フォンタジーな世界をさまよう女性
手鏡 口紅 ファンデーション 財布 ティッシュ ハンカチ 家を出る時、風邪気味だからと母が持たせてくれたカプセルの風邪薬 (ああ お母さん)それらの品を見ると、また新たな涙が湧き上がる。死にたい
死んでしまいたい 突然 そんな思いが胸を締め付けた。こんな世界に 今までとはまったく違う昔の世界で
女一人生きて行けるはずがなかった。チサはすべてを失ったのだ。その時「お茶をどうぞ」およのが茶を立てて戻って来た。今はとてもお茶を飲む気になれなかったのだが、心配そうに差し出すおよのの顔を見ると、受け取らずにいられない。手に取ってひと口 含んでみると温かさが胸に染み渡る。その温かさは身体中に染みて心を落ち着かせてくれた。喉を伝わって流れるお茶はチサに生きている事を感じさせてくれた。(生きているんだわ 命があったんだ)だが それがどうしたと言うのか、生きてはいてもこの身ひとつで現代と繋がるものはひとカケラもない。家族も友人もあらゆるもの全て 手の届かぬ遥かな世界なのだ。それを思うと死んでしまいたくなる。 「これ みんな変わった物ばかりねぇ 私 こういうの見るのは初めてよ」 その時
およのがハンドバッグから出していた小物をしげしげと見ながら言った。 無理もない、それは20世紀現代の物なのだから、、、「肥前の国ではこういう物を持って歩くの これは何なの」と 口紅と風邪薬を指して聞いた。 「これは口紅よ こうやって開けるの」と 説明するとおよのはびっくり。眼を丸く見張って「あらぁこれ紅なの こんな棒みたいになっているのね。くるっと回って出て来るわ 凄い 便利ね。じゃあこれは」
「それは風邪薬なの」 明日へ続く。