表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/184

チサの出産 そして

初めチサは乳母などいらない 自分の乳だけで育てると

言い張ったのだが、当時は高禄を取る武家では必ず

乳母をつけるのが一般常識であった。大名ともなれば

子供一人に付き守り役 乳母は当たり前だった。当時も

今もお産は大変なもので、生母の健康の為という説も

残っている。実際 乳児の死亡率や体力を使い果たして

産後の日立ちが悪いと言われるような妊婦の死亡率も

今に比べると比ではなかった。当時のしきたりが

そうであるならチサとて一概に反対する事も出来ない。

だが 乳母に任せ切りにはしないと心に誓う。

数日後 正子はお万の方に連れられてご生母となる

チサと面会した。「チサ 御子様の乳母になる正子と

申す者じゃ」 「お初にお目にかかります。井原正子に

ございます」 チサは正子と聞いてちよっとびっくり

したような顔をしてから「チサと申す。よろしゅう頼み

ます。でも そなたのお子はどうして来たのじゃ」と

尋ねる。「3月前 次男を産みましたが夫の急死後

 里に帰らされました」 「まぁ それではお子と別れて」

チサは涙ぐみそうになる。この世界では女の立場は弱く

婚家から帰らされる妻も少なく無い事は知っていた。

「辛かったでしょうね」と 慰めても正子は平伏したまま

何も答えなかった。その横顔が朱らんで見える。

チサは気を変えるように「正子とはどういう字を書くのか」

「正しい子でございます」 「そうですか」実はチサの姉が

字は違えど真沙子と同じ読みであったから、さっきは少し

驚いたのだった。姉と同じ名を持つ正子に親近感を覚え

チサの印象は悪くなかった。「これからよろしゅう頼みます」

「精魂 込めてお仕え致します」と 乳母との顔合わせを

してから10日後 いよいよその日が来た。その日は

朝から何か気が落ちつかず、椅子に腰かけてボーと庭を

眺めていても何か心が騒ぐ。「およの」 チサはおよのを

呼び寄せ小声で長局にある私の長持ちの中から朱の

風呂敷に包んである物を取って来てくれと頼んだ。

「風呂敷でございますか」 「およのさんにしか頼めないの

 私が梅山様のお部屋に来た時 持っていた物よ。

 およのさん見たでしょう」 「ああ あの珍しい」

およのはクルッと回って出てくる口紅を思い出した。

「行って参ります」 「お願い」 間もなくおよのは朱色の

風呂敷に包まれたチサの私品をそっと持って来た。



続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