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異世界王子様ライフ3  作者: 銀紫蝶
第一部
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お城にて

竜が飛んでる、すげー。と感心して眺めていたのはリュウキだけだった。


「なっ……どういう事だ!」

「厳戒態勢だと?」

「これでは、城に──」


周辺の護衛の兵士さん達は大騒ぎである。どうやら、非常事態らしい。


報告を聞いてか、リフルやガレンが馬車から飛び出てきた。遠くに見えるお城の状況を、信じられないように見ている。


「くっ──いったい何が……」


「おかしいと思ったんだ! キルアルデの迎えを簡単に許可したから、裏があると思ったが──やつら、追い出しやがった!」


なるほど。


目を凝らして王都の外壁部分を見ると、門周りや外壁の上にも、兵士がびっしり配置されていた。


アルデを護る兵士らは百人くらいいるが、王都はもっと多いだろう。


「……空飛んでる竜は、なんて名前?」


「あれは飛竜です。さすがに近づくのは危険ですね……」


リフルが王都の四方に目をやりながら、顎に手をあて考え込む。


騒ぎを無視出来なかったのか、そろそろとアルデも馬車から降りてきた。


城の方を見て、息をのむ。


「まさか……ここまでしますか? 兄上……」


周囲の兵士達から気遣うような眼差しが集まる。


「聞いてなかったけど、お兄さんなんて名前?」


「ビルサルド兄上です……」


「外見、似てる?」


「……そうですね、瞳の色は、兄上の方が濃いですよ」


ふむ、とリュウキは思考する。


「グル……」


ふところの子狼が、お城の方を睨んで唸っている。何かあるらしい。


視界を飛ばす。


石造りの城。上の方の天井の高い室内に、人が集まっている。ここは──いわゆる玉座がある、謁見の間か。


まるで劇場のような場面が視えた。


「……ちょっと映す」


「え? ──っ!?」


全員が見えるように、空中に画像をつなげた。映画館のスクリーンを想定して、リアルタイムで音も拾ってみた。


「なっ!」

「おおっ!」


リフル達が、兵士達が唖然と映像を見上げ──すぐに押し黙った。いままさに謁見の間にて、玉座に座る王と王妃に何か訴える王子らしき人物の姿が──あまりにもリアルに見えたのだ。


『──から、再三申し上げました。私が姫と結婚する際には、王座を譲っていただくと。聞き入れて頂きますぞ!』


キルアルデに似た青年は、少し目付きがおかしく見える。隣に寄り添うのは若い娘だが、笑顔が怖い美女だった。


玉座の王が顔をしかめる。王妃はオロオロとするばかり。


『まだ早いと何度も言ったはずだ! いい加減にせんか! だいいち……王位を継ぐのは長男とは限らん! 近頃のお前は……』


『まあ、陛下。ビルサルド様以外にどなたが王になると仰るのです? 私からもお願いを致しますわ──早くご隠居なさりませ』


『ゲルダ姫! 不敬ぞ!』


王が玉座から立ち上がり──姫と呼ばれた娘が不敵に笑った。


『小国の王が思い上がりも甚だしい……私は帝国の純血でしてよ? 逆らえばこんな国……』


───。


修羅場?


「……オン?」


どうしよっか、と思わず子狼と目を合わせた。


「リューキ! 頼む!」


ガシッと唐突に、アルデが突進してきた。


「あの場に今すぐ! 頼む!」


「……」


「キルアルデ様? 無茶なことを」


リフルがいさめようとしてくれたが、リュウキは目測で計算を済ませた。


馬車から心配げに降りてきたシャリーと、怒りで震えているガレンを手招きする。あと数人、いや数十人くらい。


「ちょっとこっちに……集まって……うん。行く」


え? と間抜けなつぶやきをもらしたのは、誰だったのか。


驚く間もなく、一瞬でつく。


硬い床に足がつき、リュウキが辺りを見回した時にはガレンが突っ込んで行った。遅れてアルデも、シャリーはちょっとふらついていたが、なんとか立っていた。


兵士達も顔が引きつっていたが自分達の役目を思い出したらしく、さっと動いた。


王と王妃の安全確保。踏み込もうとしていた兵士への牽制。


「なっ」

「キルアルデ!?」

「どこから──」


姫が投げつけた小瓶は、王を庇ったアルデにぶつかって割れた。赤い液体がかかり、アルデが倒れる。


「殿下!」


リフルが駆けつけ布で拭き取ろうとして、青ざめた。


「これは──」

「触れただけで死ぬ致死毒よ! 邪魔者にはふさわしいわねぇ!」


剣を抜いた第一王子はガレンが取り押さえ、王妃にはシャリーが走りよった。


「あ……そんなっ……キルアルデ!」

「王妃さま! ダメです!」


姫君がまだ、王を狙っている。



「オン!」


「きゃっ……!」


子狼が長いスカートの裾を踏みつけた。びたんと姫君は転ぶ。コロコロと、小さな短剣が転がっていく。


慌てて兵士が姫君を押さえた。


「……」


終わったかな? と、リュウキは遠回りにキルアルデに近づく。泣きそうなリフルの隣にしゃがみ込んだ。


「浄化──治癒……」


髪を振り乱した姫君が、信じられないと目を見開いていた。


「なっ……なっ……何者よ!」


「──最近のお姫様って、こえーのな」


リュウキの独り言に、アルデは笑いを堪え、苦笑して答えた。










家族の問題は家族で済ませて欲しかったので、早々にお城を辞退する。


姿を消して、気配も消して、こっそり王都に踏み出す。


街並みはやっぱり西洋風だ。住民達は不安そうに空をうかがっているが、そのうち厳戒態勢は解かれるだろう。


見知らぬ街と人々を見回し、本当に異世界なんだなと実感した。


じわじわと、今頃。




リュウキの家族は………声も届かない………遠すぎだ。





「……オン……」

















(──ッ──ッ……!)




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