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聖女の私と盗賊頭な彼女  作者: 無夢
聖女になったけど、盗賊頭の親友に会って盗賊に所属した。
1/8

第一話 盗賊頭はまさかのあの子?!

「おい、女がいるぞ!」

「あぁ?兵士の装備から見る限りいいとこのお嬢ちゃんじゃねぇか?」

盗賊が話しているのが聞こえる。私どうなっちゃうんだろう。ゴブリンに引き裂かれた服の破片をなんとか集めながら身を隠す。

国から命令されて魔物討伐にいかされて、その帰り道弱っているところをゴブリンの大群に襲われた。

何とか体はきれいなままだけど、このままじゃ売り飛ばされてしまうかもしれない。

ここは異世界だけど、夢ではない、現実なのだ。

私の職業は『聖女』だけども、王国にはほかにも『聖女』はいる。だから私は見捨てられてしまう可能性があるのだ。

「頭ー、かしらぁ~。女がいましたよ!どうしやす?売り飛ばします?俺らじゃ、助けたなんて信じてもらいやせんよぉ」

「私たちの生活費は困窮しているのか?」

「いやぁ?この前、いい商売させていただきやしたしね。それなりにありますよ」

ザッザッザと足音がこっちに近づいてくるのがわかる。

「だったらべつに・・・」

「え・・・」

多分、彼女が盗賊頭なんだろう。でも、その顔は

「・・なにやってんだ」

「・・ゆ・・」

その少しだけ低そうな声、あきれたような表情

「優紀」

「悠李?!」

死んだ魚みたいな目に、明らかにめんどくさそうな姿、そして伸びまくった髪!

私の地球での友達、須藤悠李に違いなかった。


普通の毎日だった。いつも通り学校に行って、授業を受けて、友達と放課後の話なんかして。

どこからどう見ても普通の毎日だった。

たった1つ、教室の床が崩壊したこと以外は。

いや、崩壊というのは間違っているかもしれない。突然、光に包まれて、落ちる感覚がしたんだ。

気づいたらみんな真っ黒な世界に落ちていて、そしてよくわからない場所にいた。

そこで説明されたのは、そこが異世界であるということ。そして、私たちは召喚されたのだということだった。

最初は、異世界トリップだなんてと喜ぶ人が多かった。実際私もそうだったし、何か言いたげな人はいたけど、雰囲気のせいか何も言えなかった。

だけど、月日が経つにつれて、そんな楽天的なことも言っていられなくなった。みんな現実を認識し始めていたんだと思う。

傷つけられれば痛いし、その傷がもとで死んでしまうこともある。

現代と違って、治安はそこまでよくない。奴隷だって存在する。

しかも私たちを召喚した人は、役に立てと言わんばかりに任務を押し付けてくる。

それも命を危険にさらすものばかり。命を懸けて働かなければ生活できないというのもさらに現実感を与えたんだろう。

何人かのクラスメイトが姿を消したのが分かれ目だった。残っている私たちに逃げられないよう監視の目を強くした。

これ以上逆らえば呪いをかけて、逆らえないようにするとまで言ってきたんだ。

実際、逆らったクラスメイトが呪いをかけられて無理やり命令に従わせられている。

だから残った私たちは、逃げる機会をうかがいながらも、表面上は従ったふりをしている。

そして今現在に至るわけなんだけど・・・・



〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△〇×△


「へぇ、優紀はそうやってこっちにきたんだ」

「う、うん・・・え、悠李は違うの?」

「あぁ、熱を出して学校休んでたんだけど、水分切れてポキャリを買いに行ったら――――」

「まさか信号無視のトラックにひかれて・・・!」

「いや、信号無視した女に気づいたトラックが何とかよけようとして、電柱にぶつかって、その電柱が倒れる先にいた子供を助けようとした駆け出した男性に押されて、川に落ちて溺死した」

