4、無理難題も、意外と解決策を出すのが彼女です。
「なんというか・・・現実を見たというか・・・」
「エルドにコテンパンにやられたな」
「それな!あー、本当に自分が恥ずかしいぃぃぃ!!」
シリアスが続くと思った?残念、明るさだけが取り柄の優紀ちゃんは沈んでばっかいられないのだ!
・・・おえっ、自分で言ってて気持ち悪くなった。
アジトに帰って悠李の部屋のベッドに飛び込んでごろごろする。
「そうだよ、別に私は正義のヒロインってわけじゃないし!何でもかんでも救おうとするとか傲慢かな?!あー、今まで自分を主人公と思ってたのが恥ずかしい!!」
「みんな誰でも人生の主人公」
「いい言葉だけど、今は違うんだよねー!」
この世界をまだどこかで、何かのストーリーだと思っていて聖女の私は何でも救えるだなんて思っていたんだ。
自分の身一つ守ることができないくせに。全く思い上がりにもほどがあるぜ!(ヤケクソ)
「どこかでこの世界を何かのストーリーだと思ってた。その中で【聖女】の私は何でもかんでも救えるとどこかで思ってたんだ。自分の思い通りになると思ってたんだ」
「そうか」
「でも、ここは現実で私はこの世界の奴隷事情も知らなかった。知ろうともしなかった。自分の持ってた勝手な常識に当てはめていたんだよ・・・薄くてお高い本みたいな展開みたいな、長編ファンタジーみたいな」
「薄くて高い本?」
「そこつっこまない」
わからない人はそのままでいいよ。きっと。はまるとやべぇから。
「ちゃんとこの世界について学ぶべきだった。元の世界に戻れるのかもわからないんだから。覚悟するべきだったんだ」
与えられたものをただ受け取るだけじゃダメだった。王都にいたときの私は飼育されている家畜とそう変わらなかった。
「と、いうわけで・・・悠李!」
「ん?」
「私に知恵を授けてくださぁぁぁぁい!!あとここにおいてほしい!ちゃんと働くから!!」
土下座である。頼れるのは友(悠李)しかいない。
「・・・私は教えるのは苦手だし、そこまで博識じゃないが・・・ここにいるのはいいが・・・」
「悠李について行って自分で学ぶ!わかんないこと聞くかもしれないけど・・・すっごい足手まといかもしれないけど・・・!」
「わかったわかった・・・あまり危ないところには連れていけない。それでいいか?」
「もちろん!!」
「とりあえず優紀自身の方向性は決めたな。で、問題はアサマさんか」
「あう・・・どうにかできないもんかな」
私のこの世界に関しては空っぽに近い頭じゃ何にも思い浮かばない。
交渉事も得意じゃないし、戦力もあんまりない。お金もない。
深刻そうな顔して黙っている悠李を見て、無理かなとネガティブな方向に行く。というか、早くも悠李に頼りっきりだ。いや、でも、自分ができることなら何でもするぐらいの気持ちで!
「そうだなぁ、完全開放は無理でも環境を従業員レベルに引き上げる手はある」
「マジで?!」
「奴隷っていうのは主人が死んだ場合は奴隷商預かりになることが多い。まぁ、逃げだしたりもするんだけど・・・奴隷商預かりになれば契約はやり直せる。借金は消せないがましな環境にはなるはずだ」
「なるほど、不当な契約をそれなりの契約にするってわけだね」
「借金は自己責任だ。騙されたのか力を見誤ったのかわからないけど、それ払わなければいけない代償だ」
「うん」
「だから主人である貴族を借金地獄に追い込むか、命を奪うかだ」
「はい、待って、かなり凶悪な選択きた」
ズドンと斜め上によくない方向にかっとんだ。
「いや、今回の契約だとそれしかもう手はないぞ?」
「もっとマイルドな手はないの?」
「私の盗賊団になるべくかかわらない方向性だと、それしかないな」
「そっかぁ・・・!」
「ちなみに借金地獄は自主的に、奴隷を売り出すようにする感じだな。転移者っていうのを前面に出せばそれなりに高く売れるだろうからな」
究極の2択!でも、私の頭じゃいい案思い浮かばないなぁ・・・!話し合いで何とかならないかなとか言うお花畑な考えしか思い浮かばない。
「どうする?」
「・・・できるかぎり命は奪わない方向でお願いしたい・・・!」
「情報次第だな」
どこからか紙の束を取り出した悠李、アイテムボックスかな?
