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30.決意

「最後か……」


オークの死体回収も、これが最後の1体。


あの子達の所に戻らないと。


正直気が重い。


「やっぱ伝えるべきだよな……」


考えに考えた結果、母親の死を言うことにした。


嘘をつき、騙すという選択もあった。


しかし、それは結果的にあの子達を更に傷つけることになる気がした。


生きていると信じていたのに、実は死んでいたと知る。


それを知ったとき、あの子達は母親の死と、信じていた人に裏切られたという2つの事実を知ることになる。


それに、俺があの子達の立場だったらやっぱり教えてほしかったと思うだろう。


だから、事実を伝えることにした。


「ウィル、行くよ。」


重い足をなんとか動かしてあの子達の待つ所に行った。


「バルトお兄ちゃん!」


俺の足音を聞いて、クレアが隙間から飛び出して抱きついてきた。


「ごめんね、遅くなって。大丈夫だった?」


「うん!わー!おっきな狼しゃんなの!」


ウィルに気がついたクレアは、ウィルに抱きつき遊んでいる。


ウィルも満更ではないのか、クレアが触るのを許していた。


「お兄さん。お母さんは?」


クレアに続くように隙間から出てきたシャルは、ウィルよりもお母さんのことが気になるようだ。


「クレアちゃん。こっちにおいで。」


「なぁに?」


「今から言うことをよく聞くんだよ。」


『うん』


二人とも俺の真剣さを感じたのか大人しくなる。


「クレアちゃんとシャルちゃんのお母さんは……死んだ。」


俺は二人が泣くことを予想していたが、泣くことはなかった。


「バルトお兄ちゃん。死ぬってどういうことなの?」


クレアはまだ死というものを理解していなかったのだ。


シャルが泣かないのは、元々何かを感じ取っていたのだろうか。


うつむいているため表情が分からない。


「死ぬってことはもう、お母さんに会えないってことだよ。」


「もう、会えないの?」


「うん。」


「お母さんとご飯食べられないの?」


「うん。」


「もう一緒に遊べないの?」


段々とクレアの瞳が濡れてくる。


「うん。」


「もう一緒に寝られないの?」


「うん。」


俺は頷くことしか出来ない。


「もうお話できないの?」


「うん。」


「ウソなの!嘘つくお兄ちゃんなんて大嫌い!うわぁぁぁぁん!」


クレアが大声で泣く。


それにつられて、今まで我慢していたシャルまで泣き出した。


「ごめん、ごめんな。」


そんな俺に出来ることは、二人を抱き締めることと謝ることだけだった。


それからしばらく、2人の泣き声が洞窟に響き渡っていた。






俺はクレアをおんぶし、シャルと村まで戻っていた。


クレアは泣きつかれ眠ってしまっている。


「――お兄さん。」


「なに?」


「本当のこと言ってくれてありがとうね。私、頑張るよ。お母さんの最後の言葉、クレアを守ってねだったの。だから私、クレアを守る!だってお姉ちゃんだから!」


俺はそのとき見せてくれた笑顔を忘れることはないだろう。


現実と向き合い、自分も辛いはずなのに妹を守ると言って笑った顔。


目にはまだ少し涙の跡がある。


こんなにも美しく、儚い笑顔は見たことがなかった。


「帰ってきたぞー!」


俺たちの姿を見た村人の一人が声をあげる。


それを聞いて俺の回りに村人が集まってきて村長がシャルを抱き締める。


「シャル、無事で良かった。」


「村長……」


「よくぞ助け出してくれた。心から感謝するのじゃ。」


「いえ、3人助けられなかったですから。」


「そんなに落ち込むな。仕方のないことじゃ。お主が来なければ皆殺されておったわ。」


「はい……」


「して、その3人はどうしたのじゃ?」


「まだ洞窟に。俺一人では運べませんので男二人、手を貸していただきたい。」


「分かったのじゃ。」


「シャルはここで待ってて。」


「うん。」


クレアを女性に預け、村人の男二人を連れ洞窟に戻った。


ウィルは念のため村に置いてきた。


「これは酷い……」


女性の死体を見て、男が言葉を漏らす。


「これで体を綺麗にして服を着させるんだ。」


袋から服、水、布を取り出し、二人に渡す。


それを使いきれいにしていく。


「どれが、シャルとクレアの母親ですか?」


「あなたが服を着せたその人ですよ。」


「この人が……」


確かに、この3人の中で一番美しかった。


シャルとクレアの可愛さもこの人譲りなのだろう。


俺は彼女の手を握る。


助けてやれなくてすまない。


あなたもあの子達の成長を見守りたかったよな。


誰があの子達を育てるかは分からないが、大事に育ててくれると思う。


あなた譲りでとても可愛いからね。


それに俺が不自由は絶対にさせない。


悔いが残っていると思うが、どうか安らかに眠ってくれ。


「よし、行こう。」


女性たちを抱え、洞窟を後にした。


――この世界では死者は火葬するのが基本のようだ。


土葬だと、アンデット化する可能性があるからである。


「お母さん。」


「ママ!」


クレアとシャルは母親に最後のお別れを言っている。


「お母さん、私最後にした約束は絶対守るから。安心して。」


「ママ、イヤなの。もっと一緒にいたいの。起きて、起きてよ。」


「クレア……」


「ママ!ママ!ママ!」


