいちばんデカいギルドだ。まぁ、それはいつも通りでいいんだが……」


渋い男は、チラッとリュウキを見た。


「他に、なんか隠してるかも知れないんでな。坊主に、見てほしいのさ……アイツらが、何をしてるかを」


「……それって、オレもついて行くってことか」


「そうだ。頼んだぜ! なぁに、護衛はつけてやるし、報酬もはずむぞ? もちろん、ソイツにもな」


「オン!」


子狼が乗り気になっている。断る理由もなかった。山脈に連れて行ってくれるなら、ラッキーだ。


リュウキは快く承諾した。


「じゃあ、細かい事は当日教える。明日の朝、ギルドに集合だ!」





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