0003 悲しい引っ越しあいさつ
誤字脱字報告ありがとうございます。
テンションで書いているので、誤字多めでお恥ずかしいっす(汗。
良く考えたら、引っ越しは生涯で2回目。
28歳にして2回目。
最初の引っ越しは、就職して上京してきた時。
今回は会社をやめての引っ越し。
人生の節目は引っ越しが付き物なのかもしれない。
そうだ、
引っ越ししたら挨拶とか行かないといけないのだろうか?
そういうの良く知らないから面倒なんだが。
不動産屋に聞いておけばよかったなあ。
部屋でゴロンとする。
部屋の隅で、ヤンキー風の女子高生の幻覚が俺を睨んでいるが無視。
『おい豪気、おまえ名前はカッコいいのが生意気だ。ゴラァ返事しろ豪気!』
幻覚が俺の名前を呼び出した。うざい。
さてこの後どうしよう。
ほんと、住人に挨拶とかいくべきだよな。
よし、行こう!
作法とか分からないけど、勢いで行っちゃえ。
まずは手土産か。
「引っ越しの手土産は何処に買いに行けばいいんだろうな?」
『10分くらい歩いたところに西友があるから、そこ行けばいいんだよボケ。』
幻覚がなんか教えてくれた。
これは何だろう?
うん、まあ
気にしないでおこう。
俺は財布をもって出かけた。
アパートの敷地内の犬小屋で総司を一撫でする。
「ばう」
嬉しそうに尻尾振って挨拶してくれたぞ。
「可愛い奴め。」
いいなあ、こういう犬がいる生活。
幻覚も、総司を撫でる。
『よしよしよし、構ってくれる奴が来てくれてよかったなあ、総司。』
「ばう」
気のせいだと思うが、総司が女子高生の幻覚にむかって尻尾振ってる。
しかも返事した?
よし、気にしないことにしよう。
アパートの敷地から出ると、いかにも住宅街な街並み。
駅からちょっと離れた場所だけど、住むには悪くない気がする。
で、道まで出てきて気づいた。
どっちに行けば良いのだろう?
すると幻覚女子高生が、鼻歌歌いながら右に曲がって歩き出す。
良くわからないので、ついて行くことにした。
『西友行くの久しぶりだなあ。』
幻覚が上機嫌だ。
赤く染めた長い髪を揺らしながら、ヤンキー女子高生幻覚がニコニコ歩く。
この幻覚、笑顔になることもあるのか。
しばらく歩くと、駅前についた。
駅を通り過ぎ、しばらう商店街を歩くと西友があらわれた。
「お、こんなところに西友が有るのか。これは助かる。」
『アタイが連れてきたんだから礼ぐらい言えやボケェ。』
幻覚を無視して西友に入る。
~買い物中~
ふう、手土産以外にも食品を随分買ってしまった。
「さて帰るか。」
と思ったら、幻覚が居ない。
キョロキョロ探すと、ヤンキー女子高生幻覚は、明らかに首の骨が折れて血みどろな何かにガンを飛ばしていた。
おぉぉぉ、なんだありゃ。
さっと目をそらして、足早に歩きだす。
ヤバイヤバイ。
あれはヤバイ幻覚だ。
少し冷汗が出る。
駅を超え、住宅街の道に入る。
俺は兎に角急いで帰りたかった。
ヤバイ幻覚を見た。
『おい、待てよ!』
ビクゥゥゥゥ!
後ろから肩をつかまれて、思わず飛び上がってしまった。
振り返ると、ヤンキー女子高生の幻覚だった。
ふう、驚かすなよ。
『アタイが悪霊退治している間に一人で帰るんじゃねえよボケが。まだ道に慣れてないんだろ。迷子になったらどうするんだゴラァ。』
幻覚に心配された。
ちょっとお礼を言おうとして、少し口を開きかけて・・・
おっと!
