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異世界王子様ライフ3  作者: 銀紫蝶
第一部
21/57

追加料理



「スキルの売買? 平然とやってるのは、無法地帯の辺境都市くらいでしょ。普通の国でやったら、捕まるわよ」


「なるほど」


同じ宿屋にしばらく泊まる事を決めて、モイエンも同じ宿にした、翌朝。


遅めに、宿を出て、現在ギルドに向かっている。


少し疲労がとれたソワは、ゆっくり歩いている。


怪我はともかく、筋肉痛を魔法で治すのは駄目なのだ。可哀想だが、自力で歩いてもらう。


モイエンに、スキルの話を聞いたのは、空間倉庫が普通か知りたかったからだ。


とりあえず、昨日、七階までは迷宮を降りて、時々倒した魔物はそのまま倉庫に入っている。


ギルドに報告する時に、秘密にすべきか堂々と出すべきか、悩んだのだ。


「報告の事で気にしてるの? だったら大丈夫よ。簡易倉庫なら、たまに持ってる冒険者いるから。……というか、あたしもギルド登録すべきかしら……?」


「あ、でしたら私も。せっかくなので、お二人と一緒がいいです!」


動くのは辛そうなのに、嬉しそうにソワはニコニコしている。杖も、大活躍だ。


ずっと教会で育った彼女にとって、街や人を眺めたり、知らない事を知っていくのは新鮮で、とても楽しいのだ。


そういう事で、ギルドについたら少女二人の登録を済ませ、迷宮から取ってきた魔物などを、換金する事にした。


朝早くは過ぎて、窓口は空いていた。


この新共和国首都では、ギルドはひとつらしい。


換金場所を教わり裏手に回ると、かなり広いスペースに、素材置き場や、解体所があり、端っこに換金カウンターがあった。


かすかに冷たい空気が巡回され、鮮度に注意していると分かる。


なんともいえない匂いに、反射的に、空気の層をまとった。


「ん? 新人か?」


カウンターに近付いていくと、中ほどで作業していた男性が、来てくれた。


「獲物はどこだ?」


「……ここに出していいですか?」


三人の装備をつまらなそうに見遣り、愛想の悪い男はうなずく。


カウンターにも一応、鉄板が敷かれている。まず、二階辺りでとれた小物から出した。


「ふん、ラギか……ん? ……え? ……おっ、おい!」


すぐにカウンターがいっぱいになり、次は何処へ出そうかと、辺りを見回すと、慌てて男が手を振った。


「待て待てっ、あとどんだけあるんだ!」


「たくさん」


「なっ……」


たかが、七階までの獲物だ。向かってくる魔物だけ、モイエンが倒したので、そこまで数はない。はず。


男は苦い顔つきになり、カウンターの少し後ろの、空きスペースを指さした。


「そっちに出せ! おーい、仕事だっ」


奥にいた、別の者がやってきて、リュウキが積み上げた小さな山を、ガン見した。


「まだ昼前だってゆーのに……」


「全部、買取で」


昨日の分とは、言わない方が良さそうだ。得意顔のモイエンと、キョロキョロしているソワを連れて、精算が終わるまで、街を見回る事にする。


小さな木片に、ギルドの名前と番号が彫られた、換金用の交換証を眺めながら、つぶやく。


「数字が、棒の数か……」


「?」


「なんでもない」


文字が違えば、数の表記も全く違う。


違和感を飲み込みながら、屋台を眺めつつ、通りに並ぶ店を眺めて歩く。


雑貨屋、食堂、大工屋……装備屋と武器屋は別々のよう。


「装備って、どんなやつ?」


ゆっくり歩きながら、二人に聞いてみる。


「私は、とにかく動きやすいヤツね。これが一番、楽なんだけど……属性攻撃には耐えられないから……」


危ない場合は、逃げる事で対処してたとか。


反対に、ソワは申し訳なさそうな顔になる。


