22.あの日の出来事
「エリナ様、疲れたでしょう。ゆっくりお休みください。」
「ええ、ありがとう。マルス。」
今、ロースター家で行われていた舞踏会が終わったところだ。
なぜ舞踏会に来ているのかというと、ロースター家から舞踏会に招待され、行かなければならなくなったからだ。
ロースター家当主の息子であるガルネクは、私の婚約者候補の一人である。
年齢は私より6つ上の20歳である。
アルベルト家は貴族の中でもトップに位置する。
誰もが、その力を求め、私と婚約し、友好関係を築こうとしている。
そのせいで、私の婚約者候補は10人いる。
私はもう14歳だ。
いつ、結婚させられてもおかしくはないが、心に響く人は誰もいない。
貴族だから政略結婚なんて当たり前だけど、出来れば好きな人と結ばれたいと思っている。
母は、私が幼いときに病気で亡くなってしまった。
父は、貴族にしては珍しく母一筋の人で、側室などおらず、他に子供はいない。
そのためか、母が残してくれた形見として私を宝石でも扱うかのように、とても大切にしてくれていた。
だから、私が本気でこの人とは結婚したくないと言えば、取り止めてくれるかもしれない。
でも、今まで父にはお世話になった分、わがままは言いたくない。
そんな葛藤を抱きながら、日々を過ごしていた。
次の日の朝、早めにロースター家を出た。
ガルネクの舐めるような視線に耐えきれなかったからだ。
顔はそこそこイケメンだが、中身が最悪なのである。
結婚すれば、もちろん夜の営みもある。
もし、ガルネクと結婚したとき、そこで何されるか考えただけでも悪寒がする。
しかし、この日早めに出たことが裏目に出た。
マルスは先頭に馬乗り護衛してくれている。
そんな中、護衛の兵士達が騒ぎだしたのだ。
何事かと思い、馬車の窓から見てみると、オーガやゴブリンやオークの大群がこちらに接近してきていた。
オーガはランクAの魔物だ。
オーガはゴブリンやオーク達を襲い、奴隷として率いていることが多く、オーガがいるところには、必ずと言って良いほどゴブリンやオークがいる。
私の護衛として30人の腕のたつ兵士達がいるが、オーガにはマルスを除き誰も敵わないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マルスを先頭に護衛しており、馬車を囲むように兵士達が歩いている。
オーガ達はその右翼から攻めてきていた。
「みな、引けー!お前たちでは敵わない!エリナ様を連れて逃げろ!」
マルスが指示するも、時すでに遅し、ゴブリンがこちらに矢を放っていた。
その矢に何人かの兵士が殺られた。
「ファイヤーウォール」
マルスは50メートルにも及ぶ炎の壁を作り、時間稼ぎをする。
この敵の数、真っ向から戦えば被害は大きくなる。
それよりは逃げた方が先決だろう。
「今のうちだ!撤退するぞ!」
マルスの炎の壁のおかげで、何とか逃げ切ることが出来た。
「なんとか生き残れた。」
「ああ、これもマルス様のおかげだな。」
兵士達がそんなことを言っているが、まだ終わっていなかった。
「グ、グリフォンだー!」
兵士の内の誰かが声を荒げて言った。
「今度はグリフォンだと!?」
マルスが驚きの声をあげる。
グリフォンはSランクの魔物だ。
Sランクに勝てる人ともなると一握りしかいないだろう。
グリフォン1体で街が滅んだこともあるほどだ。
「まさか、さっきのファイヤーウォールで誘き寄せてしまったのか!」
実はマルス達はオーガ達から逃げ切れたわけではない。
ファイヤーウォールに気づいたグリフォンが、オーガ達を一掃したのだ。
そして、オーガ達では物足りなかったグリフォンが、追いかけてきたと言うわけだ。
「うわぁぁぁぁー!」
グリフォンが空から猛スピードで近づいてきて一人の兵士を足で掴み空へと飛ぶ。
あの高さから落とされたら、兵士は死ぬだろう。
「助けてくれ!」
掴まれた兵士が助けを求めるが、どうすることも出来ない。
グリフォンはそんな兵士を、ごみでも捨てるかのように放り投げた。
グシャっとイヤな音が聞こえ、兵士がピクピクと動くのが壊れた人形みたいだった。
その光景に、みなパニックに陥った。
「落ち着け!エリナ様を逃がすことが先だ!森の中ならグリフォンも追っては来れまい!森に逃がすんだ!」
マルスがそう言うも、みな自分の命の方が大切だ。
大抵の兵士は、マルスの森に逃げれば大丈夫という部分しか聞いていなかった。
馬車の御者でさえも、馬車を捨て逃げる始末。
その命令に従うのは、忠誠心の高い1人の兵士だけだった。
