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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)4.0 < chapter.16 >

 翌朝、スフィアシティにおける浸水被害の被害状況がまとめられた。

 浸水家屋五千棟、うち四百棟は倒壊及び流出。

 意識不明八名、重傷五十二名、軽傷九百六名。

 深夜の堤防決壊であったにもかかわらず死者が一人も出なかったことは奇跡であると、どのテレビ局、ラジオ局でも声高にニュースを読み上げている。

 そう、奇跡だ。間違いなく奇跡なのだ。未だ意識が戻らない八名にはルキナとボナ・デアが付き、意地でも死なすものかと奮闘している。パークスは人々が身を寄せ合っている避難所を巡回し、集団生活の秩序を維持すべく、人々の心に知性や品性、協調性を植え付けまくっている。

 人間たちは気付いていないが、ここには今、間違いなく『奇跡を起こす女神たち』が降臨しているのだ。

「おはようございます、隊長! あの、そちらの皆様はどちら様でしょうか……?」

 そう声を掛けてきたのは、朝になって合流したレインである。

 ベイカーはあのまま現地で人命救助や被害状況の確認に当たっていた。徹夜で働き続けた彼は目の下に隈を作り、疲れ切った様子を見せている。

 そんな薄汚れた隊長の後ろに、トップモデルも裸足で逃げ出す美女軍団がいるのだ。気にならないほうがおかしい。

「ん? ああ、紹介しよう。右から順にニケ、フォルトゥーナ、ユヴェントゥス……」

 と、そこまで言って気が付いた。

「レイン……お前、彼女たちが見えているのか……?」

 すれ違う人間の誰もが、女神たちの存在に気が付かない。彼女らを目視できるのは、自身も『神の器』として選ばれた者たちだけなのだが――。

「え? あの、見えている……? 何のことですか? だって、普通にそこに……?」

 ベイカーのみならず、これにはニケらも目を丸くした。

「どなたの器かしら!?」

「神の気配は感じないが……?」

「まだ覚醒していないのでしょうか?」

「馬鹿な! 覚醒前の人間に、神の気配は感じられぬはずだろう!?」

「おい、男! 答えよ! 貴様はいずこの神の器か!」

 ニケに大剣を突き付けられ、レインは「ひいっ」と悲鳴を上げる。

 その瞬間、ほんの一瞬だがレインの姿がブレた。肉体と、その内側にいる『何者か』とのリアクションに若干のズレが生じたのだ。

「やはり誰かついているな!」

「顔を見せろ!」

 ニケとフォルトゥーナに襟首をつかまれ、レインの体から引っ張り出されたのは――。

「……ん?」

「あれ? こっちもレイン?」

「……本人?」

 『中身』を引き出されたレインの体は、その場でばたりと倒れてしまった。

 レインは何か起こっているのか分からず大混乱の様子だ。

「わーっ! 大変! 私が倒れてます! なんで!? 隊長! ちょっとこれ何がどうなってるんですか! あ! どうしよう! 体! 私の体早く起こさないと! 昨日顔が溶けちゃったから、作り直したばっかりなんです! まだちゃんと固まってないのに! うつぶせにしたら鼻潰れちゃいますよおおぉぉぉ~っ!」

 本人が言うとおり、地面に接している部分が奇妙な潰れ方をしている。それは陸上生物の『肉』ではなく、深海魚のゼラチン質のような、ひどく軟らかな質感で――。

「……ニケ、フォルトゥーナ、本体に戻してやってくれ。どうやらレインは、そもそも『そういう生き物』らしい……」

 不定形生物シーデビル。もともと深海に暮らす種族がどうやって陸上生活をしているのかと思ったら、何のことはない。レインにとって肉体とは、『着脱可能な衣服のようなもの』であるらしい。

 レインは潰れた顔を粘土をこねるように成形し、それから改めてニケたちを見回す。

「うわーっ! いや、もう、びっくりしましたよーっ! カラダ素通りで中身に触れるなんて! 今のって何の魔法なんですか!? 全然見たことない技なんですが!」

 見えているのに、相手が神と気付いていない。これは女神たちにとっても衝撃的過ぎる展開である。

 一斉に振り向いた女神たちが、目だけで「これは何だ!?」と説明を求めてくる。

「あー、その、えーと……我が特務部隊が誇る水中戦最強戦力、シーデビルのレイン・クロフォードだ。その日の気温次第で伸びたり縮んだり溶けたり泡立ったり磯臭かったりするが、基本的にはいいやつだ。干からびていたら、水を足してやってくれ!」

 自分でも何を言っているのか分からないが、そういう隊員なのだから仕方がない。

 女神たちは揃いも揃って、まるでフナムシでも見るような目でレインを見ている。磯臭い珍生物が女性受けしないのは、ヒトでもカミサマでも変わらないらしい。

 そんなどうでもいいやり取りの最中に、他の隊員たちも次々と合流してきた。

 自然災害も巨大生物も、本来は特務部隊の担当案件ではない。しかし別件でたまたまその場に居合わせ、その巨大生物を駆除してしまった。ここまで関わってしまった以上、適当な引き継ぎで現場を離れるわけにもいかない。今後はスフィアシティの治安維持部隊とともに、『謎の巨大生物』の正体や、それが出てきた穴について調査することになっている。

(しかし……あれはカミサマの成れの果てです、なんて説明するわけにもいかないしなぁ……)

 特務部隊の馬車も、空中で戦うベイカーも、人命救助に当たる王子と副隊長の姿も、何もかも市民に目撃されている。合理的な説明をでっちあげるには、相当苦労しそうだった。


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