「多分、優紀はあきらめないだろうと思ったから、エルドから貴族の情報もらっておいた」
「悠李、愛してるぅぅぅ!!」
ニヒルに笑った悠李に飛びつく。倒れることなくしっかり受け止めてくれた、いい筋肉やでぇ・・・!
〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△
「いや、もうこれ、死んでよくない?死ぬ方向の作戦でよくない?」
「作戦きく前に言ってたことと全然違うこと言ってるぞ」
情報を見て、思わず言ってしまう。いや、それほどひどいんだって。
貴族の名前はトンワル・アクーダ。見た目ブ・・・かなりふくよかな男で、かなりの金持ち。表でも評判は悪いが、裏だともっとひどい。
人体実験、他種族を冤罪で捕らえいたぶる。騙して負わせた借金の肩に子供を奪う。他貴族を貶める。いろんな悪いことをちゃんぽんしまくっている。
「私だって進んで人は殺したくない。だから、牢に叩き込む方向で行くつもりだ。まぁ、そのあとどうなろうと知ったことではないが」
「牢獄で不審死しそう・・・」
「こういうやつに限って腕がたつ人材がいるんだよなぁ、めんどうだ」
頬杖をついてため息をつく悠李、さまになってるなぁ。
「正攻法は無理だからかなり強引な手で行く。だから覚悟決めろ」
「・・・うん」
うなづいた私の前にどんと置かれた本の山。思わず顔が引きつる。
「マナーの本に聖魔法の本・・・貴族の常識の本・・・」
「まずポポルの街に侵入するためには、優しくていい聖女が必要だ」
「あい・・・・」
「がんばれ、私は仲間に話してくる。うまくいけばうちの盗賊団にもうまみがある話になる」
「くっそぉ!ちゃっかりしてるな!!」
悠李は手をひらひら振って出ていってしまう。それを見届けて目の前に積まれた本に手を付ける。
とにかくこれを覚えて身につけなくちゃいけない。そうしないとポポルの街に入ることもできない。
今回の私はエサだ。この世界で聖女は数か少なく貴重。転移者とはばらさなくても欲しい人材。
目立つことこの上なし、私が目立ている間に悠李がこそこそ裏で動いて情報を集めて摘発する。
今回の作戦を大雑把に説明するとこんな感じだ。
「目指せ!『まさしく聖女様』・・・・!」
〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△
ポポルの街
交易都市のひとつ。様々な国の人たちが訪れる場所。観光よりは、旅の途中によって疲れをいやすという意味合いが強い街で、飲食店や宿屋が多い。
がここ十数年、トンワル・アクーダがこの街を支配するようになってから、風俗業を営む店が多く増えた。
最近ではその風俗店目当てに来る人も多いという。
「来る客層も変わっちまってな。シスターさんも気をつけな。まぁ、そこのぼっちゃんがいれば何とかなるだろうけどよぉ」
「まあ、そうなのですか・・・ありがとうございます。気を付けますね」
「だいじょーぶ!俺がいればシスター様も安心さ!傷一つつけやしないよっ!」
さすらいのシスター、それが私の今の姿。聖女らしい聖女を目指していたのだけど、悠李いわくそれは私をやる気にさせるためらしく、シスターでも十分目立つとのこと。
『シスターっていったら優紀微妙に手を抜くだろ、絶対』
否定がとってもできませんでした。確かにシスターレベルならみたいな感じで気を抜いた可能性がある。
そんな私の隣でだされた牛乳を飲んでいる悠李。見た目はちょっと大人びた旅人という恰好。腰にある剣はほとんど飾りに近いと言っていたけど、多分、それなりに使えるんだろうなぁと思っている。
「悪いことをしているなら正せるといいのですけど・・・こうしてこの地に私が訪れたのも神の思し召しかもしれません。できる限り何とかしたいと思います。お話をすれば改めてもらえるかもしれません」
「うーん・・・あんまりおすすめはしないな」
店員さんの困った表情。私も激しく同意する。情報を見る限り、お話し合いで何とかなる相手ではないよね。
「シスター、そろそろ行こう!早くしないと危ないからねっ!」
「えぇ、用心棒さん。いろいろお話ありがとうございました」
お金を悠李が置いて、歩き方に気を付けながら出ていく。その間も悠李は私の隣を歩きながら私に話しかけてくる。
「シスターならなんとかできるって!孤児だった俺を救ってくれたもの!そのおかげでこんなに強くなったし!」
「あらあら、それはあなたの努力のおかげよ」
