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異世界王子様ライフ3  作者: 銀紫蝶
第一部
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遭遇者

呆然としている間にも、刻は進む。


何度か母親に呼びかけてみたけれど、母親以外の名も心の中で呼んでみた。けれども。一向に事態はよくならない。


青い太陽のようなそれがゆっくりと回転し、空の色合いが次第に暗く移り変わり、吹き付ける風は冷たく体温を奪っていく。


(───)


手の中でアイスブルーの輝きが少しずつ、少しずつ、小さくなっている。このままだと……。


「……っ」


名を呼ぶことすらはばかられ、後悔ばかり胸を打つ。誘わなければ。一緒に遊ぼうなんて言わなければ。巻き込まずにすんだのに。


ふるふると、炎が否定したような気配がした。何かを探すように、草原を見渡して、ある方向を示す。あちらへ行けと……道を示す。


こわばる脚で、なんとか歩き出す。


示される意志を掴むことしか、いまはできない。


小さく見えていた森が目の前まで迫る。


どれだけの時間歩いたのか。明るさが完全に失われて、薄闇の世界に覆われていた。


近くまできてやっと気付く。気配。生き物の。とても弱々しい……


誰か草むらに隠れるように倒れていた。うつ伏せなため、長い髪とうす汚れたマントのような格好だけわかる。体格からして青年か。


人の姿を目にして、思わず安堵した。


少なくとも、人間がいるなら世界が異なっても、なんとかなるかも知れないから。


靴先で青年をツンとつついてみたが、意識がない。気絶している。


生きてはいるようだ。腕や脚や背中に、なぜか斬られた痕が見えたが……まあ問題あるまい。意識が戻ったらこの世界のことを聞こう。


問題があるのは魂だけの友人だ。なんとかしないと…………こちらの粒は使えない。形を作っても元の世界に帰れなくなる気がするのだ。だから。作るなら元の世界の原魄が厳守。


「…………あ」


あった。


リュウキは自身の身体を見下ろした。


あとになって考えても、なぜそんな事をしたのかそれ以外思いつかなかったのか。切羽詰まりすぎて冷静でなんていられなかったし、代案もないし。迷いもなかった。


左肩あたりから。


(──! ──!!)


抗議の意思が伝わる。


無視して創り始める。


「……あれ」


何度か創り変えたが、どうしても形が子狼になってしまう。綺麗な灰色に青が混じった、アイスブルーの瞳の獣。

小型犬サイズ。


「……クーン……」


同じように金色の光で包み、内側に入れると、魂は消滅を回避できた。


これで、この世界に存在して居られる。


ようやく、安堵した。


なくなった左腕をさがすように、子狼が身体をこすりつけてくるのを撫でて、リュウキはそのまま目を閉じた。





浮上する意識に従い目を開ければ、うっすらと朝日が差し込む森の中。


柔らかい草むらに埋もれるように、寝てしまったようだ。


子狼がいない。


いや、戻ってきた……小さな身体で同じくらいの何か獲物をとってきたようだ。もう身体は馴染んだらしい。たくましい。


「オン」


「……おはよ。……大丈夫か」


グイグイと頭を押し付けてくるのでつい撫でる。撫でる……温かい、毛並みが良いようだ。モコモコして、サイズはちっさいが一応狼ぽく凛々しい顔つき。ずっと撫でていたい欲求にかられたが、やる事がある。


虫の息の行き倒れは、まだそのまま動いていなかった。


仕方なく近寄り、浄化をかけてから治癒をした。何の問題もなくこの世界の粒もいじれた。


「……う……」


しばらく何かを探すように手探りしていたが、草むらを握りしめながらやっと半身を起こした。


まばたきを繰り返し、離れて見ているリュウキに驚いて身を引いたが、見開いた双眸は黄色っぽかった。髪色は白茶っぽい。無駄にキラキラしい青年。


「……えっ……? 君は……?? ここは……」


言葉が理解できた。相変わらず不思議便利機能も有効だ。


リュウキは、子狼が咥えてきた小さな獣を見下ろした。


「コレ、食うか?」






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