力の使い方
宙に浮いた黄金の光は二つに分かれる。
「分離した!」
「えっ!」
すると、片方の光は更に眩い光を放ちティファリアを包み込み優一と同じように身体の中へと入っていく。
「何で私に…今まで反応しなかったのに…」
ティファリアは驚いているもつかの間、宙に浮いていたもう一つの光は身体を求めるかの様に壁をすり抜けてただ二階へと向かう。
上には琴音がいる!
優一は急いで二階の琴音が寝ている自室へ向かいティファリアも後を付いて行く。
優一が勢いよく自室を開けると光は琴音の上で静止していた。
まるで黄金の光は琴音を品定めをするかのように琴音の上を漂い、そして調べが終わったのか黄金の光は眩い光を増して琴音を包み込み身体の中に入っていく。
「これは気が琴音の中に宿ったってことだよな?」
「…はい」
アレだけの眩しい光を浴びても琴音は目を覚まさす様子はなかった。
優一は琴音に近寄り異常がないか確認するが、身体には変わった様子はなく安心する。
優一は不意にポケットに入っているスマホを取り出して見る。
まだ朝の六時か。それにやっぱり圏外だよな
ティファリアは珍しそうに優一のスマホを眺める。
「その四角い鏡みたいなのは何ですか?」
「これはスマホと言って遠く離れた人と連絡を取れたり、分からない事を何でも調べることが出来る便利な道具だよ」
「凄いですね!まるで小さな図書館と通信魔法がこの四角い鏡に入ってるみたいです」
今はただの箱だけど…
ティファリアはスマホを眺めていると何かを察したように自室のドアの方に目を向ける。
「お母さんが戻ってきました!」
ティファリアは走って下に降りて玄関を開けて外に出て行く。
優一も後に付いて行くと、外にはティファリアに似た格好の女性がおり白いローブ姿に腰には剣を下げていた。
ティファリアは母親に抱き着き喜んでおり、何か会話をしている様子が伺える。
話を終えたのかティファリアは抱き着くのを止めると二人は優一に歩み寄る。
「初めまして、私はティファリアの母、ミティシアと申します。先ほどティファリアからお話を聞きました。優一さんですね」
優一はミティシアの凛々しい口調に優しそうな印象を感じとる。
突然、ミティシアに向かい風が吹き、フードがとれる。
ティファリアと同じ茶髪が肩の高さまであり、瞳は茶色で優しさと意思の強さを感じさせる。
「・・はい」
「それと家の中から魔力、そして気が感じますね。それも凄い力です。気の方は水晶球の入っていた力と同じですね」
ミティシアは二階の琴音が寝ている方角をみて言う。
「琴音さんに合わせて貰ってもよろしいでしょうか?」
優一はミティシアを琴音の所まで案内する。
「綺麗な方ですね」
「俺の自慢の義妹ですから!」
優一は鼻を高くして自慢げに言う。
ミティシアは琴音のおでこに手を当てる。
まるで身体検査をするかのように、オデコから頬へと手を下に動かす。
そして、調べ終わったのか手を引くと、ミティシアの口から驚愕の事実を優一は告げられた。
「…このままでは琴音さんは目を覚ましません」
突然言ったミティシアの言葉に優一は驚く。
「どういうことだ!?琴音はただ寝てるだけだろ?」
「いえ…彼女は魔力の封印によって深い眠りについています。正確には魔力の封印が解け掛けているため眠り続けているのです」
優一は困惑し始める。
「どうすればいい…どうすれば琴音は目を覚ます!」
「封印を解くしかありません…」
そう言うとミティシアは呪文を唱える。
空中に異空間が現れ、ミティシアはその中に手を入れると杖を取り出す。取り出した杖で床を四回叩くと、四つの魔法陣が琴音を囲むように現れる。
そしてミティシアは杖を琴音に杖を翳す。
「これから琴音さんの魔力を封じている封印を解きます」
ミティシアは集中して呪文を唱え始める。
「おい!本当に大丈夫なのか!?」
「大丈夫です。お母さんは元大賢者で数々の問題を解決してきた人です」
優一は黙り込み、心配そうな表情で琴音の封印を解く様子を見守る。
暫くすると琴音を囲んでいた魔法陣は消える。
「これで封印は解くことが出来ました。後は目を覚ますのを待つだけです」
「琴音は…琴音はいつ…いつ目を覚ます!?」
「分かりません。ですが琴音さんには《生命魔法≫を掛けておきました。この魔法は眠っている者の空腹などを補うことが出来るので暫くは眠っていても大丈夫です」
「よかった…あったばかりなのに色々とすまない」
「いえ。私達こそお二人をこの危険な世界に召喚してしまい申し訳ございません」
「気にするな!俺は異世界に来れて嬉しいし、琴音も目を覚ましたら喜ぶと思う。小さい頃は、よく異世界に行ってみたいとか言ってたから!」
優一は笑顔でティファリアとミティシアに言うが内心は不安でいっぱいだった。
「そう言って頂けると少し気持ちが少し楽になります・・ありがとうございます」