その兵士の名は、エル。
エルは馬車まで行き、馬車を動かそうとする。
他の兵士は一目散に森のある方向へ逃げようとするも、グリフォンは逃げることを許さない。
逃げようとする奴を標的とし、次々と襲っていった。
それを見てエルは馬車を動かすのを止める。
今動かせば、馬車は目立つので真っ先に狙われるだろう。
「ブレイズサークル!」
グリフォンが動きを止めた一瞬の隙をつき、炎の檻に閉じ込める。
これで封じ込められたはずだ。
「今のうちだ!エリナ様を逃がせ!」
「わかりました!」
エルは馬車を動かし逃げようとするも、そんな甘くはなかった。
グリフォンは風魔法を使い、炎の檻を消してしまったのだ。
「な!風で炎を消すだと!?」
本来、火と風は相性が良い。
火と風を融合させれば、炎を援助し更なる強力な魔法となる。
なのに、そんな炎を風で消したのだ。
そこには、魔法の威力に多きな差があることを示していた。
「グリフォンが風魔法を使うことは知っていたが、これほどとは……」
普通の人間ならこれで心が折れ、死を覚悟するだろう。
しかし、マルスには絶対に守らなければならないお嬢様がいる。
マルスが諦めるということは、エリナも死ぬということだ。
だから、何としてでも逃げ切らなければならなかった。
グリフォンはこの中で誰が一番強いのか、さっきの魔法を見て気づいた。
だから、逃げている兵士をなぶり殺していたのを止め、かまいたちのような魔法を使い一瞬で殺す。
兵士達を逃がすのはイヤだったのだろう。
そのあと、マルスへと標的を変えた。
「クソ、ファイヤーアロー!」
マルスは焦ったのか、空を飛ぶ相手に炎で作った弓と矢を作りだし放った。
グリフォンは容易く避ける。
矢はグリフォンを通りすぎるが、そこから軌道を90度変えた。
グリフォンはそれに気づき避けようとするも、不意を突かれたため避けきれず
普通は魔法で作った矢を射ったあと、それを操作なんて出来ないのだ。
マルスは厳しい修行の上、出来るようになったのだ。
「キュピィィィィーー!」
翼を傷つけられ飛べなくなったグリフォンは地面に落ちた。
「今だ、ブレイズサークル!」
先程よりも魔力を高め、圧縮した炎の檻を作る。
隙間などなく、高圧な炎は、周囲の温度さえも上げる。
マルスの全魔力を注ぎ込んで作った魔法の檻だ。
翼を傷つけられたグリフォンでは破るのに時間が掛かる。
そして密閉した檻は、早く脱出しなければ窒息死するだろう。
「いくぞ!」
「はい!」
エルが馬車を操作し、マルスは自分の馬に乗り逃げる。
そうして、何とか逃げ切ることが出来た。
「何とか逃げ切れたな。」
「はい。ですが、私以外の兵士は……」
「気にするな。お前はエリナ様を守った。誇りに思え。」
「はい!」
コンコンコン
馬を降り馬車の扉をノックし開ける。
「エリナ様御無事ですか!?」
「ええ、マルス、大丈夫よ。それよりマルスは大丈夫なの?」
「はい。魔力を使い果たしてしまいましたが、なんとか大丈夫です。」
「そう。本当にありがとう。他の兵士は?」
「エルを除き、みな死んだと思われます。」
「っ!!…………」
「エリナ様が気に病むことではありません。それに彼らはエリナ様を置いて逃げようとしました。その中でエルだけはエリナ様を置いて逃げようとはしませんでした。当然の結果とも言えます。」
「彼らにも家族がいたはずです。家族のためにも何としても生き延びなければならなかったのでしょう。私はそれを責めません。」
「エリナ様……」
そんなときだった。
「よお!どっかの貴族さん。そんなボロボロでどうしたんだい?」
「だれだ!?」
「へへへ、死にたくなければ、その馬車を渡しな。」
現れたのは15人の盗賊だった。
「エリナ様しばらくお待ちください。」
扉を閉め、戦闘体勢に入る。
しかし、先程の戦闘で魔力を使い果たしてしまい、体全体に疲労感で覆われている。
普段の2~3倍は体が重たく感じる。
「イヤだね。」
だが、エリナ様を見捨てるわけにはいかない。
エリナ様はマルスにとって一番大切な人だからだ。
「そうか、なら死ね!」
1人の盗賊が襲ってくる。
通常ならこんな雑魚相手にもならないが、今は力が拮抗していた。
盗賊達は弄ぶかのように徐々に攻撃を仕掛けてきた。
5人の盗賊を倒すも相手はまだ余裕を見せている。
「そろそろ諦めたらどうだ。おとなしく中の奴を渡せばお前達は見逃してやるよ。」
「ふざけるな!お嬢様を引き渡すなどあり得ぬ。俺達が死ぬか、お前達が死ぬかだ。」
そんなときだった。
