フォンタジーな世界をさまよう女性
しかし気を失ったのはほんのしばらくだったらしい。間もなくチサは女達にかかえられて部屋の
中に、、、どうやら布団に寝かされた時 ハッと気づいた。老女も女達も心配そうにそれでいて
珍しいものでも見るようにチサを覗き込んでいる。「ここは」どこなのですか と聞いたつもりが
言葉になってなかった。口の中に熱いものでも投げこまれたように乾いて声が出ない。すると
老女が「見慣れぬ顔じゃが、そちは何者じゃ なぜ庭に隠れておった」と 尋ねた。チサは今はもう
何が何だか訳が分からなくなって、ただオロオロと辺りを見回していた。するとその時「旦那様
もしやこの人は、あの松島様がおっしゃっていた娘ではないでしょうか」先程 春江と呼ばれた
年かさの女が言った「おお そうか そうであった。それでこの大奥に訪ねて参ったか」 (ええっ
大奥って)チサは我が耳をうたぐった。しかし老女は続けて「しかしそれは困ったのぅ 松島殿は
先日 急な病で亡くなられた。これ娘 そちは松島殿を頼ってきやったのか」尋ねられても答える
事ができない。周囲の異様な雰囲気に気をのまれ、頭の中はこんがらかり不意に涙が突き上げて
来た。それを老女は松島殿が死んだと聞いての事と勘違いして「憐れよのぅ 松島殿の国元は遠国と
聞いておる。そちが出て来る前に知らせは届かなかったのか」 「確か 松島様のお国は肥前長崎と
覚えまする。我が国の一番南とか聞き及びました」春江がさかしく口添えする。もとより春江も
老女もこの場にいるみなが肥前の名は知っていても、それが江戸からどんなに離れているか我々が
東京と長崎の距離を思うだけの考えはなかった。 明日へ続く




