34.奴隷商人
まさか、バルト様がそんなことを言い出すなんて思いもしなかった。
どうして、私のこと好きだったの?
でも、もしそうだとしたならとても嬉しい。
「本気で言っているのかね?」
「はい。そのために貴族になりましたので。」
「え?」
バルト様は、まだパニック状態にある私を見て優しく微笑んだ。
その笑顔にドキッとしてしまう。
バルト様は私と付き合うために貴族になろうとしていたのだ。
あの日、なぜ貴族になろうとしていたのか聞いたとき、いずれ分かりますよと言っていたけど、このことだったんだ。
「バルト君には娘を助けてもらったから感謝はしているし、娘の反応を見る限りどうやら娘もバルト君に気があるようだ。」
「お父様!」
お父様がとんでもないことを言い出した。
それでは、私がバルト様のことを好きな様ではありませんか。
いや、好きですけど、言わなくてもいいではありませんか!
私そんなに、顔に出ているのでしょうか。
「娘には幸せになって欲しいと思っておる。だから、婚約させるなら娘が好きになった人にしてやりたいと言うのが本音だ。しかし、私にも立場というものがある。元平民でまだ貴族なりたての君を婚約者候補にするわけにはいかないのだよ。」
やっぱりそうですよね。
今のバルト様では、他の貴族に示しがつかないですものね。
「そうですか……ならせめて2年エリナの婚約を待って頂けませんか。2年で周囲の貴族を納得させるだけの貴族となってみせます。そのときは私を婚約者にしていただきたい。」
「2年か……バルト君がいなければ元々無かった命だ。その頼み聞き入れるとしよう。だが、2年だけだ。それ以上は待つことは出来ないだろう。」
「それで充分です。」
たった2年で周囲の貴族を認めさせるだけの力を持つなんて、いくらバルト様でも無理だわ。
ただてさえ、平民上がりの貴族は嫌われるというのに。
「私も応援している。出来るだけのことはしたい。だから、何かしてほしいことがあれば何でも言いなさい。」
「でしたら、土魔法を使える人を斡旋してほしいです。」
「わかった。探してマラアイ村に行かせよう。では、そろそろ行きなさい。やることが山積みであろう。」
「ありがとうございます。」
バルト様は部屋を出ていった。
私はその後を急いで追った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何とかエリナの婚約を2年延ばすことが出来た。
これで俺の想いはエリナに伝わってしまっただろう。
だが唯一の誤算は、エリナが俺に気があるかもしれないということだった。
俺が婚約者候補にしてくれと言った後、エリナの様子が変だったし、顔も真っ赤だった。
それに、ランバートが「気があるようだ」と言ったのだから多分エリナも俺のことを好いてくれているのだろう。
普通ならお互い好きなのだから付き合えば良いのだろうが、そう簡単なことではない。
俺たちの恋には家の柵しがらみがついて回るのだ。
そして、俺たちの恋を成就させるには、貴族の力を高めるしかない。
貴族の力とは治める地の規模や、王様から与えられた爵位によるものだ。
王様から爵位を貰うのは難しい。
だが、規模を大きくするのは爵位を貰うのに比べれば簡単だ。
金さえあればな。
金が限られている今、2年で大きく出来るかは五分五分と言ったところかもしれない。
実際にやってみなければ分からないが。
「バルト様!」
廊下を歩いていると、後ろからエリナに呼び止められた。
「どうしたんですか、エリナ?」
「先程の話は本気なのですか?」
「もちろん、本気ですよ。」
「それは私のことを好きだと捉えていいのですか?」
「はい。一目見たときからエリナのことを好きになっていました。もし、俺の行動が迷惑なら言ってください。諦めますから。」
「そんな迷惑だなんて!私もバルト様のことを好いております。だから、頑張ってください。」
エリナが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「それを聞けて安心しました。待っていてください。必ずエリナと付き合えるだけの男になってみせます。その時は俺と結婚していただけますか?」
俺はその場の勢いと雰囲気でプロポーズをしてしまっていた。
「はい!」
大人になればなるほど、心は汚れるものだ。
それは仕方ないことで、社会を知りそれに順応しようとしているだけだ。
でも、そのせいで子供の頃のような素直さ、真っ直ぐさ、純粋さを忘れてしまう。
しかし、二人は初めての恋のせいか、歯止めが効かず、どこまでも真っ直ぐ、純粋に突き進んでいる。
まるで何も知らない小さな子供が結婚の約束をするように。