「装備、は分からないです、すみません。ただ、私も普段着ている修道着が、一番楽です」


そうなると。


通行する冒険者達を参考にしてみても、皮鎧や、部分鎧、その上から全身を覆うローブを着ている。


修道着や格闘着(?)の冒険者は見当たらない。


たまに奇抜な格好の人はいるが……。


考えながら歩いていると、布地屋を見つけた。


「……二人は、裁縫ができたり?」


「うっ、一応、出来るわよっ、下手だけど……」


「私は得意です。目が見えない時も、できたので」


ちょっとはにかみながらソワが、布地屋を仰ぎみた。


人の流れを邪魔しないように、脇に固まる。


「換金金額次第だけど、布地を買ってソワさんに仕立ててもらった方がいいかも。耐性つけたり、機能はオレが多分、付けられる」


「……っ、アンタ本当、ふざけてるわ」


「それは、良い案だと思います! 頑張って仕立てますね!」


二人が賛成してくれたため、ホッとした。あとは、武器なのだが。


つい、ちらっとゲームの武器が脳裏に浮かんだが……子狼を見ると、武器屋をつまらなそうに見ている。


「……つかえない?」


「オン」


ここら辺の武器屋は駄目らしく、後で探す事にした。





時間をつぶしてからギルドに戻り、換金場所へ行ってみる。


さっきの男がすぐにカウンターに走ってきて、交換証を渡すと木片を渡された。


「かなり、状態と鮮度が良かったから、みんな上判定だ。全部買取でいいんだな?」


「はい」


「表の受け付けに、証を出せばギルド証にもポイントつけてくれるから、金は表の受け付けで頼む。また持ってきてくれ!」


「は、はい。ありがとうございました」


モイエンも、ソワもぺこりと挨拶して、三人で首を傾げながら表側に回る。


「なんか、態度変わってたわね?」


「そうですね」


まあ、ちゃんと査定をしてくれるなら、良い事だ。


ギルドの表側の受け付けに並び、交換証の査定の証を出すと、ギルド証も出すように言われた。


「かなり、良い獲物だったようですね。査定がみんな上、って、滅多にないですよ。こちらが報酬金額です。お確かめください」


代表して、カウンターに置かれた小袋を覗くと、かなり入っていた。


驚いて受け付けの人を見ると、にこやかに頷かれる。


ついで、三人のギルド証も返された。


「リューキ様だけ、ランクが上がりました。お二人は、作られたばかりなので……でも、今後も今日と同じ成果なら、すぐに上がりますよ」


期待の眼差しで見られ、困惑した。


そして帰り道、目をつけていた布地屋で多めに布を購入。


通常の布より、この世界では魔物の素材からの布が、高級品だ。付与もつけやすいと聞いて、良い布地を選んだ。


二人の分なので色を選んでもらうと、不思議そうに見られた。


「あんたの分は?」


「え」


「せめて、ローブだけでも変えなさい!」


わざと安物を着ていたが、不満らしい。この方が、目立たないと思っていたのだが。


「なに言ってんの、下の服がめちゃくちゃ高級品じゃない! おかしいわよ、せめて普通のローブにするべきよ!」


店員まで、うなずく。ササッと棚から、艶消しの厚手の布を取り出してきた。


「こちらはシルバースネークの皮を加工した一枚です。水に強くて伸縮性もあり、丈夫でございます」


「え、蛇ですか……」


ソワはちょっと嫌そうだ。モイエンも微妙な表情。


店員は、他の布地を取り出した。


「では、こちらはいかがでしょう。夜鳴きガカスの羽を編み込み、闇魔法を増加します」


「闇魔法は、ちょっと……仮にも女神様の信者なので」


「では、こちらが……」


少女二人のこだわりがけっこう細かい。店舗の壁を見詰めながら、リュウキは遅れて、気付いた。


何故、忘れていたのか、空間倉庫には衣服も大量にストックされている。


(───いや、アレらは無理)


