ファンタジーな世界をさまよう女性
さては伊豆守の言っていた会う手だてとはこの事だったのか。
「そうです。 そなたが話し合いたい時 こなたにゆうて
くれれば中奥に参り、こなたは上様に そなたは侍女の
控えにて伊豆守様と というはずになる。
また これは上様には内密にしておかねばならぬ事ゆえ
心しておくように」 「分かりました」
「先日 上様よりこなたに中奥に出向けとのお呼び
何事かと急ぎお伺いしたところ、珍しい茶器が手に
入ったとの事 お万に見せとうてとの思し召し
このようにいつ何時 お呼びがかかるか分からぬ。
そのたびにそなたについて行って貰うのは面倒な事
それゆえ常の時は雪野に頼もうと思っています」
雪野という人は長年 お万の方付きの侍女として勤めて
来た20代後半といった落ち付いた物腰の人であった。
「さようでございますか」
「あれは心効き足る者です。 そなたが侍女として中奥に
行かねばならぬ時がある事を話してあります。
そなたもおよのやかな江達に良く、言い聞かせて
おくように」 「かしこまりました」と いう事で
チサは伊豆守に用がある時は、お万の方に申し出て
中奥まで侍女として連れて行って貰い、大奥に近い
控えの間において伊豆守と会うという少々面倒臭い
手段をとる事になった。それほどまでにお手付き
中臈は自由がなかったのである。
その年 家光に次男長松が誕生した。
生母はあのお夏で、この長松は長じて綱重となり
甲斐の国 甲府の藩主となりその一子 綱豊は将来
綱吉と五代将軍の座を巡って争う事に史実では
なっていた。だが今は綱重が産まれたところ
この先はどうなるのか誰にも分からない。
続く。