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06


 リンとトーマには部屋が個別に用意されていた。

といっても「二人で一部屋で良い」と言った言葉を、遠慮からではなく、不安からきた言葉と思ったサーシャがガウスに提案した部屋は、中の扉で行き来できる様になった続き部屋だった。

「本来は夫婦で滞在されるお客様用の部屋なのですよ。」と優しく微笑みながら話すサーシャにリンとトーマは凍り付いた。


 部屋の中はかなり広く、大人が3人で寝ても余裕であろうベットに足を伸ばして横になれる長椅子、テーブルに椅子や棚等、十分過ぎる家具が置いてあった。

部屋は南向きの2階部分にあり、広いテラスにはテーブルと椅子が置いてある。

トイレと湯あみ用の小さな個室も各々の部屋に付いていた。

「ホテルみたい。」

「後、台所があればここだけで生活できるね。」

というのが二人の概ねの感想だった。

侍女は一通りの説明を終え、「何かございましたらこちらのベルを鳴らして頂ければ参ります。」と言うと二人に片手の上に乗る程の銀色のベルを渡す。二人はベルを受けとり、侍女にお礼を言うと彼女が退出するのを横目によろよろとベットにたどり着き、1つのベットの両端で倒れる込む様にして寝転がった。

どちらともなく大きなため息が出る。

「・・・つっかれた」

「・・・きっつ」

話をするつもりで同じベットにいったはずの二人は、身体を預けたベットの余りの心地好さに、そのまま落ちていくように意識を手放した。




リンとトーマが目を覚ましたのは3日後。世界に馴染む為に必要な時間と眠りを身体が欲した時間なのだろう。もちろん3日間も寝ていたという事実に当人達は気付いていないが。

目を覚ました二人は、3日間飲まず食わずだったにも関わらずやつれるどころか絶好調だった。

「・・・夢じゃなかった」

「・・・現実か・・・」

先に起きたリンがトーマを起こして二人で部屋を見回した。

期待していたのは

“夢でした展開“

だけど、目を開けても自分の部屋ではない。

体調は絶好調だ。しかしメンタルは絶不調、二人は盛大なため息をついた。

かなりの時間がため息と沈黙のみで経過していく。

ベットの上の二人は寝転がったまま自分達の置かれた状況と移動中に話した内容をポツポツと話し始めた。



「はぁ、とりあえず何にも分からんし。」

「はぁ、ガウスさんの言う通り、ここがどんな所か教えてもらわんと。」

「・・・剣と魔法のファンタジー、やったっけ?」

「それも何も分からんまんまやしね、はぁ」

「何も説明なかったしね。」

会話を始めてもその多くはため息がしめていた。


「定番・・・ステータスオープンとか言ったら目の前にスキルが表示されんかな?よくマンガとか小説にある様な四角いアイコンが・・・」

と口にしたトーマの眼前に半透明の四角いタブレットの様な物が現れる。

そこにはトーマが好んで読んでいた小説の挿し絵に似たステータス画面が浮かんでいた。

「おおっ?!」

「マジか!」

「出た!ステータス画面!」

「すごくない?」

「本当に魔法とか使えるかも?」

二人のテンションが一気に上がる。寝転がっていた二人は跳ね起きた。

「そういえば、私は魔法使われたよ。内緒話用の魔法!ガウスさん達のあの話の時。」

「えぇ?昨日?うそやろ?うわっ、俺も見たい!魔法!」

「・・・いや、今見とるやん、魔法やろ、それ。」

「あっ・・・ですよねぇぇぇ。」

テンションが上がって気持ちが浮上する二人の顔にようやく笑顔が浮かぶ。

盛り上がっている二人にノックの音は聞こえない。

「リン様!?トーマ様!?」

二人は部屋に入ってきた侍女の声に驚いて声のした方を見た。

「お目覚めになったのですね!あぁ!旦那様にお伝えしなくては。失礼致します。」

侍女はそう捲し立てると踵を返して部屋を出ていく。

リンとトーマは顔を見合わせた。

「えっ?」

「ええっ?何?何?」

困惑している二人の耳に、バタバタと、いくつもの足音が聞こえてくる。

真っ先に部屋に入ってきたのはガウスだった。

「リン!トーマ!」

ガウスは二人の側まで来ると体を屈めて心配そうに二人の顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?具合は?」

リンとトーマには周りの反応の意味が分からない。

ベットから立ち上がるタイミングを逃し、反射的に正座をしてしまった二人は首を傾げた。

「リン、トーマ。二人共3日間も眠ったままで、もう起きないのかと。」

ガウスが眉間にシワをよせて小さく安堵のため息を吐いた。その横で後から入ってきたサーシャがうんうんと頷いている。

周りを見ると皆、安堵した顔をしている。

二人はやっと自分達の状況を理解した。

「すみません、大丈夫です。身体の調子も良いし。」

「ご心配をお掛けしました。すみません。」

二人は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。それと同時に嬉しい気持ちも沸いてくる。いきなり知らない場所にとばされて、知らない人達に囲まれる。右も左も分からない不安しかない二人に、今の状況は心に滲みた。



駆け付けた医師が二人を診察する。健康そのものと太鼓判を押されはしたものの、その日はゆっくりと過ごし、出歩くのは明日まで駄目だと注意を受けた。

医師の指示通り、二人はその日1日を部屋から出ずにベットで過ごす事になった。

“淋しさから二人で寝ていた”とまたもやサーシャに勘違いされてしまった二人は、そのまま一つのベットで過ごす事になった。

一応“1人で大丈夫”と伝えてはみたのだが、サーシャに“大丈夫よ。分かってるから”という顔で微笑まれてしまって、二人はそれ以上何も言えなくなって諦めた。


皆が部屋からでて、二人だけになると、どちらともなくステータスを開く。

ベットから出れない二人は、とりあえず自分たちのステータスの確認から始める事にした。


「そういえばさ、今着とる服って借り物よね?」

ステータスを眺めながらリンが言った。

「うん。っていうか、俺達何も持っとらんやん?無いと困るよね。特にパンツとか、パンツとかパンツ」

「って、パンツしか言っとらんやん。・・・どうしようか?服、は無いと困るやろ。やけど、お金はないし。・・・っていうか、お金ってどうなっとうと?」

「それな!・・・聞いてみる?」

「・・・誰に?」

「あー・・・お手伝いさん?部屋にちょこちょこ来て色々教えてくれよう人」

「仕事中やろ?邪魔はできんやん?」

「・・・ガウスさんにお願いするしかないか。」

「って事は明日?」

「やね。今日はゆっくりしてなさいって言われとうけん、明日かなぁ」




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