0006 ただゲームするだけな俺とユウ美
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
ほんとほんと助かります。
昨日はひどい一日だった。
まさか渋谷で、あんな化け物と戦うことになるなんて。
でも運がよかったのは、チャラチャラナンパ男を殴る振りして、化け物も殴り倒せたから幽霊を見たことになってないはずだ。
ふう、大丈夫。
まだ俺は幽霊を見たことになっていない。
それに霊の強さは見た目じゃわからない。
あいつは思ったよりも弱くて助かったが、毎回勝てるとは限らないから今後も霊にはできるだけ関わらないぞ。
ばあちゃんが死んだ理由もお祓いの失敗が原因だったらしいし。
だから爺ちゃんは、俺に『霊が見えていることを霊に気づかれるな』と強く言ったんだと思う。
なのに、
さて、俺は今日も二人分の朝ごはんを用意する。
今日は目玉焼き、ウィンナー、トーストだ。
飲み物はコーヒー。
ちゃぶ台に朝食を置いている間、ユウ美は正座して大人しく座って待っていた。
こいつ、ヤンキー幽霊のくせに食事に関するマナーは良いんだよな。
『野菜は無いのかよゴラァ。』
ユウ美…幽霊のくせにヘルシー志向かよオイ。
俺は黙ってレタスとマヨネーズを追加。
これで良いんだろこれで!
「さて、いただきます」
『いただきます』
目の前で幽霊が「いただきます」しているのを見て少し思う。
幽霊が両手を合わせていると、南無阿弥陀仏と言いたくなってしまうのは俺だけだろうか。
ユウ美はむしゃむしゃ食べだすが、これホント他の人から見たらどうなっているんだろう?
虚空に食べ物が消えていくのだろうか?
それとも食べ物が咀嚼されて内蔵に入ってく所まで見えるのか?
なまじユウ美の事がはっきり見えるので、俺には確認のしようがない。
気になる。
しかし、誰かに確認したら俺がユウ美の事を見えるのがバレてしまう。
ジレンマが俺を身もだえさせる。
まいっちんぐ
食事が終わると、ユウ美はまた手を合わせた。
『ごちそうさま』
「おそまつさま」
俺は食器を片付けてゴロンとした。
するとユウ美が、穏やかな顔でゲシゲシ蹴ってくる。
『おい、なんかゲーム無いのかよ!なんかあるなら出せボケが。』
寝っ転がってるところを蹴られれるのでパンツ見える・・・
でも、鋼の精神で目を向けないでいる俺凄い。
パンツの方向を見たらユウ美が見えているとバレるかもしれないから。
っていうか、横たわる俺を蹴る赤毛のヤンキーJKってすごい絵面だな。
面白いけど、写真とか撮れないのが残念だ。
そして意外にも、蹴られるとなんか痛い。
霊障で体が痛いっていう人が時々いるけど、見える人が見たらこういう状況なんだろうな。
「はぁ、暇だしゲームでもするかな。」
『よっしゃ、今日は素直じゃないか豪気ボケェ。』
ユウ美が嬉しそうで何よりです。
まだ開けていないダンボールから、ごそごそファミコンを出した。
30年選手の機体だが、なぜか捨てられず持ってきてしまったもの。
『おま、また古いゲーム出してきたな!アタイが生まれる前のゲームじゃねーかクソが。』
おい、折角出してやったのに文句言うな!
俺はやりたくもないゲームやるんだぞ。
小声でぶつぶつ文句を言いながらテレビに接続。
ゲーム機に懐かしの水道工ブラザーズをセットして電源を入れた。
するとユウ美は有無を言わせず二人プレイを選ぶ。
『おい豪気、お前は2P使えドリャ。』
俺にコントローラーが飛んできた。
普通にユウ美がコントローラーをつかんで俺に投げてきたわけだが、これって普通の人から見たらポルターガイストだよな。
まあいいけど。
「おや?勝手にゲームが始まったぞ?壊れたのかな?まあ始まったから遊ぶか。」
『豪気てめぇ、いちいち幽霊が見えないアピールしないと気が済まねぇのかよアホンダラ。』
あきれ顔のユウ美。
ゲームに付き合ってやってるのに、酷い言われようだな。
・・・・・
で、そんなこんなで2時間ほど遊んでいる。
久しぶりにやると意外に盛り上がるなあ。
そのあたりで呼び鈴がなった。
ぴんぽーん
ドアの外から、合法ショタと名高い寺脇京太の声がした。
「師匠、遊びに来ましたよ~。」
「おう、今手が離せないから勝手に入ってよ。」
がちゃり
「失礼します。今日はお土産持ってきまし・・・た・・・。」
京太が入ってきたので俺とユウ美は、コントローラーから手を放さずに振り向く。
するとゲームをしている俺を見て京太が固まっていた。
あ、いけね。
コントローラーが浮いてるかも。
しかし全力でごまかそう。
「なんかゲームが壊れたみたいで、勝手にマリオが動くんだよ。仕方ないから俺はルイージでやってるんだが結構面白いぞ。」
