お玉の懐妊 そしてチサ
そんなチサの異変に気付いたのはお万の方
「チサ どうしました。何か気になることでも」
「いいえお方様 この風のない蒸し暑さが身体に纏わり付く
ようで」 「確かに蒸し暑くはあるが、、、」
「お方様」 その時 いつも側近くに控えるおよのが
ためらいがちに膝をすすめる。「どうした およの」
「はい おチサ様にはこの頃 お食事を厭うておられる
様子にございます」 日頃 チサに付いて行動を共に
するおよのの言葉にお万の方は頷き 「こなたも少し前
から何やらいつもの元気がないようなと思って
おりました。チサ 気がねなく申すが良い」と
心配そうな顔で尋ねる二人 チサは困ってしまった。
このところ 何となく気が重いのは暑さのせい
どこも痛くも痒くもないのだがと返事を渋っていると
「一度 お匙に見て貰おう」と お方様は決心した様子
「そんな どこも悪くはございませぬ」慌てるチサに
「そなたはいつも弾けたような笑顔でいるのが、あまりに
普通になりすぎ 少し静かでもおかしいと思うもの
です。何もなければそれで良い わらわを安心させる
ため、一度お匙に見て貰わぬか」と優しく言われると
承知するしかないチサであった。 翌日 その日の
当番医 宗安は今でいう内科医であった。彼はチサの
身体を詳しく調べ「今さしてどこが痛むというような
所はございますか」と 尋ねた。「いいえ どこにも」
心細げに答えるチサ 本当に今までこんな事はなかった
のだった。「さようでございますか お食事などもお進み
でしょうか」 「この暑さのせいか前よりは少し少なく」
宗安は頷き 安心させるように「取り立ててどこもお悪く
ございません。強いて言えば」と およのにも向き
「お方様に申し上げたき事が、、」心得て下がるおよの
続く。翌日




