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45.シルフィ

「これは……」


私が見つけたのは、掲示板に張られてある秘書の募集貼り紙だった。


――――――――――――――――――――――――――――

          秘書募集


  新しく貴族となったルディ・バルトの秘書を募集中。

  給与は月、銀貨10枚。

  文字の読み書きと計算が出来る人ならば、身分、性別

 を問わず募集する。試験日は掲載されてから5日後の正午

 とし、場所はマラアイ村にあるルディ・バルトの家で行う。

  試験内容は、簡単な筆記問題と面接。面接では、貴方が

 街を治める貴族ならば、街を大きくするためにどうするか

 ということを問う。


――――――――――――――――――――――――――――


私――シルフィは長女として生まれた。


姉弟は6つ下の弟がいる。


私の家系はしがない商人。


だから、小さな頃からお店の手伝いをしていた。


だけど、私は上手に笑うことが出来なかったから、接客には向いていなかった。


そのため、裏方に回ることが多く、仕入れや収支の記録をするようになった。


そもそも、感情を顔に出すことが出来なかった。


嬉しくても、悲しくても、表情に出ない。


心の中では喜んでいるのに、顔には出ない。


親も最初は、私のこの無表情に何も感じていなかったようだが、私が大きくなるにつれ、気味悪がるようになった。


ある時、母と父の話し声を聞いてしまった。


「お前、あいつのことどうにかしろよ。」


「ムリよ。あの子何を考えているか分からないのだもの。あなたこそ、どうにかしてよ。」


「俺はあいつの目で見られただけで、ゾッとするんだ。何か心を読まれてそうで――」


そこで私はその場から立ち去った。


これ以上聞きたくなかった。


悲しかった。


実の母と父にそう思われていたなんて。


なのに、涙は出ない。


私は泣くことも出来ないんだな。


近所の同い年の子達には、その事で虐められていた時もあった。


弟が産まれてからはさらに酷くなり、母と父は私の事をいない者のように扱った。


ご飯を食べる場所も別。


寝るところも別。


そんな母と父の態度を見て、弟さえも私の事を無視していた。


私に居場所などなかった。


ただ、収支を記録するだけの道具であった。


出ていきたいとは思うが、特技があるわけでもない私ではどこにも行く当てはない。


ただ、計算さえ出来れば、女の私でも雇ってくれる場所は何処にでもある。


もちろん、私の家は裕福とは言えないし、私に興味がない親が教育を受けさせてくれる訳も無い。


しかし、長いこと収支の記録をしていたお陰か、独学で足算や引き算というものを最近出来るようになった。


最初は数えて答えをだし、その後どうやればこの答えに行き着くのかを考えに考えた。


例えば12+13。


これを数えると25になる。


ならどうやれば25という答えになるのか。


それは物凄く単純なことだった。


縦に並べれば良かったのだ。


すると全部を数える必要がなく、同じ列を数えていけば25という答えになったのだ。


初めて、足算の仕組みを発見したときは、ものすごく感動したことを今でも覚えている。


これで、出ていくことが出来るようになったが、中々良い職場を見つけられないでいた。


そんな時に見つけたのがこの貼り紙だ。


私は文字の読み書きも出来るし、計算も出来る。


しかも、貴族の秘書なのに身分、性別を問わずに募集すると言っている。


マラアイ村なんて聞いたことがないが、これはチャンスなのではないだろうか。


給与も悪くない。


問題は最後に書かれてあること。


貴方が貴族ならば、街を大きくするためにどうするか。


今まで、そんなこと考えたことなどない。


単純に考えれば、街を大きくするには人を集める必要がある。


人を集めるには店が必要だ。


店を集めるには商人を集めなければならない。


ならどうやって商人を集めるのか。


シルフィは直ぐにここまで考えることが出来ていた。


私の家は商人だ。


私が家を継いだとして、どんな街で店を出したいか……そんなの決まっている。


税金が安いところだ。


私の家が苦労しているのも税金が高いせいだ。


税金が安ければもう少し楽な生活が出来ていただろう。


だから、私が街を多きするならば、商人に対する税金を安くし街に呼び込むことだ。


でも、これでいいのだろうか。


私がこんなに簡単に出せた答えが正解なのだろうか。


この程度なら皆、考え付いているのではないだろうか。


だが、これ以外に今のところなにも思い浮かばない。


マラアイ村に行くのに1日掛かるとして、残り日数は3日。


その間も必死に考えたが、これ以上の答えを導き出すことは出来なかった。



3日後、私は親に何も言わずに街から出た。


そして、夕方にマラアイ村に到着した。


驚いたことに村には城壁があり、内部の至るところに家が建設されていた。


少し前まで何もない場所だったようなので、バルト様は1からここまで造り上げたことになる。


腕の立つ人なのか、それともこれからどうすれば良いのか分からないから、受験者から答えを導きだそうとしているのかどちらかだろう。


私としてはもちろん前者の方がいいのだが。


「すいません、宿屋はありますか?」


家を建設中の大工に訪ねた。


試験は明日なので、何処かに泊まる必要がある。


「おう、そこを曲がって真っ直ぐ行けばあるよ。もしかして、ねーちゃんも試験を受けに来た口かい?」


「はい。」


「そうかい、頑張りな!」


宿屋は、人があまり居ないこの街にしては大きかった。


多分、先を見据えて大きめに作ったのだと思う。


その日は初めての一人旅で疲れていたのか、直ぐに眠ることができた。


翌日、試験当日。


私以外にも21人の受験者がいた。


最初の筆記試験は、基礎的な部分しかでなかったので簡単に合格できた。


次は面接。


正直、面接は怖い。


私の表情の無さに落とされるのではないか。


でも、そんな心配は杞憂だった。


彼は私が思ってたより若く、年下のように見えた。


そんな彼が、私の問いを聞き終えたとき、立ち上がり詰め寄ってきた。


「合格です!俺が求めていた答えそのままです!」


それを聞いたとき、驚きに近いほどの喜びを感じた。


この人は、ちゃんと私の事を評価してくれた。


初めて誰かに認められた気がした。


私は見事試験に合格した。


更に、家まで用意して家賃もタダにしてくれるみたい。


そこまでしてくれるのは、私に期待してくれているからみたいだ。


私はその期待に――初めて寄せられた期待に応えたいと心から思った。


今から帰るのは無理なので、1日宿泊してから帰った。


家に帰ると、家族は何もなかったかのようにいつも通りだった。


私は心のどこかで期待していたのかもしれない。


初めて、2日間娘が消えたのだ。


そのことに対し、心配してくれているのではないかと。


バルト様は、1週間以内に来てくれれば良いと仰ったけど、直ぐに行くことになりそう。


その日の夕食、ご飯は私の分も作ってくれてはいるが、私を省いての会話が続く。


私はいつも、父と母と弟が机で食べている中、家の端の方で一人で食べる。


それが、この家の日常風景だ。


もう、家族とまともな会話など何年もしていない。


だが、一応私をここまで育ててくれたんだから、この家を出ていくことぐらいは伝えなくてはダメだろう。


私は意を決して話しかけた。


「あの、お話があります。」


ピタっと会話が止まった。


でも、目はこちらを見てはいない。


「私はこの家を出て他の街で働けることが決まったので、明日か明後日にはこの家から出ていきます。今まで、ありがとうございました。」


3人からの反応は何もなく、会話がまた再開した。


そう、こんなもんなのだ。


家族との絆はもう回復などしない。


これが現実。


でも、本当は最後ぐらい言葉をかけてほしかった。


そうして私は2日後、誰にも見送られずにこの街から出ていった。

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