「悪魔の連鎖!」

「普通なら耐えられたんだけど、熱出てたから、踏ん張りきかずに落ちた」

「完全にとばっちりだよね?!」

「それで、目が覚めたら森の中にいたからふらふら歩きまわってた。1日歩き回ってたらなんか瀕死のドラゴンがいたんだよ」

「そ、そのドラゴンを助けてすごい力を手に入れて今に至る感じ?!」

「いや、喰った」

「喰った?!」

「いや、1日何も食べてなくて疲れたから・・・火を起こして、焼いて食べた。あ、安心して、しっかり焼いたから」

「そこじゃない!心配するところそこじゃない!!」

「鱗はさすがに食べれなくて、なんかよくわからない収納機能にしまって、必要に応じて出して使ってる」

「あ、売ったりとか?ドラゴンの鱗って高いもんね」

「そこは盗賊たちの裏ルートに任せてる。それまでは手裏剣的な感じで使ってた」

「鱗を手裏剣?!え?!」

「盗賊たちにとっても怒られた」

「でしょうね!!」

盗賊頭が友人だった件について!おっと各所から怒られる言い方・・・自重しよう。

もっきゅもっきゅと焼かれた肉をほおばりながらそこにいるのは、完全に私の友達、須藤悠李だった。

須藤悠李、私、一条優紀と名前が似ている、そして小学校からの付き合いということで、とっても仲がいい(と私は思っている。)友人なのだ。

クラスメイトが召喚された日、悠李は風邪をひいていたので、学校を休んでいた。

ちょっとずれているところもあるが、さっぱりとした性格ですごくいい子なのだ。

なのになぜ、そんな悠李が盗賊頭なんかになっているのか・・・わからない。

「ドラゴン食べて、お腹いっぱいになったから木の上に上って寝ようとしたら」

「まって、その時点でちょっとずれてる。普通そこ地面で寝ようとするよね?」

「地面で寝たら何に襲われるかわかんないだろ?」

「なんでそこで『当たり前だろ?』みたいな表情するの?普通そこ思いつかないよ!」

「そしたら案の定、盗賊がやってきてな」

「あ、まさかそこで盗賊たちを倒して、認められたみたいな?」

「いや、さすがに一人じゃ無理だと思った私はそっとその場を離れた」

「どうやったら今の立場になるの?!」

わからない!どうやってこの状況になったのかがわからない!!斜め上をかっとびまくっている気がする!

「そしてそのあと、私がいたとことから叫び声が聞こえて、そっと戻ったら盗賊たちがこう、二足歩行の豚に襲われていて」

「オークかな?」

「さすがに勝てねぇなと思って、戻ってきたことを後悔していたら豚に見つかって、向かってこられて」

「え、悠李大丈夫だった?!怪我してない?!」

「いや、大丈夫だからここにいるわけだけど・・・無駄かなと思いながら、足蹴り飛ばしたら、足が吹っ飛んだ」

「え?!」

「いや、私の足じゃなくて豚の足が」

「・・・うん?悠李は身体強化のスキルを持ってるのかな?」

『身体強化』、職業が『戦士』の人が得やすいスキルで、職業『魔法使い』は得にくいスキルだ。

言葉通りそのまま、自身の身体を強化するスキルで、これを持っていると尋常じゃない力を使うことができる。

あとで、鑑定のスキルで確認してみよう。今は、とりあえず話を聞こう。

「そしたら豚が盗賊無視して私に全部向かってくるようになったから、死ぬわけにもいかないから全部相手したら、勝った」

「もう言葉も出ない」

普通、すぐにこの世界に対応できない。私たちですらスキルの使い方を教えてもらったりしてから、十分に使えるようになったのだ。

「そしたらなんか『頭ぁ!!』って呼ばれるようになった。でもとっても臭かったので逃げてたら身なりキレイになって『頭ァ!』て飛んでこられるようになったから、そのまま放置してる」

「そ、そうなんだ・・・」

全く分からない。え、この感じだと悠李利用されてない?大丈夫?

うろたえる私に気づいていないのか悠李は食事をとり終わると、まったく手を付けられていないをみて、首をかしげて、頭の上に!を付けたような顔になって「大丈夫、その肉は野兎の肉だし、スープの中も同じ」といって、「寝床を整えてくる」といって食器をもって離れていってしま・・・え、ここで一人にしないで?!襲ってこないとわかっても、盗賊はやっぱり怖い!あと、肉の情報ありがとう!少し安心したけど、そこじゃない!!

お腹がすいていたので一口食べる。おいしい。

「おい」

「はいぃ?!」

ドカッと悠李が座っていた正面におじさんがすわる。盗賊にしては身なりがきれいだと思う。

「お頭の話聞いたんだろ?ぶっ飛んでるよな」

「・・・否定できないです」

「・・俺たちがオークに襲われたとき、お頭だった男はいの一番に逃げ出したんだ」

「え」

「恥ずかしいことに俺たちには考える頭っていうのがなかった。指示されるままに動いてたんだ。頭がいなくなって、どうすればいいのかわからなくなって、なんもできなかった。そん時に今のお頭は現れた」

「向かってくるオーク共を拳で蹴りで、全部吹き飛ばして・・・そりゃ、勇者みてぇなきれいなもんじゃなかった、武闘家みたいな形のある動きじゃなかった。ただ、戦う。生きるために戦うって姿だったんだ」

おじさんは酒を飲んで、思い出すかのように目を閉じる。

「ついて行きてぇなと思って、お頭って呼んで褒めちぎれば『体臭がきつい』の一言で全く嬉しそうにもしてねぇ。体洗って追いかければため息つきながらも追い払わねぇ。盗賊家業の俺たちを蔑むわけでもなく、説教するわけでもなく、生きるためなら、でもあんまりに非情なら止める。そして指示を仰ぐ俺たちに考えろって言うくせに、悩んでたらまたため息つきながら助けてくれる。それにな」

