キルデス篇(中)
「いつから居なくなったのですか?」
ヴェルデが訊ねる。
「手紙を出した頃です。」
「何かお心当たりは?」
「ありません。ある日突然居なくなりました」
情報が少なすぎる。1日で探してくれと言うから、ある程度の手掛かりはあるかと思っていた。
「よく行く広場などはありませんか?」
「ずっと家で飼っていたので、外には出たことが無いんです」
4人はそれを聞いて、魔法で姿が見えないだけかも知れないと思った。紳士は、かなり高度な魔法を使う。ここは紳士の家である。紳士が見付けられないのなら、4人がいくら探しても見付からないのではないかと思った。
だがその予想は、直ちに否定される。
「街の中には居ないのです。気配がありません」
家どころか、街にも居ないのだと言う。
「私達キルデスの住人は、街の外には出られないのです」
キルデスの住人は、魔力が高い「人間」に過ぎず、高すぎる魔力故に人界では生きづらい。また、人間故に完全な魔境へと出て行く事が出来ないのだと言う。
「魔境を渡ることが出来るのは、『森の一族』だけ。昔からそう伝えられて来ました」
『森の一族』とは、最果ての森に住む者の事である。4人の村に名前は無いが、村人は自らを『森の一族』と呼んでいる。
村人には1人に1つ特別な力があり、人の身でありながら魔境を渡ることが出来るのだ。
「じゃあ、丸猫は、魔境側に出て行ってしまったんですか?」
カイが確認する。
「そうとしか考えられません。」
紳士が断言する。
「目撃情報があったんでしょうか」
「丸猫は魔法生物なので、山側でも平原側でも生きて行けます。街に居なければ、外でしょう」
それはそうなのだが、出ることは可能なのだろうか。
紳士の言い分によると、この街の住人は外に出られない筈だ。何故、山側にも平原側にも出入口があるのか解らないが。
「街の壁にある扉が開くことは、良くあるんですか?」
ヴェルデが不審そうに訊く。
「滅多にありません」
紳士の言葉に、4人は益々疑わしそうになる。
「では、どうやって外に出たのでしょうか?」
「解りません。ただ、街には居ないのです。外に居るとしか考えられません」
消去法というやつだ。
4人は、口には出さないが、まずは家の中と街を探そうと考えた。
丸猫の映像が消えた。
紳士は、もう良いだろう、という雰囲気で黙ってしまう。
何の糸口も掴めないうちに、食事が運ばれてきた。ワンプレートの肉料理だ。
「さあ、冷めないうちに召し上がって下さい」
紳士は、4人に夕食を進めると、自分も食事に専念し始めた。