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アンに引き続いて、カナンも魔力の塊、光の粒の凝縮までの行程は出来るようになっていた。ただしそこから先に進まない。何度やっても魔力の塊は空の彼方へと吸い込まれるようにして飛んでいってしまった。
夕食も湯浴もすませたトーマとリンがベッドでごろごろと寝転がる。
二人で寝たいのだろうという誤解を受けた翌日、最初に置いてあったベッドよりも一回りも二回りも大きなベッドへと交換された。日本に居た時の自分達の部屋程もあるのではないかと思える大きさのベッドに当初は愕然とした二人だが、今では一番だらける事ができる大事な空間になっていた。
「あれさー、やっぱりおかしいよね?」
トーマがスキル画面をいじりながらリンに話かける。
本を読んでいたリンは本から視線を外さずに「ん~」と適当な返事を返した。
「アンとカナンのあれ、何でどっか飛んで行くっちゃろう」
「ん~?」
「同じ方向に飛んで行きよったやん?」
「ん~」
「あれってさ何かあるとかな?飛んでった方に」
「何かって?」
「さあ?わからんけど・・・何か?」
「はあ?何かって何よ?」
「・・・さあ?」
しばしの沈黙のあと、トーマが飛び上がる様にしてベッドの上で立ち上がる。
「こんな時は~~~まさや!召喚!!!」
「・・・はっ?召喚も何も、まさや居るし、ずっと」
ベッドが大きく揺れた事であきらめたリンは本を閉じる。ツッコミ待ちのトーマへ視線を向けてわざとらしくため息をついた。
リンとは対照的に、トーマの枕でくつろいでいたまさやは慌てた様子でわたわたとトーマの腕に浮いて移動する。まさやの健気な行動と自分のボケにトーマは赤面した。
「・・・あっ、すんません、まさやさん。これ、ツッコミのためのただのボケ、です・・・何か、いや~~~!これ、恥ずかしい!何か言って、姉ちゃん!まさやさん!」
「トーマ、素直なまさやにツッコミを教えた方が良いんやない?
このままだと、ボケる度に自分で解説とか言い訳とかせんといかんくなるよ
それはそれで草生えるけど」
リンは笑いながら、うずくまって悶えるトーマの背中をバシバシと叩いた。
「まあ、とりあえず、何が言いたかったかと言うと、
明日も午後から建物修復の予定やん?
アンとカナンも多分居るけん、指南魔法をしてもらって、飛んで行く魔力の後をまさやに付いていってもらってはどうかなぁと。」
しばらく悶えたトーマは、気持ちを建て直すして本題に入る。まさやにツッコミとは何かをわかってもらう事を心に決めて。
翌日、建物修復を始める前に、アンとカナンに指南魔法をしてもらう。
アンは「“水”」、カナンが「“火”」の指南魔法を行使すると、魔力の塊が飛んで行く。
トーマの合図でまさやは魔力の塊の追跡を開始する。
まさやの姿が見えなくなった後も、何度かアンとカナンに指南魔法を行使してもらう。
いくらまさやが速といっても途中で見失わないとは限らないし、本当に同一の方向へ飛んで行っているのかを確かめるためだ。
全て同じ方向に飛んで行った魔力の塊をいくつか見送って、リンとトーマは建物の修復作業を始めた。