0001 家賃が安いよメイド荘
ノリだけで書き始めました(汗。
俺はリストラされた。
元々目をつけられていたのは気づいていた。
俺は趣味に全力で生きていたから。
会社の仕事より、趣味のイベント優先。
飲みに誘われても、面白い事も言わずに気配を消す。
だから会社の方針でリストラ100人という話が出た時、部長は俺もリストに入れたのだ。
その時の部長の言い分がいかしていた。
『リストラ目標が99人だったら阿多野を残したのだが、残念だ。28才ならまだやり直しも利くだろ、頑張ってくれよ。』
何だそりゃ。
辞めさせられたら、そんな言い訳されても意味がないちゅうの。
まあ、退職金がたっぷり出たのが救いかな。
で、いい機会なので安い家賃の場所に引っ越すことにした。
いつ再就職できるか分からないからな。
そして今、不動産屋と一緒に内見に来ている。
部屋のドアの前。
不動産屋は、カギを開けないで俺を見た。
「こちらがお部屋になります。1カ月2万で敷金礼金なしですが、トイレもお風呂もついております。」
俺、めっちゃ驚く。
「え?2万?なんでそんなに安いんですか?」
不動産屋のあんちゃん、目が泳ぐ。
「あはは、、、皆さんすぐに退去されてしまいますので、少しずつお家賃が下がりまして…。」
ぎろりとにらむ。
「はっきり言ってほしいんですが。」
「はい。じつは幽霊が出るという話です。ですので私も怖いものでして、はははは。」
不動産屋がなんでドアのカギを開けないのか、今理解した。
良く見ると、手が震えてドアにカギが刺さらないようだ。
俺はふっとため息一つして、不動産屋のあんちゃんからカギを奪い取る。
「俺は幽霊とか絶対信じないので、家賃を安くしてくれた噂に感謝ですね。」
カギを刺してカチャリと回す。
そしてドアを開けた。
俗にいう2k。
部屋が二つに、最低限の台所と風呂トイレがある。
お、庭も使えるのか?
これはお得すぎる。
ただ・・・
部屋の中に人がいた。
ヤンキー座りした女子高生?
目が合った。
あれ?ここは俺が借りた部屋で良いんだよな。
まだ先住者が出て行ってないのか?
ドアの部屋番号を見る。
102号室。
うん、俺が見に来た部屋だ。
もう一度部屋の中を見る。
やっぱり目つきの悪い女子高生が、部屋の中でヤンキー座りして俺をにらんでいるな。
俺が躊躇していると、一緒に来た不動産屋が、すっと部屋に入った。
睨んでいる女子高生を無視してビクビクと中に入って、部屋をチェックする不動産屋のあんちゃん。
不動産屋のあんちゃんは、窓を開けるために女子高生の前まで行くと・・・
すり抜けた。
そして普通に窓を開ける。
そこで俺は気づいた。
あー、なるほどね。
この女子高生は幻覚だ。
幻覚の女子高生は、長い赤毛で目つきが怖い。
一昔前のヤンキーにしか見えない。
おれがスーと目をそらすと、ヤンキーの幻覚は立ち上がり俺の前に来てガンを飛ばす。
『おい、今アタイと目が合ったよな。見えるんだろゴラァ。』
ガラの悪い幻覚だ。
俺は、幻覚を避けるように部屋に入る。
『おい、今アタイを避けて入ってきたよな。オイ、見えるんだろ。おい、返事しろやゴラァ。』
顔を滅茶苦茶近づけてきた。
ガラは悪いけど、可愛い顔立ちだとおもう。うん良い幻覚だな。
不動産屋のあんちゃんが一生懸命説明してくれているが、幻覚の女子高生が怒鳴って良く聞こえない。
かろうじて、最後の言葉だけ聞き取れた。
「・・・となっております。ご契約されますか?」
目の前の近すぎる幻覚少女から、少し顔を背けつつ
「うーん、前向きに検討してみます。他に良さそうなのがなければココでお願いしようかな。」
「本当ですか!ありがとうございます!是非お願いします。」
不動産屋のあんちゃんは、めちゃくちゃ喜んでいる。
まだOKしたわけじゃないのに喜びすぎ。
まあ、月2万で2部屋庭付きだから、俺の心は8割ココで決めているけど。。
『おい、お前ここに住むのかアアア!ここは甘い場所じゃねえぞボケカスが!後悔しても知らねえぞオイ!やめとけクソが。』
数センチの至近距離で凄んでくる、女子高生の幻覚。
なんだろう、俺は欲求不満なんだろうか?
「では、次の候補を回りましょうか。」
不動産屋のあんちゃんが急々と部屋を出るの俺も一緒に出る。
ばたんとドアを閉めて鍵をかけると、中から騒ぐ女子高生の声が聞こえた。
『おいゴラァ!二度とくんなよボケが!』
騒がしい幻覚だ。
ドアを閉めると、入り口付近に掃除をする女性が居た。
俺と同じくらいの年齢だろうか?
なかなかの清楚美人だ。
そして何故か・・・メイドの格好をしている。
無意識に頭を下げると、向こうもニコリとして頭を下げてくれた。
もしかしてここの住人だろうか?
ふっふっふ、あんな美人さんと同じアパートに住めたらと思うとテンション上がるな。
しかもメイドの格好が似合っていて、もう俺ドキドキ。
女性の横を通り過ぎるとき、敷地の中に犬小屋があるのが見えた。
小屋の中では白くて大きな犬が、穏やかな顔で眠っている。
おお、ここはペットOKなのか?
いいねいいね、俺ってば犬が大好きなんだよな。
小屋に近づく。
犬は寝てるけど軽くなでてみた。
すると目を覚まし俺を見る。
「ワフ」
ペロペロと俺の手をなめる。
あはは、なんか嬉しい。久々の犬とのふれあい。
会社をリストラされてすさんでいた心が、急激に癒される気がした。
すると掃除をしていた女性が俺に近づいてくる。
「動物がお好きなんですか?」
「そうですね。特に犬が大好きでして。このワンちゃんは大人しい子ですね。」
「ふふ、ありがとうございます。総司って名前なんですよ。」
「総司ちゃんて言うんですか。可愛いですね。」
モフモフなでる。
いい感触だ。
女性はニコニコしながら、101号室に入っていった。
おお、ここに越して来たらあの人がお隣さんか。
良いな。
俺から少し離れたところで、所在なさげにしている不動産屋のあんちゃんが、びくびくと俺に声をかける。
「あの、今誰と話していたんですか?」
「え?101号室の女性です。」
不動産屋のあんちゃんは、サーと顔が青くなる。
「その犬小屋には何かいるんですか?」
「あれ?そっからじゃ見えないですか?白くて大人しい犬がいますよ。こっち来てみてみます?可愛いですよ。」
「い、い、いえ、遠慮しておきます。」
みると不動産屋のあんちゃんの膝が震えている。
もしかして大きな犬が怖い系の人なんだろうか?
だったら、早くここから離れさせてあげた方が良いかな。
俺は、もう一撫で総司の頭を触ってから、犬小屋から離れた。
そして、会心の笑みで不動産屋のあんちゃんに告げるのだった。
「ここ、凄く良いですね。ここに決めます。」
三日後。
俺はこのアパートに引っ越しした。
<メイド荘>
ここの102号室が、俺の新しい住処だ。