「よかった。俺もう行きますね。やることが山積みなので。」
「これだけ受け取ってください。」
エリナから渡されたのは、綺麗な色をした青い石のネックレスだった。
それは、その日エリナが着けていたネックレスだった。
「いいのですか?」
「はい。持っていて欲しいんです。」
「分かった。大切にするよ。」
そうして、俺はアルベルト家を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まずは奴隷商人の所に行く。
俺が一番最初にしないといけないのは人材集めだ。
それで一番手っ取り早いのは奴隷を買うことである。
人を雇うという手も無くは無いが、奴隷の方が安いしマラアイ村という何も無いところに来たがる奴もあまりいないだろう。
それに、奴隷は絶対に主を裏切れないし、何でもやらせやすい。
勘違いしないでほしいが、手酷いことをするつもりはないし、ちゃんと衣食住も与える。
給料ももちろん出す。
ただ、奴隷の方が色々と都合がいいというだけだ。
奴隷商人の所は刑務所のようなところだった。
アルベルト家と比べても遜色ないぐらいの大きさで、奴隷たちが牢屋に入れられている。
普通に入り奴隷を見れることが奴隷売買が合法であることを示していた。
収容人数は500人ほどだろうか。
その3分の2以上は埋まっていた。
奴隷となるものは、貧相な者か、異種族の者だ。
金が返せなくなり奴隷商人に売られる者、衣食住が満足に得られず奴隷となることで得ようとする者、ただ異種族というだけで奴隷とされる者、身寄りの無い者。
奴隷になることが必ずしもマイナスと言うわけではなく、奴隷になることで生活が出来るようになる者もいる。
だが、それは主によって変わる。
だから奴隷たちは善き主に仕えられることを望んでいた。
牢屋の横には、板が壁にかけられており、その奴隷の値段や特徴、経歴等が書かれていた。
値段は奴隷の能力によって変わり、容姿が良い者、能力が優れている者が高い傾向にある。
それ以外の子供、特に男の子供は値段が非常に低く、銅貨50枚程度だ。
女の子供は、顔が悪くてもそういう性癖の人もいるので、男より少し高めに設定されていた。
そんな中、俺が必ず欲しい人材は鍛冶職人と研究者、そして建築士である。
鍛冶職人はドワーフがちらほら見えるので問題ないと思うが、建築士と研究者の方はいるか怪しいとこだ。
「貴方はなぜ借金したんだ?」
俺は、ドワーフで奴隷となった理由に借金と書かれてある人にそう質問していった。
10人ぐらいに質問したが、9人が酒につぎ込んだそうだ。
ドワーフが酒好きというのは本当みたいだが、借金してまで飲むことは無いだろうに。
「俺は剣を作ることが好きだ。それも変わった剣を。でも、中々納得のいく剣を作れず、売る用の剣も作らずにいたら、いつの間にか金もなくなり仕方なく借金しちまってたんだ。」
残り1人は、剣を作ることに魅入られてしまったようだ。
だが、俺が求めているのはこういった職人だ。
「ちなみにどういった剣を作ろうとしてたのかな?」
「今の剣は両刃だが、俺が作ろうとしているのは片刃の剣だ。」
それを聞いたとき驚いた。
俺が職人にさせようと思っていたことの1つに、刀を作らせることがあった。
今の主流は突きを主体とした剣術だ。
なぜなら両刃の剣は突きが優れているからだ。
それに比べ刀は斬擊に優れている。
俺は突きよりも斬擊の方が得意だから、専用の職人が出来たら作らせようと思っていたのだ。
また、魔物相手だと突きよりも斬擊のほうが良いからというのもある。
「それは本当か!?」
「ああ。」
「それはどこまで完成してるんだ!?」
「6割ぐらいだ。思った通りの切れ味が中々出せずに苦戦している。」
それなら上等だ。
切っ掛けさえあれば完成させることが出来るだろう。
日本刀なら少し分かる。
元の世界では暇だったから、いろんな本やネットで知識を蓄えていった。
そのおかげで、材料とか作りとかなら教えることができる。
そのヒントさえ与えれば、後はこのドワーフが自力で完成させられそうだ。
改めて横にある板を見る。
このドワーフはエイグルという名前らしい。
そして、値段は銀貨5枚。
うん、人間を買うにしては安いな。
奴隷ってこんなもんなのかな。
「エイグル。俺も片刃には興味があるんだ。だからあんたには片刃を作り上げて欲しいと思っているのだが、どうだ?」
「それは願ってもないお願いだ。片刃を完成させられるならどんなことでもするぜ!ぜひ、俺を買ってくれ。」
「決まりだ。他のも見るからまた後で来るよ。」
こうして奴隷を1人決めた。
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