機能も、見た目も、貴重性も限度を越えている衣服の数々は、母親が暇つぶしに作らせた服ばかり。


こっそり内容を確認すれば、世に出せない装備や、武器まである。多分、一生着ない。


「……あ」


布地もあった。慌てて、二人の少女を止める。


二人の分は購入してしまったが、自分の分は倉庫から出せる。


他にあてがあると言い聞かせ、布地屋を後にした。


市場で食品などを買い、宿屋に戻る。


「……他に、料理のレシピは?」


「……ヒマな時に」


「必ずだぞ! それまで逃がさないからな」


宿屋のオヤジと会話しながら、自室に上がる。


「どこで縫う?」


「あっ、そうですね……私の部屋で」


少女二人は仲良く、ソワの部屋へ。


「あ、待った」


二人に浄化をかけ、ついでに部屋にも掛けて、水とタオルを出すと、嬉しそうなソワとは違って、モイエンには呆れた顔をされた。


「有難いんだけど……まあ、いいわ、ありがとう。夕食は下よね?」


購入した布地と、折半した報酬を渡す。


「ああ、また後で」


女子が、彼女らの服を縫うその場に、男子の自分は居づらい。二人で小声で、下着も作ろうと相談していたから、余計にだ。


ひとりで部屋に入ると、少し気疲れしている事に気付く。


「オン?」


「大丈夫……」


ベッドに座り込み、ちょっとぼうっとした後、空間倉庫のマントやらローブやらを出してみる。


なるべく大人しめな色合いで、フード付きな物を選び、いまのローブと交換。


一瞬……母親の腕に軽く包まれた気配に、戸惑った。


「……」


ノロノロと、ついでに他に使えそうなものを見繕う。


ローブと似た色のブーツ。手袋。マフラー。宝飾品は……後回し。


短剣があった。


説明を読んで目を閉じる。


『光竜の爪剣』……神竜の爪から作られた不滅の短剣。光属性。全ての攻撃に耐性あり。


改めて、武器を下げられる帯もつけ、短剣を下げてみた。普段、武器なんて身につけないから、少し気になる。


他のも確認すべきなのだが……ちょっとだけ眠い。


子狼を撫でていたら、いつの間にか寝入ってしまった。








隣からも、外からも物音は聞こえない。


普通、宿屋なんて家鳴りや騒音が酷いものだが、この宿屋は作りが良いらしい。


ひろげた布地の上に、自分の服をあてて、色砂で印をつけていく。


せっかくだから、全部新調する事にした。胸あてと、腰布。あとは袖なしのフードローブ。


「報酬が、たった一回で銀貨20枚かあ……」


色砂で型どりをしたあと、布地を切り出していく。


「私、なんにもしてなくて……いいんでしょうか? ──ソワは気にするな! 我も……なにもできぬのじゃ……」


ソワの口調が急に変わるのも、慣れてきた。


彼女も修道服を脱いで、型どりをしている。いま着ている服も、自分で仕立てたらしい。裁縫が得意なのは、本当のようだ。


やたら細身で痩せているのは気になったが、もと孤児で、気が付いたら教会にいたという。


そのまま親切な修道女に育ててもらい、とても感謝しているのだと、話してくれた。


最近まで、目が見えなかった事も。


「リューキ様は、凄い方です。私の怪我も、一瞬で治癒してしまいました。眼は、ついでに治ったとか」


おかしいですよね、とモイエンに同意を求める。もちろん、強くうなずく。


「おかしいわよ! 治癒魔法なんて、教会の聖人様にしか、使えないはずなのよ! ここ何十年も、そんな話は聞いた事ないし……」


「……旧首都の、教会も直してくれたのですが……女神様の像から、病気も治る神の水が出るように……」


「えっ」


「──教会は、大丈夫じゃ。信者でなければ、侵入できぬようじゃ。この結界も、特殊すぎる」


「……よくわかんないけど、大変だったわね、ソワ。女神様も、また会えて良かったです。まさか、置いて行かれるとは……っ」


話しながらも、手は休めない。さくさく切って、チクチク塗っていく。


苦手な部分はソワに手伝ってもらいながら、二人は下着も作った。


新しい布地で作るだけで気分が違う。


笑い合いながら、袖を通してみた。


モイエンの巡教服は、生成りの白に近いグレー。


ソワの修道服は、薄い緑色。


「そろそろ夕食かな?」


「そうですね。一階に降りてみましょうか」


後片付けをして、部屋から出てみる。


一階の、食堂を覗くと──。