「それに?」

目を開いたおじさんが頬杖を器用につきながら、あきれたように、でもどこかうれしそうに笑う。

「元お頭が戻ってきて、『また俺の下につけ』って違う盗賊ひきつれながらほとんど脅迫するみてぇに行ってきたとき、お頭な、元お頭の顔面ぶん殴ったんだよ」

「え?!あの超絶めんどくさがりで、他人の行動に口ださない悠李が?!つかず離れずの位置にいるあの悠李が?!」

「あぁ、起きる時間がずれたら普通に俺たちを置いていくような、まったく『頭』らしくない、なんというかお互いに利用しあってるだけみたいな関係だったのにもかかわらずだ」

悠李は衣食住、盗賊たちは『頭』がいない不安を取り除くため、強い敵が出ても守ってもらうため、そんな関係だったんだろうな。

「『私が何か言う義理はないし、あんたの考えも正すつもりはない。だから、これは、まぁ、寝てるところ邪魔されたのと、個人的にあんたが気に食わねぇっていう私の八つ当たりに近いもんだから、反撃してきてもいいし、恨んでくれたってかまわない』っていうと全員のしちまいやがったんだ」

ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、元お頭についていた盗賊たちがそこらへんに散らばってる姿は壮観だったと笑うおじさん。私はひきつった笑いしかでない。確かに、悠李は元の世界でもちぎっては投げしてたことあるから想像は難しくない。

「元お頭をぽいっと俺たちのほうに投げてさ、ボロボロになったお頭は『好きにすればいい』って言って寝床に戻っていった」

「そうそう!ちなみにその時のお頭はなんていうか色気があって今思い出すと思わず『抱いてっ』て言いたくなっちまうぐらいだったっすよー!」

おじさんが絡まれた。肩組まれてうっとおしそうにしている。お酒の匂いが強くするから多分すごく飲んでいるんだろうな。

「カラク、お前酔っぱらってるな?」

「クランク、俺はいつだって陽気っすよ!」

最初にいたおじさんがクランクさん、絡んできたお兄さんがカラクさんか。

「お頭はなぁ、俺たちなんか見捨てて1人で逃げることだってできたんすよ。でも、しなかった。あっちについたら俺たちの扱いが悪いこともわかってたんだとおもうんすよ・・・寝てるだろうお頭に『なんであいつが気に食わなかったんだ』って聞いたらっすよ。お頭は、『子分見捨てて逃げるやつを頭だなんて認めたくなかった』っていったんっすよー!」

「ほんと、確かにそれはお頭の考えだから押し付けることはできねぇな」

「そのあとに、これは独り言だがなっていって言った言葉が胸に来たっす」

「えっと、どんな言葉だったんですか?」

「『仮にもお頭って慕われてるんだ。お頭って言葉背負ってんなら、子分渡すわけにはいかねぇだろ。あと、こんないい奴らなのに見捨てたのが腹立つ』ってな。最後はほんとにボソッと言われたんす」

「は?!おい、それ初めて聞いたぞ?!」

「思わず『抱いてっ!お頭ァぁぁ!!』って寝床に飛び込んだらぶん殴られて縛られて放っておかれたんすよねぇ」

「おま、それが原因だったのか・・・あの事件は」

クランクさんが完全に引いた眼でカラクさんを見ている。私も、少し距離を開けた。

「でも、正直嫌いじゃないっす。超ゾクゾクした。もう俺の息子がズキュうぼぁ!!」

横から飛んできた筒状のものがカラクさんの横っ面にヒットした。すごくびっくりした。音がやばかった。

思わず唖然としていると、頭の上にモフっとしたものがのって我に返った。

とっさにそれを抑えると柔らかい感触がする。そして、目の前に悠李がたっていることに気づいた。

「あ、悠李・・・」

「寝る前に風呂はいってこい、幕張ったからみえない。覗く奴はいないと信じている」

着替えはタオルに包んであるといって悠李は、私の立ち上がらせてその背を押した。

・・正直、体は洗いたかった。ゴブリンに触られてすごく嫌だった。

悠李は不愛想で、ぶっきらぼう、言葉少なかったりするし、斜め上をかっとんだ行動をしたりすることもある。人によっては好き嫌い別れる性格だろう。

でも、優しい子なのだ。彼女は。

懐に入れたものに関しては甘い悠李が見捨てない相手というだけでも信用はできると思う。

「カラク、水のんどけ、そろそろ酒やめとかないと明日に響くぞ」

「はっ!この顔にぶつけられたのは水が入った筒!はぁ、お頭ぁ、もう優しいんだからぁ!!」

「「きもい」」

・・・多分


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