危ない危ない。
危うく幻覚に話かけるところだった。
俺は前を向いて歩きだす。
『おい待てや!さっきアタイに肩たたかれて飛び上がったよな!しかも今返事しようとして少し口開いたよな!アタイの事見えてるんだろゴラァ!』
俺は、後ろから聞こえる幻覚の怒鳴り声を無視してスタスタ歩く。
『馬鹿野郎!そっちの道じゃねえよ、こっちだボケカス!』
おっと、俺は少し考えるふりをして
「おっといけね、この曲がり角はこっちだったかな。今思いだした。」
『おい、アタイが教えてから分かったんだろ!返事しろやクソ野郎!』
親切だが口が悪い幻覚だ。
しかしお陰でアパート<メイド荘>に帰ってこれた。
門をくぐると、犬小屋があり総司が尻尾を振って迎えてくれた。
「ばう」
「よーしよし、出迎えてくれるのか。ありがとうなー。」
わしゃわしゃわしゃ。
おもいっきり撫でる。
よし満足。
俺は自分の部屋に入り、余分な荷物を置くと、手土産をもって101号室に向かう。
俺は外に出たが、幻覚の女子高生は部屋の中でゴロンと横になった。
うん、置いていこう。
ドアを閉めて、お隣さんに行く。
ピンポーン
呼び鈴を鳴らすと、奥から人が歩いてくる音がしてドアが開いた。
メガネをかけたメイド美人の恩田さんが顔を出す。
「はーい。あら阿多野さん。」
「こんにちわ。お引越しのご挨拶がまだだったので。あ、これ詰まらないものですがどうぞ。」
手土産の素麺セットを渡した。
「まあまあ、ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」
簡単なあいさつで終わらせる。
さて次は103号室か。
ピンポーン
呼び鈴を鳴らすと、中から重いものを引きずるような音がドアに近づいて来るのが聞こえる。
ズル、ズル、ズル、、、
その音がドアの前で止まると、ドアが少しだけ開いた。
その隙間から見える室内は真っ暗。
目だけが見える。
「ど、どちらさま・・・ですか?」
声は、しわがれているが、若い男性のようだ。
「こんにちわ。俺は隣の102号室に越してきた阿多野豪気と言います。これ、つまらないものですが宜しければどうぞ。」
「わ、わたしは、今際キワ介です。お、素麺ですか・・・。新聞受けに入れて置いていただけますか・・・。」
バタンと隙間が閉まった。
うわー、コミュ障ってやつかな。
俺は静かに素麺をドアの新聞受けに入れる。
ガタガタ
素麺を受け取ってくれたようだ。
ズル、ズル、ズル、、、
重いものを引きずるよう音が置くに移動した。
あれかな、布団をかぶったまま歩いているのかな。
まあ、他人を詮索しても仕方ない。
俺は2階に上がる。
201号室
ぴんぽーん
すると、奥から「はーい」という声が聞こえてくる。
しばらく待つとドアが開いた。
「はいはい、どなた様ですか。」
いかにも「おばあちゃん」という感じの人が顔を出す。
「あ、はじめまして。俺は102号室に引っ越してきた阿多野豪気と言います。よろしければこれをどうぞ。」
素麺セットを渡す。
「まあまあ、ご丁寧にありがとうございます。わたしは滝沢イワと言います。よかったらお茶でもいかがですか?お茶飲み友達の菊さんも来ていますので。」
「お客さんが来ているんですか?でしたら今日はご挨拶だけで。」
「そうですか、すいませんねえ。また遊びに来てくださいね。・・・・え、なんですか菊さん?え?はいはい、今戻りますよ。」
滝沢さんは、そういいながらドアを閉めて中に戻っていった。
なんか、菊さんという人に呼ばれて戻ったみたいだけど、菊さんの声が聞こえなかったな。
まあ、俺の耳が悪かったんだろう。気にしないでおこう。
よし気を取り直して202号室にゴー
ぴんぽーん
少し待つ。
だが誰も出てこない。
ぴんぽーん。
お留守かな?
まあ、そんな事もあるか。
気を取り直して203号室に。
ぴんぽーん
またしばらく待つが無反応。
ここもお留守らしい。
うん、よく考えたら今は平日の昼間だ。
お留守なのは普通か。
俺は自分が無職なんで、ちょっと感覚がおかしくなっていたようだ。
「また出直すことにしよう。」
階段を下りて部屋に戻るとき、ふと思い出したように犬小屋に行った。
「そうそう、忘れてた。総司にも引っ越しのご挨拶をしなくちゃな。」
さっきついでに買ってきた犬用のお菓子を出した。
「わふっ!」
嬉しそうに尻尾を振る総司。
しかしお菓子には全く食いつかない。
「あれ?こういうの好きじゃないの?まあ気が向いたら食べてね。」
総司の目の前に、犬用のお菓子をおいて部屋に戻った。
ガチャ
「ただいま。」
『おう、おかえり。みんな居たかよ?』
女子高生の幻覚が、ゴロゴロしながら俺のノートパソコンをいじっている。
え?
