フォンタジーな世界をさまよう女性
お万の方は天性の美貌の上に心根も素晴らしく、教養もね深い人だったので家光の寵愛は深く、それがいつでも何事にでも家光にとって第一人者でありたい局の気にいらず、2人の仲は決して穏やかなものではなかった。だが そんな局に反抗するかのように彼はもっぱらお万の方のみを愛して、局が薦めたお蘭やお玉(お玉はもともとお万の方の部屋子だったのを局が望み、ひきとって指導し側女として家光に薦めお方様と対抗させた)正室の孝子から薦められたお夏やお里沙とは、あまり親しもうとしなかった。それゆえに局は6人目の側女の必要を感じていた。それも先の4人のことから考えて、人から薦められたのでは無く自分から見初めた女でなければて悟っていたので、家光が大勢の奥女中達を自由に見て回れる花見の宴を、絶好の機会と見て
積極的に薦めたのだ。あいにく自分は風邪を引いて参加できないが、既に昨夜 局の息のかかった年寄り
和島をひそかに私邸に呼び付け「明日の宴にて 少しでも上様のお眼に止まるし女あれば、こなたに知らせてくりゃれ」と くれぐれも念押しして頼んであるのだ。裏にそんな事が巧まれるとも知らず、お花見の当日は
カラリと晴れたよい天気であった。その日は広い庭のあちこちに敷物をひいて酒や料理をたくさん並べ また茶屋風に仕立てた小屋においては、餅や田楽なども並べる。その中では今日一日は上はお年寄りから下は御目見え以下の者も、堅苦しい勤めをしばし忘れて多いに、飲み喰いしゃべり 歌い踊るのだった。その騒ぎにはまるで花も驚き散り急ぐかとも思われる。十分に酒や料理がまわって、皆が陽気になり歌の一つでも出出した頃に、将軍家光はお万の方はじめ一同を引き連れて庭内の散策に出た。将軍やお年寄りが近づいても今日だけは無礼講 皆は踊る手を止めようとしない。家光達もそんな様子を満足そうに見回っているが、その中で一人和島だけは、上様の眼がどの女に注がれるか、足が止まりはせぬかと花もそっちのけで真剣そのものしかし お庭を半分以上 まわったのにそれらしき様子はチラリともない。笑顔で万遍無く笑いさざめく、数多の女中達を見てまわっている。その時 行く手の小高い丘の上で、一段と賑やかな女達に出会った。何やら14、5人の女達がグルリと輪を作ってその中に、眼隠しをした2人が入り手さぐりで足もとも覚束なく
蹴つまずいたり転んだりしながら、相手を捕まえようと必死である。輪の中の2人が面白い仕草をする度に女達がドット笑いくずれる。それは今で言う《お爺さん お婆さん》の遊びだった。 明日へ続く。