6、やっぱり彼女は盗賊頭だけど優しい。
魔族はチートである。
漫画とかゲームの中では、魔力が強い存在で、聖なる魔法に弱いとかあるけど、この世界の魔族は少し違う。
魔族に基本的物理攻撃はほとんど効かない。理由としては身体能力が高いというのがある。
そして魔法も強いから魔法も効きにくい。人間の魔力と比べて10倍近くあるとされているぐらいなのだ。
光属性はなんとか魔族に対抗できるというか唯一魔力的な抵抗を受けにくい属性だから効いているだけであって、別に弱点というわけではないのだ。
物理に強く、魔法に強く、弱点らしきものも魔力が弱ければ効きにくい、
これなんて無理ゲー?ってぐらいチート具合が高い。
だからこの世界で魔族に会うということはほとんど死を意味する。
だがしかし・・・・
上から重力に従って落ちてくるルビアスは白目をむいていたのに、落ちてくる間に意識を取り戻したのか態勢を整えて、後ろにとんだ。
ちなみにこの間、一切ルビアスは床に足をついていない。
「貴様ぁぁぁ!!俺を誰だと思って」
デュクシッと細い指がルビアスの目にクリティカルヒットする。容赦ないなぁ・・・
ルビアスが顔を抑えて悠李から目をそらした瞬間、悠李の体が跳ね、飛び上がる。
ぎゅるっと何回転かした悠李がひゅっと空気を切ってその足をルビアスの頭めがけて振り下ろす。
ゴッときれいにヒットした。
「ガッ」
前のめりにルビアスが倒れていく。そして起き上がる様子はない。
スタッと降りたった悠李は何もないところから片手に乗るぐらいのガラス玉を取り出した。
そしてルビアスの体をひっくり返し、口元に近づける。
「魂封」
その言葉に反応して玉が光りだすと同時に、ルビアスの口から何かどす黒いものがあふれ玉に吸い込まれていく。
そのどす黒いものが途切れ、完全に吸い込まれると光が消えて透明だったガラス玉が真っ黒に染まっていた。
「ゆ、悠李、それは?」
「エルド作成の封印道具『魂封』、梱包とかけているらしいけど、結構高いし、あまり使いたくない道具だな」
かけている意味からも絶対ろくなものじゃないよね、それ。
ルビアスはピクリと動くこともない。まるで死んでいるようだった。
「まぁ、採算はとれるからいいが・・・後処理がめんどくさそうだな、この状況」
《ざまぁねぇな!!魂封印されてやがる!!魔族にとっちゃ屈辱中の屈辱!!》
いつのまにかまた現れたドラゴンが爆笑といった様子でルビアスの体を指さして笑っている。
《このあとこの体はどうなるんだろうなぁ?!人間の魔力装置の動力源か、はたまた実験体か?いやいや、人間相手にこびへつらい生きる人生か!!いやぁ!愉快だなぁ!!》
「とりあえず、この魔族は持って帰らなきゃいけないな。放っておいたら面倒がさらに増える」
《あ、なんか魔族倒したらこいつへの怒りが噴き出してきた、今度こそ呪ってや》
「さて、優紀、実はトンワルは魔族に支配されていて、シスターが見抜いて、なんとか追い払えたって体でいくぞ」
「・・・・ほぼ事実と変わんないよね、それ」
まぁ、トンワルは協力してたんだけどさ・・・・
あとドラゴンが悠李をにらみつけた途端、スッと消えたんだけど、悠李って本当に何者なんだろう・・・・
「協力してたとかいったらなんでそんなこと知ってんの?って言われかねないから支配に見えたとかのほうが楽」
「あー・・・」
「で、魔族がバレたことでキレて暴れてどっかいった。さらにそのせいでトンワルが死んだってことにしよう」
「オークになったとかは?」
「・・・あ、そうか知らないのか・・・・」
「へ?」
悠李が少し驚いた顔して理由を教えてくれた。
「人間がモンスターになるなんて魔法、みんな知らないんだ。そんなのが世に出たらパニックになる。もしかしたらそこら辺にいるモンスターも元人間なんじゃないかってな・・・」
「え・・・そうなんだ・・・」
そっか、私たちの世界ではよくある設定だけど、この世界ではありえないことなんだ。
