馬車
さすがに高級な馬車は乗り心地が違う。
というか、馬車の中自体、違う。
広い室内。フカフカの絨毯。綺麗な装飾の壁。天井。つりさがるシャンデリア。応接間にしか見えない。
重厚な木材のテーブルセットと椅子。メイドさん付き。
「……馬車?」
「ふふっ、驚いたかい? 空間拡張付きの馬車なんだ! 朝食は食べた? お茶をいれさせるね」
さっきまで泣きそうな表情と声を出していたアルデは、悪戯が成功したとばかりの満足げな様子。
降りようかと思ったが、後から乗り込んだリフルにドアを閉められた。
「申し訳ありません。席にどうぞ」
「……」
やっぱり苦手だ。むすっとしながら仕方なく椅子に座る。
馬車の中にはもう一人、先に座っていたのは騎士っぽい。テーブルに肩肘をついて面倒そうに見ている人間を騎士と呼べるのなら。
リフルから咎める視線が飛んだがどこ吹く風で……後頭部をメイドさんにはたかれていた。
「てぇ! なにしやがる!」
「客人と主の前で、なんて態度ですか。恥を知りなさい」
「うるせえ! 泣かすぞ!」
「リューキ、彼らは私の友人だから、気にしないで。リフルも座ろう。メイドがシャリーで、護衛騎士がガレンだ」
「……リューキ様、よろしくお願いいたします。キルアルデ殿下の専属メイドでございます」
メイドさん……外見は普通に可愛い雰囲気なのに……。
「……よろしく。キルアルデを助けてくれたんだってな。礼を言う」
護衛騎士は年上のはずだが、ぶっきらぼうなのは見てわかった。礼を言いながら視線が右往左往していた。
「全く……リューキ様、申し訳ありません。身内ばかりだと礼儀を忘れてしまう者達で……私はキルアルデ様の側近です。そして、シャリー? 殿下呼びは一応、城に着くまで秘密にするようにと──」
「あっ! そうでした! 申し訳ありません殿下!」
「お前たち……いや……もう良い……」
アルデの肩が、また落ちている。
とりあえず、堅苦しい対応はしなくて良さそうだ。
「オン!」
「……俺はリュウキ。こっちはレテュー」
ふところから抜け出し、子狼は膝上に陣取った。ひとりひとり顔をじっと眺め、OKは出たらしい。
珍しそうにみんなが子狼を眺める。
「可愛い……」
「狼か? 珍しい色だな」
「賢そうですね」
お茶が配られ、最初から話をした。
森の中でアルデが倒れていたのを見つけた事。
町へ行ったら、武装集団がいた事。
話しながら、奇妙な石を拾ったことを思い出した。
「そうだ、コレ……その武装集団のリーダーが持ってた」
「!」
「それは……リューキ様、すみません、預かっても?」
「ん」
全員が顔色を変えたので、何か重要なものなのだろう。布に包み直して、リフルに手渡した。
どこか気楽な空気だったのに、急に真面目な雰囲気になってしまった。
アルデが椅子の上で、居住まいを正した。
「えっと、いまさらだけど正しく名乗るよ。私の名は──キルアルデ・ヴァルギ・ルデリウツ。しがない小国の第二王子だ。リューキのお陰で生き延びた……本当に感謝している。お礼は城に戻れたら」
王子様だった。
その後も色々話を聞かされたが、どうやらアルデを狙ってきたのは第一王子の周辺らしい。しかも最近まで仲が良かった兄が、大国から婚約者の姫君を迎えた途端、態度が変わってしまったとか。
「兄上が……っ、私をうとましく思っ……うぅ……っ」
最後は泣き出してしまったので、話はそこまでになった。
馬車の中には別の扉があり、ちゃんと寝室も客室もあった。そのまま、馬車の中で一晩過ごした。
翌日、昼頃にアルデの家に到着した。
もちろん、西洋風の立派なお城である。
「……クーン」
「ファンタジーだな……」
お城のまわり、空中を自由に飛び回る、竜たちがいた。