チサの出産 そして
ほどいて見ると懐かしい品々が、、、
小振りのハンドバッグの中には口紅や手鏡 変色して
しまったティッシュやハンカチが入っている。
チサはハンカチを手に取った。市販の物に母がレース編み
で縁取りをしてくれた物だった。手の温もりを感じる品
である。(お母さん お母さん 私は過去の世界で
赤ちゃんを産もうとしているの。私が母親になるのよ。
お母さんはお祖母ちゃん 決して会えない孫だけど、、、
お母さん 私 怖いわ。心細いわ)必死に心の中で
呼びかけるチサの頬を涙が伝う。およのはその肩に
そっと手を添えた。今は中臈と侍女ではない
「およのさん」 「おチサさん 大丈夫よ」二人は手を
握り合った。「力にはならないけど私 側でじっと
お祈りするわ」 「ありがとう およのさんが側にいて
くれるだけで私は」と その時 顔をしかめた。
「おチサさん」 およのの不安そうな顔 その時また
微かな痛みが来た。「およのさん もしかしてそうなの
かも知れない。産婆さんを」 「はいっ」 およのは
飛び上がるように小走りに、、、間もなく産婆が呼ばれ
産室が浄められた。チサも白無垢の装束に着替え
髪も引っ詰めに結ぶ。およの達付き添いも白装束に
着替え襷がけをする。陣痛は始まったばかりだが
およのはじめ一同は緊張して、知らぬ内に目が眉が
吊り上がったキツネ顔 チサは産室に入る時ハンカチを
手鏡とり手首に縛り付けた。母の力を遠い未来から
授かるよう思いを込めて、、、
チサの陣痛が始まったことはすぐさま、かな江によって
お万の方に知らされる。お方様は後の用を和島達に任せ
急ぎ北のお部屋に向かう。かな江は梅山の部屋にも
知らせに行った。梅山は顔色を変えて頷くと
日頃 信仰する阿弥陀如来の持仏の前に座り静かに
読経を始めた。部屋子達もその後に座り手を会わす。
その中にはチサやおよのの同輩だった女もいた。
時を同じくして家光にもその知らせは届いた。
彼はその時書見をしていたのだが、チサの陣痛を
聞いてから文字が目に入らず同じ所を何度も読み返し
まさに心ここに有らずという様子だが、うろうろと
歩きまわることも出来ず一人悶々と時を過ごした。
続く。