優一は琴音の頭を撫でる。
「目が覚めたら一緒に旅に出ような。危ない世界だけど俺が琴音を守るから」
三人は琴音の元から離れて家の外へと出た。
優一は深呼吸して両手で頬を叩き気合を入れる。
「よし!俺に気の使い方を教えてくれ」
「分かりました!」
外に出ると、優一はティファリアとミティシアを対面に座る。
「良いですか?落ち着いて自分の中にある力を引き出します」
辺りは静かにただ風が吹く中、ティファリアは両手でボールを持つかのように手のひらを合わせる。
するとティファリアの両手からエネルギーの塊が出現する。
優一は興味津々にティファリアの手から出たエネルギーの塊を見つめる。
「これは身体のエネルギーを形にしたもの、気です」
温かい…
「それでは優一さんやってみてください」
優一はティファリアのやった通りに集中して気を引き出そうとする。
すると優一の手のひらに気の塊が出現する。
まるで以前に気を使ったことがあるかのように簡単にこなす。
「凄いです優一さん!こんなに早くできるなんて!」
「身体の血液を手のひらに集めて筋肉で血管を圧迫するイメージしたら上手くできた」
「血管?」
ティファリアは優一の言った血管の意味を聞いてくる。
優一はどう説明したら良いか悩みながらそれとなくティファリアに言う。
「ああ!血が通ってる道、細い糸をイメージしてくれたら分かると思う」
「凄いです優一さん!身体の仕組みについて詳しいのですね」
適当に身に着けた知識だけど…
「全然詳しくないよ。学校の生物の授業で習っただけだから医者みたいにはいかない」
「学校?」
「ああ!学校は子供が大人になるまで通って仕事する時に困らないように知識を身に着けたり人間関係を学ぶ場所かな」
学生の頃の思い出がロクなのがない優一は苦笑いする。
「素敵ですね!この世界も戦争が終わり魔王の脅威が無くなったら優一さんの世界みたいな、平和な世界になったら嬉しいです」
素敵か…
優一はティファリアの笑顔を見て気持ちが切なくなる。
「次は気の応用を教えます。私に付いて来てください」
優一はミティシアとティファリアの後に付いて行き暫く歩くと森林を抜けて草原に出た。
森林から一定の距離には魔物がおり、今にも襲い掛かるかと思わせる形相でこちらを見ている。
「安心してください。魔物はこの森林から一定の距離まで近寄る事が出来ません」
「そ、そう」
「ティファリア、優一さんに気の放つ所を見せてあげて」
「はい!」
ティファリアは右手を魔物が居る方に向けると気の塊が出現すると、魔物に向かって勢いよく飛んでいく。
ティファリアが放った気は黒い皮膚に角と牙が生えた猪みたいな魔物に命中して魔物は悲鳴をあげる。
「ぶぎゃーーーーーーー」
気によって魔物の周りの草が燃え、魔物が苦しみながら暴れまわる光景をみて唖然する。
大地は赤黒く焼け、魔物の血が飛散していた。
「手に作った気を、前に押し出す感じで出来ます」
「・・・琴音が見たら悲鳴を上げそうだな」
優一は魔物に右手を向けて気の塊を出現させ、気を押し出すイメージをする。
先ほどとは違い、気を放つのが難しいのか優一は少し苦戦をする。
「はっ!」
気は魔物に向かって放たれ命中するがダメージを受けていない。
「あれっ?」
「ちゃんと出来てます。ですが威力が弱いので魔物に致命傷を負わすことが出来なかったみたいです・・・大丈夫です!鍛錬を積めば強くなれます!!」
「励ましありがとう…」
「優一さんは魔力が無いのですが一応魔法も見ていただきますね。この先、戦で魔法を使う敵にも出会いますので」
ミティシアはそう言って魔物がいる方に右手を向けて呪文を唱える。
「『フレイ』」
呪文を唱えたミティシアの手から炎の魔法が飛び出し魔物を命中すると一瞬にして丸焦げにした。
「凄いっ!?」
「今使った魔法は見た通り炎の魔法です。他にも水・風・土・雷と言った色々な属性の魔法があります。他の魔法は私と鍛錬する時にお見せします」
「普通の人は、お母さんが言った火・水・風・土・雷の五属性の中で最大でも二属性しか使えないのですけど私とお母さんは全属性が使えます。それと極たまに五属性以外にも特殊の魔法が使える人や武具を使った攻撃をする人もいますのでその人と戦う際には十分に気を付けてください」
「あっああ!」
「その特殊な魔法の一つを優一さんにお見せしますね。それも古代の武器を使用して」
ミティシアは腰に下げていた剣を抜くと両手でしっかり握りしめて上に掲げる。
すると眩い光がミティシアの剣に集まっていく。
「はぁーーーーーーーーーー」
ミティシアが剣を振り下ろすと、膨大な魔力が魔物に向かって放たれ、轟音と共に辺りにいた魔物が吹き飛んだ。
チート級の力を見せられた優一は身体の力が抜ける。
「なぁ・・・俺達を召喚する必要はあったのか?」