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片思いの襟巻き

作者: nightwalker
掲載日:2019/02/23

 用事を済ませた私は、駅に向かっていた。橋を渡り、次の信号に着くと、左側の路地に人が集まっているのが見えた。道路の真ん中にピエロの格好をした人形が置かれていて、手にチラシの束のようなものを持っている。私はそれに近づいてみた……

「うわっ……」

 突然ピエロが動いた。彼はチラシを一枚、私に差し出した。それを受け取ると、ピエロはまた元の姿勢に戻った。

 チラシによるとフリーマーケットが開かれているらしい。私は少し寄り道して、覗いて見ることにした。出店品のほとんどは服と骨董品だった。中には頭蓋骨の付いた杖や棺などという、悪趣味な物も並んでいた。

 しばらく歩くと、毛皮のコートばかりを並べた売り場があった。値札を見ると、思ったほど高くはない。1着くらいなら、今の手持ちで買えそうだ。

「ゆっくり見ていってくださいね」

 出店者らしき色白の女性が声を掛けてきた。年齢は40歳くらいだろうか。どこか日本人離れした目鼻立ちをしていた。

 コートの列の端には、黒い狐の襟巻きが吊るされていた。顔の付いた襟巻きを見るのは初めてだった。本物かな、と手に取ってみると、

「それが気に入ったの」

 女性が聞いてきた。

「こういうのを見るのは初めてなので」

 私は正直に答えた。すると彼女は、

「それは少々「いわくつき」でね」

 と微笑み、その襟巻きにまつわる物語を語り出した。


 その襟巻きを最初に手に入れたのは一人の女性。ヨーロッパのある国で買ってきたらしい。彼女には、昔から好きだった人がいた。「お兄ちゃん」と呼んでその人を慕っていた。けれど彼女は、その人と結ばれることはなかった。後で知ったことなのだけれど、別の男が彼女に恋をしていて、「お兄ちゃん」に身を引いてくれるよう懇願したらしい。その姿があまりにも痛ましくて、彼は承知したのだった。そして「お兄ちゃん」は別の女性と結婚した。

 それから時が流れ、彼女は「お兄ちゃん」と再会した。そして、彼の結婚記念日に、妻への贈り物としてその黒い狐の襟巻きを渡した。

 彼の妻はそれを気味悪がった。自分への嫌がらせだと、興奮する妻に困り果て、彼は自分の息子にそれを押しつけるようにして譲った。息子も処分に困り、同じ職場に好意を寄せている女性にそれを贈った。そのすぐ後に彼女は会社を辞め、それきり連絡も取れなくなってしまった。


「この襟巻きにはね、片思いの呪いがかけられているんだよ。永遠に結ばれない悲しい恋の呪いが」

 女性は話を締めくくった。

「あなたはこれを、「お兄ちゃん」の息子さんから貰ったの」

 私が聞いても、彼女は答えなかった。私はその襟巻きを買った。

 それから家に帰り、それを綺麗に包装した。

「もし本当にこれに片思いの呪いがかけられているのなら」

 私は机の上の写真を手に取った。

「きっと私の思いを押さえつけてくれるはず」

 写真には制服姿の私と、年上の綺麗な女性が写っていた。そしてその間に一人の男性。私の大切な……大好きな兄が。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても切ないお話で、胸を締め付けられるようでした。 文章も抵抗なく読め、読みやすく感じました。 [気になる点] どこか淡々していて、感情を表していないように感じられました。 とても切なく、…
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