辺境都市
明るいうちになるべく歩き、日が暮れれば街道脇で適当に休む。
時折馬車に抜かされ、旅人とすれ違う。
子供がひとりっきりで旅しているのかと心配したり、逆に怪しむ相手もいたり。
狼の集団に襲われたり、野鳥に懐かれたり、熊に遭遇したり。なかなか賑やかな道のりだった。
国境とか明確にないらしく、途中の町からは別の国になっていたようだ。
適当に道を進んだ結果──リュウキがたどり着いたのは、辺境と呼ばれる山脈沿いの地域だ。
赤茶けた大地に強い風が吹き付け、巨大な連峰のふもとに、黒々とした森に囲まれた、赤と茶色の辺境都市がそびえていた。
山の方からそこそこ幅のある大河が注ぎ込み、赤い外壁で囲まれた都市は頑強そうで、賑やかだ。
都市のいたる所から細長い煙が立ち上る。鍛冶屋がたくさんある模様。そして何故か──たくさん行き交う武装した者達。
「ようこそ冒険者の都市へ」
身分証のたぐいがないことに直前で気付いたが、巨大な門をくぐるのに何もなかった。
馬車も旅人も何のチェックもなくどんどん都市へ流れ込む。正面から大きな通りが続き、石畳の道の両脇にはたくさんの店が軒を連ね、露店がひしめき様々な人種が歩き、悲鳴や怒号が飛び交い、血塗れの鎧集団が歩き怪しいローブ姿の集団が路地に消え──異様な騒がしさを見せつける。
耳を塞ぎたいくらいやかましい都市だった。
ふところにのびてきた手を反射的に避けるとチッと舌打ちされ、路地からのびてきた手をかいくぐったら後ろから悲鳴があがり、静かな脇道に踏み込んだら浮浪者ぽい集団に囲まれた。
「にーちゃん、めぐんでくれよー」
年端もいかない子供が、擦れた目付きで迫ってくる。
「……」
思わずため息がもれた。
チラッと見上げて密集した家屋の屋根上へ跳ぶ。
「えっ」
下から驚きの声があがったが、そのまま都市の中へと移動していった。
比較的安全そうな路地に降りて、目的のものを探す。
剣と杖が交差した看板──おそらく冒険者ギルドの建物。
屋台で串に刺さった何かの焼肉を買って、店主に確かめてみた所。
「冒険者ギルド? たくさんあるぜ? 坊主、よそから来たな」
「うん」
屋台の店主は面倒な顔もせずに、簡単に教えてくれた。
まず、この辺境都市ラッガルに領主はいないらしい。
山脈から連なる森からしょっちゅう魔物が降りてきて危険なため、貴族は内陸側に引っ込んでいる。
いるのは大小様々な冒険者ギルドに所属する冒険者や傭兵、冒険者相手に武器や装備をつくる職人たち、そして森の恵みで商売をする商人たちだ。
兵士はたまに様子を見にくるが、すぐに安全な都市に戻るらしく、治安が悪い。
「ギルドにも善し悪しがあるしなぁ。ナワバリ争いをしょっちゅうしてるぜ」
「……まともなギルドはある?」
「有名どころだと、【金の船】は大商人がバックについてる金持ちギルドで──【雪ホタル】は女しか入れんから安全だが坊主じゃ無理だし──【紅】は魔術師専門だし。……やっぱ【翼風】か」
「よくふー?」
「中堅どころだし、歴史だけは長いぜ。ちょうど向こう──木があるだろ。あそこら辺にあるぜ。ギルドごとに条件違うからな、見学してきたらどうだ?」
「ありがと」
串肉は美味しかった。勧められるまま、道を入る。
住宅と商店が混在するエリアの、ちょっと奥にそのギルドはあった。
木造の二階建て。かなり年季の入ったおもむきの滲み出る建物。入り口横にかなりの大木があり、そこだけ涼しげである。
近づいて見ると、確かに看板に【翼風】とある。
書いてある文字はこの世界の大陸言語だが、リュウキの視界に変換されて表示される。だいたい近い意味になるようだ。
レテューが興味深そうに見上げる。
「オン!」
気に入ったらしい。
木製のドアは開いていて、中に人もいた。中央にカウンター式の窓口が五つ。左側には奥に出入口とテーブル席の酒場。右側にも奥に出入口があり、外の馬車置き場と繋がっている。買取カウンターのようだ。
五つある中央の窓口には、一人ずつ受付嬢が。
利用する冒険者達は全体的に落ち着いた雰囲気で、若者より壮年の男達が多い。酒場で食事中の者達も穏やかに飲んでいて、うるさく騒ぐ者がいない。
きょろりとギルド内の様子を見回すリュウキに何人かは視線を向けてきたが、すぐに外れた。
「ギルド【翼風】へようこそ。新顔さんかしら?」
笑顔の眩しい二十歳くらいの受付嬢が、手招きをしてきた。
「オン」
「……あら、可愛い。狼の子?」
素直に窓口に向かうと、リュウキのふところから顔を出した子狼に、受付嬢がにっこりする。
「この街だと、ギルドに登録が必要って、聞いた」
「ええ。何せ冒険者の数が多くてね、仕事も多いから。振り分けないと管理ができないのよ。さて、ギルド登録は初めてかしら? 説明するわね」
カウンターの下に背もたれのない丸椅子があった。ちょっと説明が長いから座るように言われた。
まず、冒険者ギルドは大陸全土に設置されており、国の機関とは別組織であること。
仕事をこなすたびにギルド内でのランクがあがり、ランクは大陸統一。評価や報酬、交渉などは各ギルドに一任。報酬の一部から国へ税金分引かれること。
革紐の通された、四角い石を渡された。青と紫の混じった不思議な石。
「ハーテル鉱石で作られた組合証よ。獲物の獲得率や達成数、簡単な個人経歴なんかが登録されていくわ。ちょっと血を落として……」
小さな針の刺さった台が渡され、チクッと刺す。一滴血を落とすと、石が一瞬光った。
「はい、登録完了。どっちかの手首にはめて。──あら、リウ熊仕留めてるのね──えっ、この草原ウルフの数……」
受付嬢は何かブツブツ呟いていたが、登録は終わったらしく、リュウキは早速採取依頼をすることにした。
ギルドランクは初心者の8──組合証にはマッチ棒みたいな棒が8本刻まれていた。
都市の外壁をくぐり外へ──ラッガル辺境都市の周りは、平原と森。
山脈側の深い森は通称、魔の森。
逆に平原側は比較的安全。
てくてく草原を歩き、赤っぽい石を拾う。もぐらみたいな小さい魔物が地面の下から襲ってきたが、全てレテューが撃退した。
20匹くらい捕まえた所で、石も小袋いっぱいに溜まる。都市に戻り精算してもらうと、火晶石が三千ギル。モグラもどきは二万ギルで売れた。
安くて安全な宿を紹介してもらい、初日は終わった。