「そ、そうですか・・・。」
京太の顔が引きつっている。
でも、誤魔化せているっぽい。よかった。
京太の後ろから、京太の妹の小花がぬーっと顔をだす。
小花、女子力が高いが身長も高い。筋肉も凄い。
「師匠、お邪魔するっす。」
小花を見ると、ユウ美がゲームをやめて座布団を出した。
『小花姐さん、ようこそいらっしゃいました!』
その態度に、俺も京太も苦笑いが出る。
まあ、俺はばれないように小さく苦笑いしたが。
京太は霊能力があるって自称しているだけあって、ユウ美の存在は把握してるっぽい。
今もユウ美を見たまま困った顔をしている。
「この幽霊、ポルターガイストで座布団出すんですね。良い幽霊なんですかね。」
「ポルターガイスト?気のせいじゃないのか?幽霊なんかいないし。」
「ははは・・・そうでしたね。そうそう、お土産どうぞ。小花が焼いたパンです。」
受け取った袋の中を見ると、パン屋顔負けな美味しそうな匂いがした。
それも当然。何故なら小花の作ったパンはうまい。いや、小花が作ったものは全てうまい。
おそらくあの太い腕でパワフルにこねるから、本来女性では作るのが難しい美味しいものが作れるのだろう。
女子力=パワーだと思い知るね。
「ありがとう、明日の朝飯に頂くよ。そうだ、練習していく?」
「はい、お願いします。」
「師匠、よろしくっす。」
そして、俺たちはアパートの中庭に出る。
犬小屋から犬の総司が白い体を半分出してこっちをみていた。
「総司、後で撫でに行くからちょっと待っててな。」
「わふっ!」
賢い子だ。
京太と小花は、微妙な表情で総司を見ている。
あれ?犬嫌いなのかな。
「京太、もしかして犬嫌い?」
「え?いえ好きですよ。師匠的にはあそこの犬はOKなんですか?」
「おう、通るたびに撫でてるよ。大きい犬だけど大人しくてかわいいぞ。」
「(小声で)うわ、師匠は見分けがついていないのか。凄いな。」
「え?なんか言ったか?」
「いいえ、なんでもないですよ。」
へらへらする京太の後ろで、小花が困ったようにオロオロしてしまっている。
ああみえて乙女だから、大きい犬が怖いのかな?
まあいいか。
「じゃあ今日は、乱の型をやろう。」
「はい」
「はいっす」
『おっしゃ』
なんか、ユウ美も小花の横に立って見様見真似で構えてるし・・・
まあ、邪魔しないならいいか。
「一本目、掛けた押し」
俺は京太の前に行き大きく踏み込んで襲い掛かる。
京太はそれに飛び込むようにさばいて俺に足をかけ、胸を殴るように肘で押す。
押された俺は勢い良く背中から倒れた。
京太はその俺を踏み越える。実際なら踏みつけてとどめの意味。
この技は足をかけて倒すというよりも、打ち込んで押して倒す。
ゆえに掛けた押し。
横を見ると、ユウ美が小花相手に掴みかかり技を掛けられていた。
っていうか、小花のシャドウに巻き込まれたのだろう。
何やってるんだ?
そんな感じで二人に指導した。
1時間くらい練習して、終わりの礼。
「ありがとうございました。」
「「『ありがとうござました』」」
ユウ美、見よう見まねで最後まで横で一緒に練習していた。
あれかな。
幽霊は怖い話をすると寄ってくるっていうのと同じかもしれない。
武道や格闘技をすると、ヤンキーが集まってくる感じなのだろう。
ユウ美は楽しそうに拳を握っている。
『よっしゃ、修行していつか町はずれの悪霊を倒してやるぜチクショウ。』
なんか仮想敵の悪霊がいるのだろうか。
っていうか、幽霊相手に武道が役に立つのか?
ま、ユウ美が満足しているなら突っ込むのはやめておこう。
練習の後、犬の総司をモフリまくって楽しんでいると、いつのまにか京太と小花は帰っていた。
やべ、犬に夢中になりすぎて気づかなかった。
ま、お互い大人だから問題ないだろう。
家に入ろうとしたらユウ美がニコニコしながら俺に肩を組む。
『おい豪気、夕飯は小花姐さんのパンにしようぜ。美味そうな匂いだったから朝まで待てないぞゴラァ。』
それは同感だ。
部屋に入ったら、すぐにパンを皿に出してコーンポタージュを作りはじめる。
二人分な。
コーンポタージュを用意している間、ユウ美は一人でゲームをしていた。
俺はこれを「ゲームポルターガイスト」。そう名付けた。
他人が見たらどうなっているんだろうか?
気になるが確認の方法がない。
なぜなら、俺は幽霊が見えないという前提で暮らしているから。
俺にできることは、ひたすら見て見ぬふりをするだけだ。
たとえ、ユウ美が唸りながら苦戦している個所の攻略法を知っているとしてもだ。
次回、阿多野豪気がメイド荘の闇に切り込む。