席は半分くらい埋まっていて、顔見知りになった宿泊客達が、気軽に手をあげたり、挨拶をしてきた。


厨房を皆が見詰めていて、理由に気付く。


いい匂いが、漂ってくるのだ。


五人掛けのカウンター、端の椅子に高級そうな服が畳まれ、その上に灰色の毛並みの子狼が乗っている。


持ち主が誰か、すぐ分かる。


「オンッ」


二人の顔を見て、尻尾が振られた。


「狼クン、リューキは?」


「たぶん、また厨房ですね……」


クスリと思わず、ソワが口に手をそえる。


「厨房?」


「メイン料理は出来てるから、先に食べといてくれ」


女将さんが、料理の乗った皿を運んできながら、言う。


「今度はなんだって?」


「スープらしいぜ」


「匂いが、たまらん……」


メイン料理は、野菜と鶏肉。


カウンター席に座りながら、ちょっと厨房を覗き込むと。


「あとは、弱火で煮込むだけだから」


「待て待てっ、どのくらい煮込めばいい!?」


「あー、一時間くらい? ……減ったら、水を足して」


宿屋のオヤジが、リュウキの腕をがっしり掴み、離すまいとしている。


モイエンは、そうっと姿勢を戻した。


「何アレ」


「リューキ様は、お料理も詳しいのです」


「はあ?」


疲れた顔をして、やっと解放されたリュウキがカウンター席に座る。


少女二人は、目が釘付けになった。服が変わっていたのだ。


襟付きシャツは滑らかなのにハリがある青色で、袖にもつくボタンは黒。


下は艶消しの丈夫そうな黒いズボン。ブーツはシンプルだが上質そうな焦げ茶色。


畳まれていたのはローブらしく、子狼のクッションになっているが、綺麗な紺色だ。


「くっ……」


「ふわぁ」


一瞬、見蕩れてしまったモイエンは悔しくなって、無理やり目を離す。


逆にソワは、うっとりと貴公子ぶりを堪能。女神様もご満悦。


宿泊客達は一度見ていたらしく、どこかの貴族かと勘違い。


自分に視線が集まっているのを困惑しながら見返し、リュウキはポンと、子狼の頭を撫でた。


「待たせた──服、できた?」


「あ……はい」


そっぽを向いているモイエンは放置して、ソワに問いかける。


「先に食べよ」


「はい。……今日は何を?」


リュウキが答えようと厨房を向いたら、ちょうどオヤジがカップを片手に持ってきた。


「坊主、味見してくれっ!」


「……鶏ガラスープ。──うーん、やっぱり煮込み時間が足りない」


「ぐう……仕方ない、明日に回すか」


肩を落として厨房に戻るオヤジに、他の宿泊客達が声を荒らげた。


「ええっ、こんないい匂いさせといて、そりゃあないぜオヤジ!」


「いま食べたい!」


「そーだそーだ!」


「わがまま言うんじゃねえ! ワシは上手いメシを食べさせたいんだっ! 明日まで待っとれっ!」


なんとも賑やかで、騒がしい夕食を食べ終えて、部屋に戻れたのはかれこれ、一時間後だった。


出来上がった服を持ち寄り、リュウキの部屋に集まる。


満杯のお腹を、少女二人は苦しそうに押さえて。


「美味しかった……っ、なんなの本当、もうっ、うぷっ……」


「幸せです。美味しいご飯をお腹いっぱいに……もう天に召されても良いくらいです──駄目じゃぞ、ソワ。いま死んだら、明日からの美味しい食事ができぬ……っ」


「……できた服、貸して」


注意したのに、限界以上に食べた二人が悪いのだ。


一時間煮込んだ鶏ガラスープは、絶品だった。オヤジの腕と舌が良いのだろう。


一階の食堂では、宿屋のオヤジと女将さんも一緒になって、客とともにしばらく動けなくなっているが。


二人から、仕立てたばかりの服を預かる。


(えっと──不壊、不浄、耐魔法攻撃、耐物理攻撃、あとはなんだろ……まあいいか)


適当に、付与を付ける。


ふわっと光が、服に吸い込まれた。


空間倉庫から、女子用のフードローブを二人分と、ブーツを取り出す。


「こっちは貸すから、あとは──」


腰につけるタイプの、小さなウエストポーチ。空間倉庫の機能がついている。


「できたら、荷物全部入れちゃって」


満腹少女達は、ぷるぷるしながら礼を言うと全部受け取り、素直に部屋に戻って行った。


大人しく受け取ったな、と見送り、ふと気付く。


「……料理レシピ、考えとかないと、ヤバいか……?」


「オン」


子狼が首肯した。



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