そりゃ、パニックになるわ・・・
「魔族がモンスター召喚するって結構あることだから、トンワルは生贄になったって言えばいいだろ」
「ほとんど事実だしね」
「さてと、とりあえず子供の姿に戻るか」
〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△
悠李が魔術具をつけて子供の姿になって少しして、音を聞きつけたのか人がやってきて、私たちは状況を説明するように求められた。
あらかじめ決めていた通りの内容を説明した。少し疑われたが、悠李の迫真の演技によってすぐ信じてくれた。トンワルの屋敷にいた奴隷は全員奴隷商預かりになった。ほとんどの人がほっとした表情をしていたから随分ひどい扱いだったのだろう。
浅間さんが目を覚ますまで3日ほどかかった。スキルの効果は切れていたが、奴隷契約が切れたので縛られていた感覚がなくなって安心して眠り続けていたのではないかとは悠李の考えである。
その間に近くの街の役人がやってきたりしたが、トンワルの家を探索した後少し怒った様子で去っていった。
・・・多分だけど、トンワルの財産とかを探しに来たんだろうね。でも、トンワルの屋敷にはお金になりそうなものは一切残っていなかった。
役人は街の人がとったのかと疑っていたけれど、まったく証拠がないので、何も言わなかったし、大っぴらに探せないから強く聞くこともできなかった。
真実を知っているかもしれない奴隷たちもみんな口をつぐんで何も言わなかった。でも、奴隷たちがものをとっていったわけでもないのだ。それは奴隷の確認をした奴隷商が保証している。
まぁ、トンワルの家にあった奴隷たちとの契約書もどこかになくなってしまって、奴隷商のところにあった契約書をもとに確認した時に、借金が思ってたより少なくなっていたことが少し関係しているのかもしれないが、誰もそれを言っていないから役人にはわからないだろうね。
え、なんで私が知ってるかって?いや、ほら、奴隷商に知り合いがいる親友がこそっと教えてくれたんだよ。
「まぁ、不当な契約でもきっとどこかに抜け道があって少しは借金を返していたたことになっていたんだろうな」ってね。
本当に悠李ってしれっとそういうことするよなぁって思った。本当に優しい人である。
〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△
浅間さんが目を覚まして、状況を説明した。
きっと安心するだろうと思ったし、喜ぶだろうと思った。
でも、違った。
「・・・ということは、私はまだ奴隷ってわけ?」
「うん、でも、交渉次第ではトンワルより全然いい環境で「ふざけないでよ!!!」・・・浅間さん?」
「私は!もうずっとつらい思いをしてきたわ!!トンワルだって死んだんでしょ?!だったら普通は解放されるじゃない!!まさか、あんたたち、私を売ったんじゃないでしょうね?!」
怒り、絶望、そういった負の感情を纏って浅間さんは叫んだ。
私は思わず固まってしまった。私たちは浅間さんを救ったといってもいいぐらいなのに、彼女は私たちに怒りをぶつけている。
「もう奴隷は嫌!あんな思いしたくない!!だったらもう死んでしまいたい!!」
「浅間さん・・・」
「ねぇ!クラスメイトでしょ?!その装備高そうじゃない!売って私を助けてよ!クエスト受けて私を助けてよ!!だってあなた聖「そこまでする義理はないだろう」はぁ?!」
聖女という単語が出そうになった時に少し離れたところにいた悠李が口をだした。私はあまりに予想外な展開にぽかんとしっぱなしだ。でも、そこではっとした。
ここは一般の人もいる。そんな中で聖女なんて身分バレたら、ろくなことにならない。
「力量ミスってクエスト失敗したのは自分だろ」
「あのねぇ?!どう考えても私は騙されて・・・!」
「先に情報を仕入れなかったせいだろ。しかもその結果、思いっきり不当な契約を結ばされたのも自分だろ」