取り囲んでいた盗賊の一番左の奴が知らない誰かに斬り殺されたのだ。
「なん――」
そして、奴はそのまま2人目、3人目も殺す。
このチャンスをマルスが見逃すはずもなく、動揺している盗賊を斬り殺す。
それに続くように、エルも盗賊を殺す。
マルスが2人目を殺したときだった。
「危ない!」
その声に反応し、後ろを振り向こうとするも、時すでに遅し。
いつものマルスなら避けられただろうが、魔力を使いきり万全ではないマルスでは避けることができない。
マルスが死を覚悟するも、奴がまた助けてくれた。
残る盗賊は1人となるも勝ち目がないとして投降した。
「ありがとう。助かった。」
マルスは、助けに来てくれた人にお礼を言う。
「いえ、当然のことをしたまでです。」
「いや、本当に助かった。このままでは殺られるところだった。」
「マルス、もう大丈夫なのですか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
グリフォンに襲われたときはもうダメかと思った。
馬車の中にも、兵士たちの叫び声が聞こえ、本当に怖かった。
だけどマルスとエルのおかげで何とか生き残れた。
と思ったら次は盗賊が現れた。
マルスはグリフォンとの戦いで魔力を使い果たしたと言っていた。
このままでは危ないかもしれない。
でも、私にはどうすることも出来ない。
「神様、マルスを助けて!」
私にできることと言えば神に祈るくらいだった。
すると、突如、馬車の外が騒がしくなる。
何事かと思い、耳を済ます。
「誰だお前は!」
誰かが助けに来てくれたようだ。
しばらくすると、外が静になり、マルスと知らない誰かの会話が聞こえてきた。
「マルス、もう大丈夫なのですか?」
馬車の扉を開け外にでた。
「お嬢様、もうしばらく中でお待ちください。ここらは血で汚れています。」
そこにいたのは、お世辞にも立派とは言えない装備をした貧乏そうな冒険者だった。
しかし、その装備とは裏腹に顔は非常に整っており、その瞳は吸い込まれそうなほど、清く透き通っていた。
婚約者候補達は私を汚い目で見る。
いやらしい目や卑猥な目。
私を権力や金の道具、性欲処理の道具とでしか見ていない。
でも、彼は真っ直ぐな目だった。
まだ穢れを知らない目だ。
そして、とても優しいそうな人だった。
「そちらの方は?」
「彼は、私達を助けてくださった……」
「バルトです。」
彼は微笑みながら名前を言った。
その笑顔がとても可愛らしかった。
冒険者とは思えないほど、優しい顔で微笑むのだ。
「そうだったのですか。本当にありがとうございました。」
私は、感情が高まり、バルトさんの手を握っていた。
「私はアルベルト家のエリナと申します。お礼をしたいのですが、生憎この後外せない用事がございまして……3日後の正午に私の家まで来ていただけないでしょうか。」
「別にお礼などは良いのですが……」
バルト様が断ろうとしたので焦った。
「とんでもありません。バルト様は命の恩人!そんな方にお礼もしなかったとあればアルベルト家にも傷がつきます。ぜひ、お越しください!」
「わ、わかりました。」
バルト様が私の圧に少し押されていたが、気にしない。
「もう1つお願いなのですが、街まで一緒に行って頂けませんか?」
マルスもエルも疲れている。
また、襲われでもしたら困るので、バルト様に付いてきて貰いたかった。
「それぐらいでしたらお安いご用ですよ。」
「ありがとうございます。それでは私は馬車に戻ると致します。」
馬車に戻ると口笛が聞こえてきた。
「ピィー」
どうやら、バルト様が吹いたようだ。
窓から見ていると遠目から狼が来ているのがわかった。
「え……今度は狼……」
狼が襲ってきたのだとおもったが、その狼はバルト様が呼んだみたいだ。
「狼に好かれるなんて……」
狼は人間の気持ちに敏感だ。
心が汚い人には絶対になつくことがない。
狼に好かれるのは、心が清いと言う証でもあると本で読んだことがある。
汚い大人や貴族の息子達と接してきたエリナにとって、バルトのような人とは初めて会う。
ドキドキドキドキ
心臓が激しく脈打つ。
私はこの時、バルト様に恋をしたのだと気づいた。
多分、一目見たときから恋に落ちていたのだと思う。
「バルト様、本当にありがとうございました。3日後またお会いしましょう。」
街に着き、バルト様とお別れだ。
でもまた3日後に会える。
逸る気持ちを抑え家に帰った。
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