愛(いと)姫とチサと家光
家光は大奥に入るのが楽しみになり、滞りがちだった
大奥泊まりもチサの復活と共に増えて行った。
チサやお玉がいない間を勤めたのはお里沙だったが
彼女はついに懐妊する事なく姉島を落胆させた。
チサのお閨再開はお玉の方を刺激し、新たな恨みを
かったが今はどうする事も出来なかった。
チサは愛姫がしっかり立つようになるとすぐさま
歩く練習をさせ始めたので周りの人々は驚いた。
もうすぐ1歳になる頃である。
「まだ お小さ過ぎるのでは、あまりに早く歩かせると
足が、、、 あの~形が」と 正子は危ながる。
幼児の足はがに股であるから足裏全体をつけて立つ事が
出来ねば歩くのは難しい。チサは笑って
「大丈夫 初めから一人歩きはさせないわ。練習よ練習
姉がしていたのを見ていたんだから」と 姫の両手を
しっかり持ち足を自分の足の上 甲におかせてゆっくり
一歩二歩と足を出す。短時間 毎日繰り返していると
姫はすっかりこの遊びが気に入り、正子やおよの達にも
要求して来た。その姿はペンギンのヨチヨチ歩きに
似ているのでほほえましい。たまたま 用事で部屋に
来たお万の方も侍女達もおよの達の格好に笑いを
禁じ得ない。お楽が竹千代共々 訪れた時も愛姫は
かな江の手に捕まって歩き遊びの最中で、それを
見た竹千代は自分がしてみたいと言い、小さな妹の
手をとって一緒に歩く懸命な様は見る者の胸をあつくする。
チサとお楽達 みなこの兄妹の仲がいつまでもと望む
のであった。家光も忙しい政務の合間のひと時を
朝の小座敷の時以外にも大奥を訪れ、この愛らしい姫
とのふれあいを楽しんだ。思えば先の姫 千代姫の時は
産まれた時姫かとがっかりしたし、その後もあまり
交わる事もなくわずか3歳で尾張家へ嫁いで行った為
記憶に残っている事は少ない。かわいいそうな事を
したと今になって思うのである。幼い時の思い出がない。
世継ぎの竹千代には自身二の丸へ訪ねて行ったりするが
長松は向こうから会いに来るだけになる。三男徳松は
三の丸にいるが今だに医師の手から離れぬらしい。
もっと父親らしく見舞いに行ってやらねば等と考える
のだった。
続く。