「私がどれだけつらい目にあったと・・・!」
「それも自分のやったことの結果だろ。それに奴隷になってからお前、抜け道探そうとしたのか?」
「!!・・・した「嘘だな」・・・!」
「周りの奴隷も不思議に思っていたそうだ。あんな不当な契約結ばれたのに助けを求めず、心配されても、放っておけといわれる。あの子は自ら望んで奴隷になったのか?って」
浅間さんの顔が真っ赤に染まり、ギュウっと拳が握られる。
言い返せないんだろう。多分全部図星だから。
「それなのに、見捨てず何とか助けようとした優紀や私に怒声を浴びせて、自分のは悪くないとばかりにわめく。あんた、恥ずかしくないのか?」
「クラスメイトなんだから助けるのは当たり前でしょ?!なのに奴隷のままにするなんて!あなたたち、頭おかしいんじゃないの?!」
「クラスメイトなのに王都から1人逃げ出して、不当な扱いをされていたのもわかっていたのに放っておいたくせによく言えるな。そんなこと」
「!!!」
浅間さんの言葉は全部自分に返ってきた。きついことを言っているのは私でもわかる。
だけど全部真実だ。だから、私は何も口が出せない。
「こうなるのがいやだったら王都にいるか、他の仲間とでも一緒にいればよかったんだ。なのに自分の力量を過信して、情報を集めず、どうにでもなる、誰かが助けてくれるなんて考えてるからこんなことになった」
「だって、私は選ばれた存在で、すごい魔力だってある!だから・・・!」
「あのな」
悠李がとことんあきれたという表情で浅間さんに言った。
「あんたは漫画の主人公でもゲームの主人公でもない」
「確かにすごい魔力を持ってるかもしれねぇが、使えるように学ばなきゃ宝の持ち腐れ。持ってるだけでできるようになるなんて、ない」
「だって・・・ここは・・異世界で、私は召喚されて・・・」
すがるようにつぶやく浅間さんにさっきまでの勢いはない。ようやくわかってきたんだろう。
「確かにあんたにとっちゃ異世界かもしれない」
「だったら・・・!」
「でも、ゲームでも漫画でも小説でもない」
希望を見つけたと言わんばかりに輝いた眼はすぐに弱くなる。
「ここは現実だよ、アサマさん。夢なんかでもない。生きるためには食べなきゃいけない、稼がなきゃいけない、怪我をすれば痛い、元々当たり前だったことが当たり前の現実なんだ」
「・・・・」
「・・・・あんたが何を失ったか、なにをされたか、私は知らない。だけど、今までこの世界を現実だと認めないで夢だと思い込んで行動していたのは自分だ」
「何度かその夢を覚ます機会はあったはずなのに、楽なほうへ楽なほうへと進んで、自分を過信し続けた結果がこれだ」
「・・・・随分とでかい代償払って夢から覚めたもんだな」
「・・・・げんじつ」
「そうだ」
「私が・・・あいつにされたことも・・・げんじつ」
「何をされたか知らないが、そうだ」
「奴隷なのも、ここにいるのも・・・・現実」
「そうだ」
「あっちに帰ったら消えるんじゃないの?きれいさっぱりなかったことになるんじゃないの?」
「ならない。あんたが奴隷だった事実は消えないし、その借金がある限りあんたは奴隷から逃れることもできない」
「あっちに帰れば、追ってこれないでしょ?」
「奴隷契約は強い魔法だ。死んでも、契約が生きる限り奴隷を縛る。それに実際、そういったことをしようとした奴隷はいたが、悲惨な目にあっている。おすすめはしない」
「ふざけないで・・・ふざけないでよ!!なかったことになると思ったから耐えれたのよ!!あっちに帰れば全部なかったことになって、あの時からやり直せるって思って・・・!」
「・・・・そう思うならそうすればいい。ただ、私は無理だと思う」
「ほら!絶対無理とは言えないじゃない!!あんたはあきらめてるだけよ!私は絶対にあきらめない!あんなことなかったことにしてやるんだから!!」
明るくなった浅間さんに対して悠李は小さくため息をついて、浅間さんから目を離し、私を見た。
