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異世界王子様ライフ3  作者: 銀紫蝶
第一部
11/56

紅のギルドマスター


大きな通りにつながる、横道。


宿屋や雑貨屋、武器屋など、中規模の店が並ぶ道は、人通りも多い。


周りに通行人がたくさんいるのに、リュウキの目の前だけ流れが止まった。


全く知らない相手だ。無視して脇を通り抜ける。


「待て、勝手に無視するな!」


口調が偉そうなのは、何故なのか。


宿屋は街にたくさんある。他の道沿いで探そうと決める。


「待っ……!」


他の通行人に紛れるように、透明になって、上へ飛ぶ。


屋根を歩いてばかりいる。密集しているので歩きやすいが。


適当に、良さそうな宿屋を見つけて、入った。


部屋の広さは六畳ほど。ベッドと、水桶のみ。


浄化、結界をかけ、さっき無視してきたローブの人物を探す。なんとなく予想がついたが……怪しいローブの人物は、ある建物に戻って行った。


小綺麗な、三階建ての石造り。ドアは重厚な木製で、全体に不思議な紋様が刻まれている。唐草模様と、木の枝。


看板を読む。


「……魔術師ギルド……(クレディアル)……」


一階はギルドらしく、カウンターや買い取り窓口、受付窓口、個室の相談所みたいなスペース。


二階は個室が多く、床に赤いカーペット。トイレや風呂場もあった。


三階は、幹部の個室とギルドマスターの部屋のようだ。裏に大きな倉庫。


昼間、間引きの時に話しかけてきた人物が、フードを下ろして椅子に腰掛けていた。


そこへ、さっきの怪しいローブの人物が、駆け込んでいく。


「マスター! すみません、逃げられました……!」


「……バカかお前?」


「ひっ、す、すみませ」


「きちんと、名乗って要件を伝えたのか? まさかいきなり攻撃とか」


「し、してませんっ……」


「もういい。下がれ」


逃げるように、ローブの人物が退出すると、魔術師ギルドのマスターらしき人物は、ため息をついて書類を眺めた。


今回の、間引きの獲物内容や、怪我人などのまとめた書類のようだ。


何か悩むように、頬杖をつき考え込んでいる。


「……感じたんだがなぁ、『聖』魔術の気配……」


メンバーリストを睨みながら、ブツブツ呟き、室内を歩き回り始める。


「……」


それから、意を決したように、ローブを被り直し、建物から出ていく。何処へ向かうのかと思ったら、


(翼風?)


透視は、翼風のギルドマスターにはバレる。仕方なく、見続けるのを断念した。


「……マズイかも」


「オン?」


一緒に透視していた子狼は、キョトンと首を傾ける。


リュウキは、まだ新参者である。信用されている、とまでは思っていない。


すぐに、街から出るべきか。


それとも、何か役立ちそうな情報を集めてからにするか。


「……明日、ギルドに行ってからに、しよ」


「オン!」


さっさと休む事にして、ベッドに横になった。


(……なんか……テントとか買うかな)










翌日。


宿を後にしてまず、雑貨屋で商品の値段を確かめた。


わざとゆっくり歩いて、ギルドに到着する。


予想通り、ギルド紅のギルドマスターが、受付前の壁に寄りかかって、腕組みして待っていた。


営業妨害だと受付嬢が睨んでいるが、全く気にしていない。


リュウキは知らないフリをして、受付カウンターに向かって歩いたが……。


遮るように立ち塞がれてしまった。


「君か……まさか、魔力を感じない……?」


「?」


(魔力?)


