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La Salvación―ラ・サルヴァシオン―  作者: 或宮澪
第Ⅰ幕 受難の財宝、覚醒の邂逅
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【第2話】選定と覚醒~第2節 大いなる遺物~

「どういうこと…なんですか」

「あなたはこれから、悪魔を宿したものと戦おうとしていますね」

「―――!?何故それを…」

少女の言葉に驚愕する。彼女は、パスカルがこれから悪竜の化身を祓わんと挑むことを知っている。パスカルの動揺をまるで歯牙にもかけず、紫苑色の如き瞳持つ少女は、尚も続ける。

「あなたはそこで、大いなる力の存在を、大いなる企ての存在を知るでしょう。あなたは選ばれようとしている。あなたは本当の使命を知ることになるかもしれない。『救世聖遺物』、《受難の財宝》、それらに深く関わることになる道を選ぶのなら・・・・・あなたは、きっともう後には戻れない。そしてここには、世界を、衆生を救済する力を目覚めさせるのに必要な…それだけの条件が揃っていたの…。それでも、あなたは、決意できますか?道を、歩み続けられますか?」

…意味が分からない。けれど、確かにパスカルが置かれている状況に符合する内容も言い当てている…年端もゆかぬ幼い少女が口にするとは思えない、そんな言葉に、混乱と動揺が去来する――内心に去来するも…少女の傍らに侍るように座していた、長身のコートを着た銀髪の男が、立ち上がり、補足的に語り始める。そして身の丈190センチはあろう偉丈夫もまた…奇妙な話を始めた。

「お前さんが匿った連中はな…本物の聖十字架の欠片を盗み出したんだよ。それでな。表に居るあのおっさんは、それの横取りを狙ってるわけなんだ。そう、『悪魔飼い』の連中の狙いはそれだ。《受難の財宝》の力をすべて手にしたものは…世界を変えられる。それこそ、自分の望むように…だってな」

「なんだって?どういうこと………なのですか」

長身の銀髪男が唐突に語った内容。それは、俄かには理解しがたいことだった。情報処理が追い付かない。故に、反射的に質問してしまう。

「ハァ………ま、いくら聖職者にも、本物の聖十字架が近くにあるって言っても、なかなか信じちゃくれないわな。そうだな、いいぜ。要点をまとめるとこうだ。悪魔を飼ってる連中や、そいつらに指示を出して報酬を提示してる連中がいる。次に、世の中に救世主の死に纏わる聖遺物…《受難の財宝》は現存している。偽物も多く出回っているし、失われたなんて見方もあるし、中には大部分が欠けちまった代物もある。それでも…確かに本物が現存しているんだよ。これは事実だ。信じがたいだろうが、そうなんだよ」

銀髪の男が状況を纏めて説明する。嘘をついている様子はない。騙そうという意図も無いように感じる。ならば、本当に―――?

「それで…」

続きを、促す。

「…《受難の財宝》全てを揃えて力を励起させ、全ての力を手にしたものは、文字通り、世界を変える力に覚醒する。だが、それができる者は限られている。例えば、あのガキどもが触ったところで、それ自体では何も起きないだろ」

銀髪の偉丈夫は、ディエゴたちが匿われている書斎に続く方を見やり、話を続ける。どうやら、彼もディエゴたちが何をしたのかを知っているらしい。

「霊的存在と直接、強い関わりを持っているか、或いは最初から資格を有するか…いずれかの条件を満たした者が財宝を手に入れ、願いを宣告して初めて、財宝を励起できるというわけさ」

「………」

この時点でも訊きたいことだらけでは、あるが。兎に角すべて聞き終わらなければならないと直感したパスカルは、黙って傾聴し続ける。

「そして、この財宝の力を直接狙って、あるいはそれを運ぶ報酬を狙って、様々な連中が暗躍している。お前さんがさっき匿ったガキどもも…恐らくはそうした連中の陰謀に乗せられて、盗みを働いたんだろうよ。博物館からな。大方、闇オークションで売り捌いて、ギャングが報酬を受け取る契約だったんだろうがな。無論、そんなオークションに参加する連中は…或いは裏から指示している連中は、ほぼ財宝の力を狙っていると見ていい。」

「………つまり、外にいるあの悪魔を宿した男は、自分か、或いは雇い主の為に、それを狙って彼らを追っていた、と」

「ご名答」

段々と話が見えてきたようにパスカルは感じた。しかし、ならば……

「しかし、何故そのようなものが世の中に?教会が管理すべきではないのですか。博物館にあったものは、博物館に返すべきだとは、思いますが…」

「教会は《受難の財宝》を敢えて散り散りにさせておきたかったんだよ。わかるか?人が、神なる力に目覚めるのは危険だと考えている…無論、連中はキリストの再誕が未だ訪れていないと考えるからそういう発想になるわけさ。偽預言者に神なる力を渡すわけにはいかないという考えもある…だが」

銀髪の男は、含みを向けたような視線をパスカルと、少女と、そして礼拝堂の天井に向けて―――

「神の国の(インマヌエル)になるべき魂は、既にこの地上にある。バラバラになった形で、今は自覚無き者に宿って、だがな」

再び、信じがたい言葉を口にした。

「…何が、言いたいんですか」

「まあ、他人(ひと)の話は最後まで聞け」

説明をしていると言いながら思わせぶりな話を語る銀髪の男に、少々の苛立ちを感じて問うものの…焦らされる。若干の焦燥を抑えつつ、話を聞く…

「…とにかく、今回お前さんは、あのガキどもを助けようとしたことで、この事態に巻き込まれたんだ。そして、話にはまだ続きがある。お前さんが今締め出しているあの悪魔憑きの男は、さっきも言ったが、『悪魔飼い』というものであり。悪魔憑きではない」

「悪魔憑きでは…ない!?」

パスカルが思わず驚愕を零すものの、銀髪の偉丈夫は気に留める様子もなく―――

「そうだ。自らの意思で、悪なる世界より悪魔を呼び出し、契約し、共存する輩だ。契約の範囲内であれば、連中はそれこそまさに、意のままに悪魔の力を扱える。悪魔もまた霊的存在であり、『悪魔飼い』の連中はそれをパスに、世界を改変する力を手にしようと目論んでいるのだろう。或いは、クライアントに、悪魔と繋がり、世界を牛耳ろうとたくらむ輩や……もしかすると、最悪の場合…神の国の(インマヌエル)の資格を有した連中が紛れている可能性だってある」

誰だって、こんな話をされてすぐに信じろと言われても納得することはできないだろう。だが、実際のところ、パスカルは奇怪な紳士の右腕から、竜の貌が姿を顕した光景を見た。この世界には実際に、人智を越えた出来事が在る現実を見せつけられたばかりだ。パスカルは恐る恐る。最も核心的な質問をした。

「要するに、その財宝が、悪しきものどもの手に渡らないようにしてほしいと…そう言いたいのですか、あなたは」

「そうだとも。だが、それだけじゃあない」

「―――?」

「…来るわ。悪魔を宿すものが」

それだけではない、その意味についての疑問が沸いたその刹那、口を閉ざしていた紫苑の瞳の少女が、唐突に不吉を告げる。そして―――

ぱりんと、窓が割れる音がした。

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