丸猫捕獲篇(下)
丸猫捕獲篇です。
上下2話、R2/9/5 16:25,17:00投稿です
家と街の捜索は諦める事にした4人は、平原側に出る。ここに来るまでに通ってきた魔境の山と森では、それらしき生き物の影は見かけなかったからだ。
平原への出口は、山側と反対の位置にあった。4人をこの街に導いた紳士の手紙が、此方の出入口でも鍵のような役割を果たした。魔法でぼんやりと光る通路を通り、いよいよ街の外に出る。
街の壁は、此方側も怖いほどに白くツルツルだった。人の手によるものとは思えない程に。街に住む人々が本当に人であるのかどうか、怪しいものだ。
今のところ、危害は加えられていないので、4人は決められた時間内に仕事を済ませて、早く帰りたいと思った。
依頼された丸猫だって、襲ってこないとも限らない。魔法の残滓を吸収して生きていると言うのだ。魔法使いには、天敵のような生き物かもしれない。
幸い、4人が持つ『村』の力は、魔法ではなかった。丸猫の餌には成らずに済むだろう。
「風が強いね」
4人のマントが、風に煽られてバタバタと重たい音をたてる。灰色に見える魔境の平原を、風が渦巻きながら吹きすぎて行く。素早い動きの動物が、遠くで獲物を狩っている。空には、骨ばかりの鳥や、どぎつい色の巨大な虫が飛び交っている。
街の側には、そうした魔獣と呼ばれる魔境の動物達は近寄って来ない。それも何かしらの魔法による効果なのだろう。
捜索期限は1日である。4人は、お昼も魔境で摂るつもりだ。街まで帰っている時間は無い。お弁当などと、贅沢も言えない。旅の間にと用意した携帯食を齧る。
お昼を摂った場所は、街の壁から半日程歩いた所だ。これ以上進むと、今日中に戻れなくなってしまう。
この辺りには、所々に木が生えている。灰色で捻れた幹や枝は、1枚の葉もない。かといって、枯れている訳でも、生きた魔物と言う訳でもないようだ。
奇妙に絡み合った枝の間を覗くと、不気味な羽虫や、ねばねばの芋虫が飛び掛かってきた。エドムントが、咄嗟に前に出て総てを槍で凪ぎ払う。
「気持ち悪ぅ」
マウアとヴェルデが抱き合って、顔をしかめる。4人はその樹から距離を取ってあたりを見回す。その時、ガサガサと転がる乾いた草のボールに混ざって、生き物らしき姿が見えた。
それは、灰色の球体だった。館で観た半透明の毛玉とよく似ている。丸猫だろうか。確証はない。
4人は顔を見合せ、素早く灰色の球体に近づく。球体は、音もなく転がっていた。そんなにスピードは出ていない。
その球は。ごわごわした毛で覆われている。転がっているので、どこが上なのか判別し難い。解らないが、尖った猫耳が突き出ていないか、4人は眼を凝らす。
「あたしが行く」
ヴェルデは、3人に囁くと、呑気に転がる毛玉に飛び付く。毛玉は呆気なく捕まった。声は立てない。
ヴェルデが剛毛を掻き分けると、不愉快そうに伏せた猫耳が出てきた。更にモシャモシャ探すと、3対の猫目も見えた。
「丸猫」
試しに話しかけてみる。耳がピクリと動く。3対の目は、問い掛けるようにヴェルデを見上げた。
「お家に帰ろう」
マウアが優しく声をかける。猫目は安心したように輝いた。
「この子、言葉が解るのね」
マウアの言葉には、如何にもそうだと言う雰囲気を出す。
「よかった。じゃ、丸猫、帰ろうな」
4人は、迷子の丸猫を抱き抱え、勇んで街に帰って行く。
完
これにて完結いたしました。
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