「えー、違うってー!」
子供っぽく笑う悠李に周りの女性がほおを緩める。わかる、なんかこうほほえましいよね。
そうやってすごいシスターがきたみたいに感じれる話をしながら、宿屋に向かう。
私が部屋のカーテンを閉めて、悠李が防音・盗聴対策のアイテムを部屋に置く。
ニコニコ可愛らしく笑っていた顔がスンっと真顔に戻る。
「ねぇ、やめてくれない?その一気に様変わりするのやめてくれない?笑いそうになる。私の腹筋がここ一週間でどれだけ鍛えられたことか」
「え、変化をつけながらもどせってことか?」
「いや、まずその子供の姿にツッコミたい。なんで自分のキャラと全然違うキャラ設定にしたの?」
「いや、いつもの姿だと隙がなさ過ぎて周りが寄ってこない。そこで、子供の姿ならいけるかと。シスターと子供ってよくあるだろ?そして無邪気な子供のほうがシスターが救った感がある」
「そうだけどさぁ?!別に性別は変えなくてよくない?もっと女の子女の子でもよくない?!」
「女の子連れて旅するシスターってないだろ」
「そうだけど・・・!」
「安心しろ、子供の姿でも戦闘能力は変わらない。むしろスピードが上がって、見た目で油断されていいこと尽くしだ」
「そこじゃない・・!」
みなさまここでお気づきだろう。さっきの無邪気にしゃべっていた少年。それこそが悠李である。
あんまりそのままだと盗賊団に迷惑をかけるとのことで魔術具で姿をかえているのだ!
【愛されるその姿】装着の姿を可愛らしい姿に変える。
【だが、断る】姿が変わろうとも戦闘力は変わらない。
この二つの魔術具をもって姿を変えながらも悠李はしっかり私を守るということをこなしてくれているのだ。
ちなみにアジトで試したとき、カラクさんが「お頭!かわいい!魅惑の生足をさらしてほしいっす!」と叫んで周りのお仲間さんたちにボコボコにされていた。ぶれない。
「とりあえずここ一週間でだいぶエサはまいた。そろそろ食いついてもおかしくない頃だ。覚悟決めろ」
「うん・・・悠李のほうは?」
「だいぶ情報はつかんだ。が、いろんなとこ押さえられてて伝えようにもつぶされる可能性がたけぇな」
「難しい感じかぁ・・・」
「トンワル・アクーダがなんか言い訳したらかわされそうだ。まぁ、なんとかなるだろ」
「なんだろ、悠李が言うと何とかなる気がする」
「あと情報を集めていて不思議に思ったことがある」
「え、なに?」
「人の話を聞いてる行方不明になっているものが多いのに、公には情報が出ていない。しばらくすると『そんなことあったな』みたいな無関心になる」
「それは・・・おかしくない?普通行方不明者が多かったら不審に思うし、街もこんなに栄えなくない?」
「そこなんだよなぁ・・・なんというか意識がコントロールされているというか・・・魔法でそういうのないか?」
「うーん・・・魅了とか?そういった類なら・・・でも、この街全体にかけてるってなるとかなりの能力者だよ」
1つの街の意識をコントロールするなんて聞いたことがない。そんなの普通じゃありえない。
それはもう魔族とかそっち系の種族じゃないと・・・・
「あっ」
「どうした?」
「いや、なんでもない」
いや、まさかね。魔族とかね!ないよね!だって魔族って普通そんなに出てくるキャラじゃないし。
だってまだ序盤のほうだし、いきなり魔族なんか出たら終わる。悠李だって確かに強いけど、それは人間相手だからだ。モンスターとかと戦っても強かったけど、魔族は別格なのだ。
魔族一人を倒すのに冒険者で優秀者を示すA級10人必要ともいわれているのだ。それでも倒せるか不明で、勝てる確率があるというだけだ。
さすがに悠李でも無理だ。魔族が出たらあきらめて逃げよう。悠李もそこらへんは理解しているだろう。
死んだら元も子もない。
これは、フラグとかじゃないからね?!今回は普通に、きっと何事もなく作戦が成功するはずだ!
いきなりつまいじゃったりしたら私のメンタルが死ぬ。
「とりあえず寝よう。優紀、火を消すぞ」
「あ、はーい」
電気なんてない。ランプが主流だ。いや、あるところにはあるけど、一応長期滞在も考えに入れてるから、あまりお金は使えない。そこそこ安くて安全な宿を選んでいる。
ふっとランプの灯が吹き消される。窓の外はまだ明るい。外で光がついてるから。
でも、部屋は暗いからすぐに眠気はやってきた。
「悠李、お休み」
「あぁ、優紀おやすみ」
すやぁ・・・・( ˘ω˘ )