【 一話 】
【零話】の短いお話しでブクマをして下さった方がいらっしゃいました。
評価を付けて下さった方がいらっしゃいました。
大変嬉しく思うのと同時に、以後のお話しを頑張ろう! そう思いました。
息抜き込みの、突発的に書こうと思ったお話しですが、楽しんで貰えると嬉しいです。
夜会の招待主への挨拶も、共通の知り合いへの挨拶も終わった。そして、ファーストダンスも。踊りの輪を抜け出せば、あまり顔を合わせたくない一団が、思いのほか近くに居る事に気がついて足が重くなる。
「エリーゼ?」
呼ばれて顔を上げれば、麗しい程に整った婚約者の顔をがある。
金の髪と青い瞳の四歳年上の婚約者。
「何でも無いわ。お兄様」
「疲れたか? 少し顔色が悪い」
気遣ってくれる声が優しくて、つい微笑んでしまう。
取り敢えず休もうと、柱の間ごとに置かれたソファへと連れて来てくれた。私としては人目の無い所の方がいいのだが、そうもいかない以上お礼を言って腰を下ろした。
「お兄様。私は大丈夫よ。お姉様を探して、早くお側に行って差し上げて」
だが、と、心配して世話を焼こうとする。
「あっ、お姉様が。お兄様、早く行かなきゃ」
探し歩くまでもなく、お友達のご令嬢と肩を並べる姿がありました。
「本当に大丈夫か?」
「ええ」
「分かった。クリスがすぐ来ると思うが、大人しく待ってるんだぞ」
愛しい人の姿を目で追いながら、なかなか動こうとしない背中をそっと押しました。
聞くところによると、ご兄妹で夜会に参加されても、お兄様に置いていかれたと困っている方もいるそうですが…。
今は短い時間でも、お兄様に愛しい方との一時を大切にして頂きたいです。
「行ってらっしゃいませ。お兄様」
努めて笑顔で送り出します。
婚約者である彼は、私がそう呼ぶ様に心配性で面倒見のいいお兄様なのだ。
母親同士の仲が良かった縁で幼い時に婚約者となったが、お兄様にはお好きな方が居らっしゃる。その方、お姉様とお呼びしているその方は、第一王子の婚約者候補のお一人。決まってしまえばお兄様の手の届かない方に。候補を外れれば想いあったお二人は結ばれる事が出来る。実は有力な候補の方が居るのですけど、まだ決定の声は聞かない。早く後者の知らせを聞きたいものです。
そうでないと、想いあっていて婚約から結婚に問題が無くても、表立って動く事が出来ないからです。
思い余って駆け落ち…。そんな心配も、お兄様の様子から無い訳では無いのですが、お姉様のお家と内々にお話しが進んでいるので、その時をじっと待つのみです。
私が向ける想いは、あくまでもお兄様としてお慕いしているにすぎません。お兄様の幸せを、心より願っております。そして、お兄様の家族は、父母を亡くした私にとって、いいえ、母を亡くした私にとって大切な家族であります。私を優しく迎え入れて下さる温かな方達です。
お兄様とお姉様を目で追っていると、伏し目がちなお姉様に対して、こちらからでも美しいと思える笑顔で、お姉様の華奢な両の手に唇を寄せております。本来なら、人目を気にしてその様な事をなさらないお兄様ですが、何か良い事でもあったのでしょうか?
良い事があったと願います。
お姉様の顔が、こちらから見ても朱に染まっているのが分かります。
クリスが来たら、お兄様達の所へ行ってみましょう。
今話もお読み頂きありがとうございました。