【 一話 】
エリーゼの【 一話 】目よりも前の話からになります。
クリスでは、その【 一話 】に行き着くまでの出来事をクリス視点でと思います。
兄さんとエリーゼが帰って来た。
お帰りと出迎えに出れば、エリーゼの元気が無いみたいだ。
「兄さん?」
「うん。話しは着替えてからだ」
肩を落としたエリーゼの背中を押しながら、兄上はエリーゼを連れて二階へと上がっていった。
それから、いくら待っても、エリーゼは部屋から出てこなかった。
今日の茶会は、父さんと母さんも一緒に出掛けている筈なのに、先に二人だけで帰って来るなんて可笑しい。
「ねえ、何があったの兄さん」
「少し、エリーゼと離れてたから詳しくは分からないんだ」
「何だよ、それ」
「兎に角。アレが居た」
「アレ? 居たって、誰?」
「エリーゼの異母妹」
「そんなやつも招待してたの?」
「否。子息が勝手に連れてきたみたいだ」
「何だよそれ。子息って、会う度にエリーゼに絡むアイツだろ?」
そうだと頷く兄さんは苦い顔だ。
十二歳にエリーゼが先になって、お茶会とかに顔を出す様になった。母さんが一緒だったり、兄さんだったり。兎に角。親しい以外の場所にも顔を出さなきゃならなくなった。そうやって顔を売るのが貴族なんだって。家でやる時なら、自分の家だからって僕もエリーゼの隣に居れる。それに、そもそもそんなヤツを迎え入れたりしないが、まだ公に出席出来る歳で無いのが悔しい。
「エリーゼが囲まれてた所を、ご令嬢が助けてくれたんだよ」
「囲まれて? そいつとアレだけじゃなかったの?」
「クリス」
「何?」
「何時ものヤツらにアレが加わったというのが正しい」
「何で兄さんはエリーゼから離れたんだよ」
「こんな事になるならとは思うけど、私にも繋がなきゃならない縁があるんだ。今は些細なものでも、後々に活かす縁だ」
そのうち分かる。そう言う兄さん。そのうちじゃなくたって分かってるよ。だからって、それでいいって思えないんだ。
「父上と母上が、抗議するのに残ってる」
「抗議する程、何があったの?」
「助けてくれた令嬢の話しだと、髪を掴んだりされてたそうだよ」
「怪我! エリーゼ、怪我とかしたの?」
「してたら、問題はもっと大きくなるね」
「掴まれれば痛いじゃ無いか!」
僕は、エリーゼの部屋の前に立った。
六年くらい前から我が家に用意されたエリーゼの部屋。
伯爵の、エリーゼのお祖父様が、領地に戻る時に泊まる部屋。
コンコンってしてみる。
返事は無い。
僕は扉を開けて中へ入った。
外出着から着替えるだけはしたのだろうエリーゼが、ベッドに突っ伏して泣いていた。
「エリーゼ?」
返事は無い。
枕で押し殺された嗚咽が止まる事はなさそうだ。
僕はブラシを持ってベッドの上に上がった。
痛くない様に、引っ張らない様にと、毛先から梳かしていく。
「こんなに綺麗な髪を掴むなんて、ヤツら、何考えてるんだろうね」
手にする髪を変えては丹念に。
「クリス?」
「何、エリーゼ」
「黒い髪だったから、私愛して貰えないんだって」
ぐずぐずの鼻声。枕から顔を上げないから余計に篭って聞こえる。
「それは、関係無いんじゃ無いかな。だって僕等は黒髪で黒い瞳のエリーゼを愛してるよ」
そう。色なんて関係無い。
「お母様と同じだから、お父様が私を虐めるのですって」
「お母様と同じだから? 黒だから? それを言ったのって、異母妹?」
うん。と、頭が動いたから、僕は手にしていた髪を離した。
引っ張ったら、エリーゼが痛いから。
「それは、本人に聞かないと分からないけどさぁ、色とか関係無いんだよ」
僕等はもう、どうしてこうなっているのか知っている。
エリーゼの父上は、王弟のお気に入り。
継ぐ爵位が無いから、王弟の口利きでエリーゼの家に婿に入った。領地は富んでいるからと目を付けられたんだ。だけども、エリーゼのお祖父様は、爵位を譲る事は無かった。結婚前からの恋人との関係を絶ってというのが、ただ一つのこちらからの条件だった。それを無視した男に爵位はやれない。これは、王弟も認めた条件だから。愛してる恋人と別れたくなかったら、この結婚はと、自分で王弟に断れば良かった話しなんだ。お祖父様である伯爵や、エリーゼのお母様の意志でなんか無い。なのに、引き裂かれた恋人だなんて言って亡くなったお母様を悪く言って、残されたエリーゼに辛く当たる。どうしたって、伯爵家の財産を手にする事が出来ないから。
いくら僕の家が公爵家でも、まだ婚約者なだけのエリーゼに、してあげられる事は少ない。
「エリーゼ。父上達が帰って来たよ」
侍女に、水桶とタオルを持たせて兄さんが入って来た。
僕の反対側からベッドの上に座る。
エリーゼの体を起こして、絞ったタオルをエリーゼの目元に当てる。
「離れてごめんね」
「お兄様。もういいの。何度も謝らないで」
「目元を冷やして、髪を整えたら下に行こう」
兄さんが、エリーゼの顔に掛かった髪の毛を指で梳かす様に整える。
何度かタオルを取り替えて、落ち着いてきたエリーゼは、もう大丈夫と笑った。
心配しないでと訴えるような微笑みに、僕の心は、とても痛くなった。
今日。エリーゼに絡んだ子息達の家に、抗議を申し入れた我が家は勿論だけれども、助けに入った令嬢にも、失礼な事をしていたみたいだ。そちらの家からも、厳しい抗議の声。そして、その令嬢は第一王子の婚約者候補のお一人。厳格さをもった高位貴族に話しが流れて、立場の無い思いをするだろう。
今は、それくらいしか手立ての無いのが悔しい。
早く僕も、エリーゼと一緒に居られる様になりたい。
少し歳下なのが、本当に悔しい。
今話もお読み頂きありがとうございました。