「ね!一条さん!私と一緒に頑張りましょうよ!あんな冷たい奴放っておいて私と一緒に・・・」
「私は、悠李を信じているので、浅間さんの手伝いはできません」
きっぱりと言い切る。きょとんとした浅間さんから離れて悠李のもとに向かう。
「もう浅間さんにできることはありません。これから頑張ってください」
一人でとは言わなかった。もしかしたら浅間さんに協力する人ができるかもしれないから。
悠李に続いて部屋を出る。
「なによ!もし帰る方法見つけても教えてなんて上げないからね!!」
そう叫んだ浅間さんを振り返ることはしなかった。
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アジトに帰って悠李の部屋のベッドに転がる。悠李はエルドのもとによっていていない。
浅間さんの言葉は少しきいた。
私だって悠李に会わなければ浅間さんと同じ運命をたどっていたかもしれない。
本当に私は運がよかったのだ。
「何してんだ、優紀」
ばたんと音がして悠李が近づいてくる。あ、帰ってきたんだ。
「いやー・・・思った通りにいかないって思ってね」
「そんなもんだろ、人生って」
「違いないけどねー・・・つらみ」
少しは感謝されるかなって思ってた自分がいた。怒鳴られたのを理不尽だと思う自分もいる。
「・・・浅間さんどうなるんだろうねぇ」
「さぁな、手助けはしたし、情報も手に入れた。あとは自分の頑張り次第だろ」
「・・・悠李的にどう思う?」
「・・・・あの性格じゃ、自分本位な条件ばっか出して、買われないんじゃないか?しかも高いし」
「そうなると奴隷ってどうなるの?」
「・・・さあな。まぁ、この世界はわがままばっかり言ってると取り返しがつかなくなるってことぐらいしかいえないな」
悠李がはっきりといわず言葉を濁すってことは相当ってことだ。ちゃんと自分で覚悟をもって調べよう。
知らないってことは怖いことだもの。
「・・・仕事がうまくいったからな、打ち上げやるみたいだ」
「・・・そっか」
悠李が伸ばしてくれた手につかまって、ベッドから起き上がる。
トンワルの家の財宝をもらったのは悠李の盗賊団だ。私たちがトンワルの気を引いている間に、盗賊たちが屋敷に侵入。そしてごっそりもらって、その何割かは奴隷たちの借金に当てて、奴隷たちを黙らせた。
本当に悠李はすごい。私の望みもかなえながら、しっかり盗賊頭として盗賊団に利益を与えたんだから。
「なんかいっぱい飲み食いしたい気分」
「今回は優紀も頑張ったからな、遠慮せずガンガン食っていいと思うぞ」
「そっか」
悠李に優しく手を引っ張られて、部屋を出る。
1階ではすでにみんな集まっていて、うずうずしている。
物語である冒険者の打ち上げみたいだなぁと思った。でも、彼らはみんな盗賊なのだ。
「えー、今回久しぶりの大仕事、しかも大成功だった。今日は無礼講で楽しんでもらいたい!!」
「ひゅー!お頭ー!」
「がっぽりで懐もあったかいぜー!!」
「では、カンパーイ!!」
「「カンパーイ」」
悠李が音頭を取れば、そこらかしこでガンっとジョッキが当たる音がする。
たくさんの笑い声、歌声、そして踊りだす人、一発芸をする人。
私は本当に運がよかったのだ。そして幸せ者なのだ。
後悔するのは今日だけにして、明日からはテンション上げて頑張っていこう。
食べ物に突撃し、舌鼓をうって、芸を見て笑い、カラクさんが悠李に飛びついたのをみて慌てて、きれいによけられたのを見て爆笑して・・・・
そこから記憶が曖昧である。
あとから聞いた話によると、うとうとし始めて、机に突っ伏して寝てしまったのだとか。
そして悠李がベッドに運んでくれたらしい。
おきたとき、悠李がいたのにはとてもびっくりしました。
そして「お頭、朝っすよー!!」といってベッドに飛んできたカラクさんの顔面にめをつぶったままきれいに拳を入れたのはもっと驚きました。
なんというかとってもしまらないね・・・・・