表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界王子様ライフ3  作者: 銀紫蝶
第一部
7/56

名もなき道を

魔麗大陸──世界の原初から、始祖の血族を護り、栄えてきたまれびとの麗しき麗人の国。

豊かな自然と高潔な人種は、美しく強く揺るぎがない、楽園のごとき国。


高度な魔法と魔導技術をあやつり、精霊達と仲良く暮らし、奢ることもなく慎ましく、理想の国。


麗人の国ユーレ。


麗華な国を護るのは、相反二対の聖女と屍皇、始祖三賢者と四方の魔女に五英雄。守護結界で国ごと護り、精霊達の目が見守り続ける。


だが海を挟んだ他の大陸──人族や亜人が暮らす大陸は魔にあふれ、魔物にあふれ、か弱き普通の人々は小さき国をつくり争い、滅びてはまた生まれている。


別世界ともいうべき隣の大陸の方角を、ユーレの麗皇は巨大な窓越しに見つめていた。


麗しき麗人は、ふと思いついたかのように傍らの人物に言った。


「ちょっと隣に行って……金色の子ををひとり、さらってきてくれ」


「──はぁ?」


唐突すぎるセリフにあやうく、飲みかけの高級酒を吹き出しかけた五英雄のひとり。


「さらってって……え、マジ?」


麗皇は軽くうなずき、英雄は頭を抱えたくなった。


「界が揺れた。見ろ──星の輝きにも等しい……」


麗しき皇の瞳はただ、夜空の高みで氾濫する光の流れる様をとらえる。


星が邂逅するは──ただ流れるまま望むままに。













「……っ!」


今まで感じた事のない悪寒が──身の危険がした。


思わず辺りを見回したが、何も無い平原である──草地と木々と大地のみ。


「オン?」


「いまなにか……ヤな感じがした……」


「クゥ?」


子狼は何も感じなかったらしい。変だな、とリュウキは後ろ首をさすさす撫でる。





現在、素材採取中。王都の隣の小さな町にいた。身分不詳の未成年でもできる仕事をさがしたら──ちゃっかりあった冒険者ギルド。


酒場併設の配置のせいか、初登録で酔っ払いに絡まれ、見事子狼が撃退するという些細な事件のあと、ペラい紙に名前だけ記入してゆるーい説明を受け、初心者用のクエストをしにきた。


石拾いである。


何やら火をもたせるための火晶石という石を小袋に集めるだけで、宿に一晩泊まれるかもしれないギルが稼げると聞き、地道に拾っていたが。


「こんな石ころで火がつくんかな……あ、ついた」


疑問に思いじっと眺めたら、ポツっと燃えた。マッチみたいだ。すぐに消える。


「オン?」


「うん。なんかうすいよな……。大地にも風にも、自然が薄い」


光も、弱い。


地球に近い。


魔力的な力が薄い。


「濃いトコ探すか……つながるかも」


「オン!」


賛成、と尻尾が振られた。


日が暮れる前にギルドに戻り、二千ギルをもらう。硬貨はかたい石だった。棒の数が数字代わり。


別に野宿でも良いのだが……社会勉強だ。ちまちま稼いでみるのもいいかもしれない。


小さな古びた宿で、五百ギル。シングルサイズのベッドがあるだけの四畳くらいの部屋。


「せっま」


「オン」


荷物がないので──寝れれば充分だが。


「……浄化」


何か動物の毛皮でも詰め込んだのか妙に臭い布団に、子狼と一緒に潜り込む。色々、魔法?使えて良かったと、しみじみ思いながら寝た。



翌日はお昼頃、ギルドに行ってみた。


酒場で料理も頼めるらしく、昼飯を頼んでみた。


王都近くの町だからか、人口も仕事もそこそこあるようだ。食事しながら人の流れや、会話に耳を傾ける。


小国だから豊かさはないが、周りの国は危ないらしい。普通に魔物が出て、盗賊もいて、商人は危険らしい。他国の噂は少なかった。小さな町では話題が入ってこないのか……乏しいようだ。


ちょっと危険かもしれないが、別の国に行ってみよう。そうしよう。


残った千ギルで、うす汚れたマントを露店にてゲット。フードつきである。



ちょっとだけ、みんなで旅したことを思い出した。











土でならされただけの道を歩く。歩く。テクテクと。


何か手が寂しかったので、手頃な木の枝を拾い杖代わりに。


平原、草原、林、森。道は蛇行しながら何処までも続く。


「……あのさ」


子狼が見上げる。


「レテューがいなかったら、アルデんとこ居たかも……」


なにもせずに。


助けが来るのを、ただ待って。


今まではそれで良かった。迷子になったら決して動かず、安全な場所で待つようにと口うるさく言われてきたから。


でも。


不安はあれど、恐れはない。


自分で先にすすめる……進みたいと思う。




「だから、行こう」


「オン!」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