何事かと、室内の眼が集まる。


「新人君に何用ですかっ!?」


受付嬢が庇うようにカウンターから出て来てしまう。


紅のギルドマスターは、戸惑いを見せた。


「いや……確かめたかっただけだ。すまない。……君のスキルを教えてくれないか」


「スキル?」


「馬鹿な事、言わないでくださいっ! 他人にスキルを教えるなんて──」


「……いいけど、かわりにあなたのも、見せてください」


ザワっと、見ていたギルド員が反応した。受付嬢も目を剥いている。


これは、チャンスだ。この世界の人間がどういうものか分かるかも知れない。


知りたい事の、きっかけがつかめれば、御の字だ。


紅のギルドマスターは、驚いていた表情に、笑みを浮かべた。


「いいだろう、公平だ」


「あと、互いに知った事は、他言無用でお願いします」


「もちろん。……個室と、あれを貸してくれ」


受付嬢はリュウキと、紅のギルドマスターとを交互に見て、何か文句を言いかけ、飲み込んだ。


二階の、個室に通される。


テーブルと椅子があるだけの部屋。


いったん二人を案内してから、受付嬢は走って行った。何かを手に、戻って来る。


分厚い布にくるまれていたのは、ガラスのような、不透明な板だった。


「使い方は、こちらの人が教えてくれますが……何かあれば呼んでください。ドアの外に待機しています」


リュウキにそう告げて、受付嬢は部屋から出て行く。


改めて、向かいの椅子に座った相手を見れば、面白そうに口の端を釣り上げていた。


「名乗ってなかったな。ギルド紅の、ギルドマスター、ラクハレイだ。新人君?」


「……リュウキです。こっちはレテュー」


「オン」


「では、説明しよう。この石は、神の石版と呼ばれている。触れるだけで、その人物の情報が表示される、不思議な石だ」


リュウキはふうんと頷く。だいたい、予想通りだ。


「先にどうぞ」


「……まぁ、いいだろう」


ラクハレイが指先で触れると、石が淡く発光した。


しばらくして、文字が浮かび上がってくる。


名前、出身地、年齢の他、体力値とか、魔力値とか。最後の方に、スキルがあった。


魔力増幅、魔力収納、魔力倉庫、見事に魔力関係ばかり。あとは──魔神の恩恵。


(魔神? 神様? いるのか……)


知りたかった事が分かった。十分、手がかりだ。


じっくり眺めてから、目を離す。


「……触るだけで、いいんですね」


「そうだ」


相手が手を離すと、文字は消えた。


次は自分の番と、指先を置く。


表面が波打った。光が波紋のように瞬く。一瞬、壊れたらどうしようと思ったが、徐々に光は引いていく。


名前、は漢字がくずれて表示され、出身地は空白、年齢はちゃんと出た。


体力値は文字化けし、魔力値は0、肝心のスキル欄は。


治癒、浄化、結界、飛躍、透視、透過、空間倉庫、転移と、覚えた事が羅列されていく。


ラクハレイは、目を見開いて、食い入るように文字を読んでいる。リュウキには日本語で見えているのだが……相手には、何語で見えるのだろうか。


「もういいですか?」


いつまで経っても反応がないので、腕が疲れたリュウキは手を引っ込めた。


ガタンと腰を浮かし、引っ込めた腕を凄い力で掴まれる。


「待て──待ってくれ……っ、魔力値がゼロだと……っ!? そ、それに……治療と──」


ガブ。


シャツの中から半身を出し、子狼が噛み付く。


ラクハレイは、慌てて手を離した。甘噛みなので、怪我はない。


それより、慌てぶりが大袈裟だ。


よくやったと子狼の頭を撫でつつ、相手が落ち着くまで待った。


せわしなく、頭を振ったり拳を握ったり閉じたりし……最後に手のひらで顔を覆い、大きく息を吐き出す。


「奇跡か……」


きせき?


