フォンタジーな世界をさまよう女性
20世紀に生まれ育ったチサが怪しい機械に乗せられ過去の世界へ送られ親兄弟や友人達共
切り離されて一人新しい世界で生き抜く決心をする。
「そんな」 「遠慮なさらずに 遠慮して頂く程入っておりません。どうぞ」と 封筒を差し出す。「そうですか
それでは」 「そうして下され」チサが封筒を受け取った時、階下で電話のベルがなった。婆やさんが慌てて
降りて行き間もなく老人に知人の方からの電話だと告げた。山中老人も階下に降りて行きチサは一人になった。
そうすると急に辺りの静けさが感じられた。もうピアノの音も子犬の声も聞こえない。広い家の中で3人きり
と言うのは寂しいと言った婆やさんの言葉が実感として分かるなと思いながら帰る身支度をしていると
山中老人がにこやかな顔で入って来た。「お客様を一人に静か悪かったですな」 「いいえ ちっともそろそろ
失礼しますから」 「えっ そうですか それはちよっと残念だったなぁ」と 老人は急に寂しげな様子
「何か御用でも」 「いや 用と言うほどでは無いがわしの研究室をお見せしたかった。いや 是非とも見て
頂きたくて今用意をして来たところじゃ」 「まぁ それは」 「お嬢さんがさっき興味があると言ってらした
ので久しぶりにわしの研究成果がご披露できると喜んで、、、いや 年甲斐もなく 笑って下され。ついつい
いい気になって」と寂しく苦笑した。チサには息子夫婦に去られ生き甲斐というべき仕事もなくなった老人の
寂しさが良くわかった。そういえば7年程前に死んだ祖父も長年勤めた会社を、退職してからは急に老け込み
爺くさくなったのを思い出す。チサは寂しそうな老人の顔を見るにつけ、何かこのまま帰りづらい気持ちに
いつしかなっていた。(少しくらい遅くなってもいいかな まだ2時前だし家には後で電話しておいて」そう
考えると「せっかくだから見せて頂きます。あまり長居はできませんが」と明るく言っていた。
過去の世界 江戸初期の大奥に送られたチサの苦悩しながら生きる姿を綴る。
大奥での生活に馴染まぬチサだったがある出来事により思いがけない生き方が示された。