片思いの襟巻き
用事を済ませた私は、駅に向かっていた。橋を渡り、次の信号に着くと、左側の路地に人が集まっているのが見えた。道路の真ん中にピエロの格好をした人形が置かれていて、手にチラシの束のようなものを持っている。私はそれに近づいてみた……
「うわっ……」
突然ピエロが動いた。彼はチラシを一枚、私に差し出した。それを受け取ると、ピエロはまた元の姿勢に戻った。
チラシによるとフリーマーケットが開かれているらしい。私は少し寄り道して、覗いて見ることにした。出店品のほとんどは服と骨董品だった。中には頭蓋骨の付いた杖や棺などという、悪趣味な物も並んでいた。
しばらく歩くと、毛皮のコートばかりを並べた売り場があった。値札を見ると、思ったほど高くはない。1着くらいなら、今の手持ちで買えそうだ。
「ゆっくり見ていってくださいね」
出店者らしき色白の女性が声を掛けてきた。年齢は40歳くらいだろうか。どこか日本人離れした目鼻立ちをしていた。
コートの列の端には、黒い狐の襟巻きが吊るされていた。顔の付いた襟巻きを見るのは初めてだった。本物かな、と手に取ってみると、
「それが気に入ったの」
女性が聞いてきた。
「こういうのを見るのは初めてなので」
私は正直に答えた。すると彼女は、
「それは少々「いわくつき」でね」
と微笑み、その襟巻きにまつわる物語を語り出した。
その襟巻きを最初に手に入れたのは一人の女性。ヨーロッパのある国で買ってきたらしい。彼女には、昔から好きだった人がいた。「お兄ちゃん」と呼んでその人を慕っていた。けれど彼女は、その人と結ばれることはなかった。後で知ったことなのだけれど、別の男が彼女に恋をしていて、「お兄ちゃん」に身を引いてくれるよう懇願したらしい。その姿があまりにも痛ましくて、彼は承知したのだった。そして「お兄ちゃん」は別の女性と結婚した。
それから時が流れ、彼女は「お兄ちゃん」と再会した。そして、彼の結婚記念日に、妻への贈り物としてその黒い狐の襟巻きを渡した。
彼の妻はそれを気味悪がった。自分への嫌がらせだと、興奮する妻に困り果て、彼は自分の息子にそれを押しつけるようにして譲った。息子も処分に困り、同じ職場に好意を寄せている女性にそれを贈った。そのすぐ後に彼女は会社を辞め、それきり連絡も取れなくなってしまった。
「この襟巻きにはね、片思いの呪いがかけられているんだよ。永遠に結ばれない悲しい恋の呪いが」
女性は話を締めくくった。
「あなたはこれを、「お兄ちゃん」の息子さんから貰ったの」
私が聞いても、彼女は答えなかった。私はその襟巻きを買った。
それから家に帰り、それを綺麗に包装した。
「もし本当にこれに片思いの呪いがかけられているのなら」
私は机の上の写真を手に取った。
「きっと私の思いを押さえつけてくれるはず」
写真には制服姿の私と、年上の綺麗な女性が写っていた。そしてその間に一人の男性。私の大切な……大好きな兄が。