しばらくその姿勢のまま停止していた相手は、よたよたと立ち上がってテーブルを回ってきて、床にしゃがみ込んだ。


今更のように、フードを外す。


冴えない、頬のこけた二十代後半の男だ。透視で遠目に見たから容姿は知っていたが、わりとすっきりした容貌でシワが多い。


色素が抜け落ちた白髪は根元だけ褐色。見上げてきた眼も茶褐色。


「たのむ……いや、頼みます……! 治癒のスキルを、教えてくれ!」


大声を出したからだろう、ガチャッとドアが開かれた。


受付嬢かと思ったら、違った。


翼風のギルドマスターが、愕然とした顔で、立っていた。


聞かれていたようである。


後ろ手にドアを閉めて、近くまで来たギルドマスターは、椅子の背を掴み、リュウキの肩をがしりと握る。


立ち上がるタイミングを逃してしまった。


足元からラクハレイが退いて、今度はギルドマスターにマジマジと穴の空くほど見られる。


「治癒だと……? ベルの勘違いじゃなかったのか……!?」


「ベルラティか? 何かあったんだな?」


「昨日──」


リュウキを無視して、二人で話しはじめてしまった。


昨日、間引き中に、確かに擦り傷を負ったのに、なぜか傷が消えていたこと。


街に帰ってから、気になっていた彼はギルドマスターに念の為、伝えたらしい。


確かに、咄嗟に治癒してしまった。反射的だったので、どうしようもない。


他人事のように聞いていたら、いつの間にか部屋が静かになっていた。


そろそろと顔をあげると、二人のギルドマスターが凄く真剣な顔をして、リュウキを凝視している。


信じられないモノを見た顔だ。


石版に目をやって、リュウキは立ち上がる。


「待て」


「昨日の報酬は、もらえますか?」


「あ、ああ」


「先に、もらってきます」


動揺している二人を置いて、1階まで降りる。


話を聞くにしても、途中で退散するにしても、せっかく働いたのだ。活動資金は欲しい。


受付に並ぶと、好奇心の眼が集まってきたが、受付嬢が睨みを効かせているお陰か、絡まれなかった。


「昨日の、報酬金ね。リューキ君は、こちらになります」


小さな布袋で渡された。中を覗く。銀色の硬貨が五枚ほど。おそらく、五万円くらいの価値か。


「リューキ」


二階に上がる階段前で、ギルドマスターが手招きしていた。受付嬢が頷いたので、再び二階へ上がった。


先程の個室ではなく、ギルドマスターの執務室に連れて行かれる。内緒話をするには、こちらの方が良いのだろう。


三人がけのソファの片方に、座れと指さされ腰を下ろす。


向かいには、ラクハレイが。一人用にはギルドマスターが、ため息をつきながら腰掛けた。


テーブルには、水差しがそのまま。


「飲むか?」


首を横に振る。


子狼はシャツから這い出し、リュウキの膝上に待機した。つい撫でてしまう。


二人のギルドマスターは、頭を抱えて考え込んでいる。何がそんなにショックだったのか、内心不思議で仕方ない。


「……何か、話があるんじゃ?」


放置していても埒が明かない。仕方なく、リュウキから尋ねる。


男二人は、しばし視線で会話し、ラクハレイから口を開いた。


「……まず、聞きたい。君はどこかの、貴族の子息か?」


「いいえ」


そもそも、この世界の人間ではない。


「……では、なぜ魔力がないのに……治癒ができる?」


「知りません」


魔力は、ないだろう。この世界の魔力は。前から不思議だったが、リュウキの力は魔力ではなく──。


「……まさか、神の力か……っ」


それは正直に答えにくい。


ラクハレイだけ質問し、ギルドマスターはじっとリュウキの顔を見ている。血の気の失せた顔つきで。いや、肘をつき、組んだ手はかすかに震えている。


「数百年もまえに──女神は喪われた、といわれている」


「女神?」


「知らないのか? 名もなき女神だ。その存在が消えた時に、『聖』魔法も喪われた……災厄で大地が裂け、いまの分かたれた大陸になった」


ようやく、ギルドマスターが口を開いた。


「治癒魔法は、聖魔法なんだ。少なくとも──伝承では──『聖女』しか使えないと」


ちらりとリュウキを眺める二人。


だいたい、言いたい事が分かった。


「オレはちがうよ」


「じゃあなんで、治癒が……っ」


混乱する大人二人を呆れて眺める。


それよりも。


(女神が、消えた──)


神様が実際に存在したとして、消えたとは、穏やかじゃない。


自然消滅なのか、それとも。


「……ほかに、神様はいる?」


「……いるぞ。帝国には神殿があるらしい」


「確か、大陸にも、神殿が……各国にあったはず」


神殿があるという事は、おそらく宗教がある。実在するなら、おそらく神もいる。


そっちから調べた方が、早そうだ。


「ありがとう、話は終わり?」


「いやっ……その、──治癒は、私にも、使えるのか?」


「知らない」


「そ……うか」


ガックリとラクハレイが項垂れ、そんな彼をギルドマスターは気の毒そうに見た。


最初の約束通り、互いのスキルは秘密にすると、再度念押ししてからギルドを後にした。


神殿がありそうな場所は、ちゃっかり聞き出してある。


報酬ももらえたし、あとはテントを買いに──と、裏通りに差し掛かった所で、行く手を塞がれた。


「ちょっと、顔を貸しなさい!」


またか、と遠くを見てしまった。




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