母親に抱きついて泣くクレアを無理やり引き離す。


「神よ、彼らの魂を解き放ち永遠の安息を与えてください。そして、彼らに絶えることない光が輝きますように。」


村長のその言葉を最後に火を付ける。


クレアはまだ泣き続けている。


そして、シャルの瞳にも涙が浮かんでいた。


シャルもまだ8歳だ。


だけど、子供は以外と大人を見ている。


例えば、母親が不機嫌そうにしていたら、その時は話しかけないようにしたりする。


シャルも周りの雰囲気から今の自分の現実を受け止め、私がクレアを守るんだと考えているのかもしれない。


だが、それは子供の仕事ではない。


我々大人達がするべきことである。


今シャルは急激に大人になろうとしている。


自分のやりたいことを抑え、妹のために生きようとしている。


でも、俺はまだシャルには子供らしくいてほしいと思っている。


燃えていく光景を見ていたとき、『娘をお願い』と誰かに言われた気がした。


気のせいだったのかもしれない。


だけど、確かに聞こえた気がした。


――火葬が終わると、墓を作り骨を埋めた。


墓石など無く、木の板に名前を書き、土に刺した簡易的な墓だが仕方がない。


「お主は今日は泊まっていきなさい。お主のことを盛大に祝うつもりじゃ。ぜひ、参加してくれ。それに、少し話したいこともあるしのう。」


「分かりました。」


俺は悲しいことに村長が言おうとしていることが分かってしまった。


「今日は祝福すべき日となった。ここにいるバルト殿がこの村を救ってくれたのじゃ。バルト殿が来てくれなければ、村は滅んでおったじゃろう。バルト殿に感謝し踊り騒ぎ楽しもうぞ。」


その日の夜盛大な宴が開かれた。


盛大とは言っても小さな村なので高が知れているが。


俺の横には女性が1人、付きっきりで世話をしてくれている。


その人が食べ物や飲み物をいろいろ薦めてくれているが、あまり聞いていなかった。


それよりも、クレアとシャルのことが気になってしかたがなかった。


シャルは、初めてのご馳走に嬉しそうに食べているが、クレアは元気がない。


シャルもそんなクレアを気づかって、話しかけているけどあまり効果は無いようだ。


俺は良きタイミングで、村長のところに行き、さっき言っていた話したいこととは何だったのか聞きに行った。


「村長。」


「おおー!バルト殿。楽しんでおられるかな?」


「はい。楽しいです。」


「して、何用じゃ?」


「先ほど話したいことがあると言ってましたが……」


「ああ、そうじゃったな……少し移動しようか。」


村長は陽気な顔から真剣な顔へと戻った。


「ここならいいかのう。話というのはお主に頼みたいことがあるのじゃ。」


「頼みというのは?」


「うむ。クレアとシャルを引き取って欲しいのじゃ。」


その頼みを予想はしていた。


「理由を聞いても?」


「あまり驚かないのじゃな。その顔からして理由も分かっておるのじゃろう。今、村はクレアとシャルを養えるほど豊かでは無くなってしもうた。男は殺され、女も殺され、この状況では仕事もままならないのじゃ。それに、クレアとシャルもお主に、なついているように見えた。ならばじゃ、お主に任せても良いのではないかと思ってのう。お主の強さなら相当な稼ぎじゃろうしな。」


理由も大体予想していた通りだった。


『娘をお願いね。』


さっき聞こえた言葉を思い出す。


迷いはなかった。


「分かりました。俺が引き取ります。」


損得で言えば俺にメリットなどないだろう。


二人分の衣食住が必要になるし、世話をしないと行けないからだ。


しかし、今の俺は経済的にも余裕があり、貴族になる予定もある。


それならばあの子達を引き取っても、俺に大したダメージはない。


それに、俺の心があの子達を引き取りたいと思っていた。


――村長との会話を終え、クレアとシャルの元に行く。


「バルトお兄ちゃん……」


「お兄さん!」


シャルの方は空元気かもしれないが、声に元気はあった。


でもやっぱりクレアの声には力がなく表情も暗かった。


「二人にねお話があるの。」


「なあに?」


クレアの方は黙って聞いている。


「俺と一緒に暮らさない?」


「え!?お兄さんと暮らせるの!?」


「うん。これからはずっと一緒にいるの。どうかな?」


「いいよ!嬉しい!」


シャルは抱きついて来てとても嬉しそうだった。


その頭を撫でると゛えへへ〝と笑ってくれた。


「クレアちゃんはどうかな?」


「私バルトお兄ちゃん大好きなの。だからとても嬉しいの。でも、ちょっと怖いの。」


「どうして?」


「大好きなお父さんとお母さん、いなくなっちゃったの。大好きなバルトお兄ちゃんもいなくなるかもなの。それはイヤなの。」


俺はついクレアをきつく抱きしめてしまった。


クレアは、大好きなお父さんとお母さんが死んだから、私が好きになった人は死んじゃうのかなと考えてしまっているのである。


「お兄ちゃん。痛い。」


「あ、ごめんね。でも大丈夫だよ。俺は絶対いなくならないから。安心して。」


「ほんとう?」


「うん!」


「――じゃあ、バルトお兄ちゃんと一緒にいたいの!」


「うん。クレアちゃん、シャルちゃんこれからよろしくね。」


『うん!』


その日は、クレアとシャルの家で二人と一緒に眠った。

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