目をつぶり、
深呼吸をして、
ゆっくり目を開けてみた。
女子高生の幻覚がツイッターしてる。
ん
ん?
んん?
ええええええええええ!
幻覚がインターネットしてるだと!
画面をのぞき込むと
ユウ美@幽霊
というアカウントでログインしてるし、内容も
『幽霊のアタイが居ついている部屋に入居者きたwww.そいつのPCでインターネット出来るようになったぞゴラァwww』
という書き込みが見えた。
そのツイートについたコメントが
『幽霊なのにPC触れるのとかまじウケる。相変わらずぶっ飛んだ幽霊www』
そして返事
『アタイの特技<ポルターガイストWEB巡回>で書き込みしてるだボケェwww』
ちょっとクラっときた。
俺は、震える手でスマホを取り出し。
無言でアドレス帳から弟の優夫を選ぶ。
電話を掛ける。
ぷるるる
ぷるるる
『もしもし。』
「あ、優夫か?元気?」
『兄さん、俺は元気だけど・・・どうしたの?』
「いやさ、俺このあいだリストラされたじゃん。で、引っ越したわけよ。そしたら女子高生の幻覚が見えるんだよ。でさあ、その幻覚がインターネットしてるんだ。俺、かなり病んでるかもしれんわ。」
弟、すこし無言になって、言い出しにくそうな声が返ってくる。
『兄さん・・・昔から幽霊みえるもんね。それ幻覚じゃなくて幽霊なんじゃないの?』
「・・・認めたくないんだが。」
『認めちゃいなよ。正しい認識の先にしか正しい選択はないよ。』
弟のくせに良い事言いやがる。
「・・・やっぱりそうなのかな。」
『そうなんじゃない?』
「俺、霊感とかある自覚ないんだけど。」
『あのさ・・・今だからいうけど、兄さんはお爺ちゃんと仲良かったじゃん。』
「そうだな、おれは爺ちゃんっこだった自覚有る。」
『だからみんな言えなかったんだけど、うちのお爺ちゃん、俺たちが生まれる前に死んでたんだよ。』
「う、う、う、嘘だろ!」
『兄さん以外はみんな知ってるよ・・・・。』
いきなり衝撃の事実!
ちょ、おま、まてよ・・・
すぅはぁ、すぅはぁ、すぅはぁ、すぅはぁ。
え、なに?
じゃあ上京する時に爺ちゃんが
『東京では決して幽霊と話しちゃ駄目だぞ、奴らは自分に気づいてくれる人間を追ってくるからな。』
って言ったのは、幽霊視点からのアドバイスだったのか?
おいおいおいおい、ちょっと待てよ。
心がついていかないぞ。
『兄さん、おーい兄さん?聞こえてる。兄さ・・・・』
ブチ
電話を切った。
そして、楽しそうにツイッターをしている女子高生の幻覚・・・いや幽霊を見る。
俺は固く目を閉じ天井に顔を向けた。
拳を強く握り、今の感情を抑え込んむ。
く、くそ。嘘だろ。
実は俺もうすうす気づいていた。
でも必死に自分を胡麻化していたのだ。
でも、もう自分を胡麻化しきれない。
認めるしかないのか・・・
この女子高生が幽霊だと。
俺は窓を開けて、空に吠えた。
「嘘だあああああ!嘘だっと言ってよ爺ちゃーーーーん!」
青い空の向こうで、なぜか爺ちゃんが良い笑顔でサムズアップしてる気がした。
『うっせーーぞ豪気!内容が聞こえなかったじゃねえかボケカス!』
振り返ると、女子高生の幽霊が動画サイトの生配信を見ている。
俺はすこし涙が出てきた。
PC返して欲しいと思いながら。