07
ノックの後に部屋に入って来た侍女が、押していたワゴンを部屋の中央にあるテーブルの横に置き部屋中のカーテンを開ける。
部屋に射し込んでくる陽射しがベットに寝ているリンとトーマの顔に当たる。二人はもぞもぞと身体を動かした。
慣れないベットでの睡眠に、昨日1日部屋にいて十分過ぎる程休んでいたせいも相まって、いつもなら布団から離れられないはずの二人はすんなりと起きた。
「おはようございます。リン様、トーマ様。」
「おはようございます。マリアさん。」
「お目覚めの様でしたらあちらの長椅子へどうぞ。」
マリアとは、昨日から二人の側仕えとして配置された侍女である。
自分達よりも少し年上に見える彼女に、様を付けて呼ばないで欲しいと昨日からお願いしているのだが、毎回笑顔で断られてしまう。
慣れない呼ばれかたに苦笑いしながら、二人はマリアに促されるままに長椅子へと移動した。
マリアが横で紅茶をいれる。二人は目の前に出されたお茶に戸惑いつつ、お礼を言って口を付けた。
「何か、別世界やね。」
「いや、別世界やけど?」
「いや、いや、そうやけど、そうじゃなくて、」
「やね。なんか、優雅?セレブっぽい?」
「・・・落ち着かんね」
「うん、落ち着かん。」
リンはボーっとした頭で紅茶を飲みながら、クルクルと世話しなく動くマリアを目で追っていた。
隣の部屋から戻ったマリアは、トーマがトイレから戻って来るのを待ってから二人の側に移動すると、今日の予定を話す。
「まずは身支度を致しましょう。それから朝食、その後は旦那様からご相談があるそうですので、執務室へとご案内致します。
お食事はテラスでされますか?お部屋でされますか?」
「・・・ど、どちらでも・・・」
マリアの元気いっぱいの言葉に気圧されながらリンが答えた。
「では、テラスにご用意いたしますね。今朝はとても天気が良いのでテラスの方が気持ちが良いかと思われます。
トーマ様は隣の部屋に身支度の準備がございます。こちらへどうぞ。」
マリアはそう言うと、続き扉の方へ行き、扉を開ける。
トーマは言われるままに隣の部屋へと移動した。
マリアは扉を少し開けたままにして、鏡台の方へ移動する。
「リン様はこちらへどうぞ。」
リンも言われるままに鏡台の椅子に移動しようとした所で、隣の部屋から聞こえてきたトーマの大きな声に足を止める。
「いや、大丈夫です。自分でします。いや、自分で着替えますから。いいです。本当~~~。待って!ちょっ!?」
トーマの焦った声にリンは慌てて扉の方へ行き、そっと中を覗いた。
隣の部屋には若い執事から服を脱がされかけているトーマが、両手で胸元のシャツを押さえ、必死で“脱がされまい”と抵抗している。
(着替えは一人でさせて貰えんと?えっ?だって昨日は湯浴の時とか、着替えとか、自分でしてたけど?えっ?何で?えっ?マジか!・・・にしても、トーマの逃げ方!セリフ!乙女か!)
と心の中で突っ込んだリンだったが、自分もすぐにトーマと同じセリフを吐く羽目になった。
身支度を終えた二人はテラスに用意された朝食を前にぐったりとしていた。
「・・・これは、毎朝かな?」
「・・・みたいよ。昨日は部屋から出ないし、目が覚めたばっかりやし、って事で人払いされてて、通常のお世話ができてなかったみたいな事をマリアさんが言ってた。」
「毎朝・・・・・いや、無理・・・」
「・・・一人で着替えさせて貰えるように、ガウスさんにお願いしよう・・・」
「・・・だね・・・」
慣れないベットに慣れない呼ばれ方、その上慣れない生活習を体験する羽目になった二人だった。




