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ーーーーーまたしてもトイレの話しです。すみません。苦手な方はご注意願います。(本文にはあまり影響いたしません)ーーーーー
朝起きて、その日の予定をマリアとロンから伝えられる。リンとトーマの朝の日課。
主には町の建物の修繕。それに加え、服飾関係でリンがサーシャに連れていかれる時には、トーマが研究所へ行く。時折り騎士団やドレイクとの合同練習をし、それ以外の空いた時間は固有魔法の練習に励む。
二人の慣れない毎日が日常に変化していた。
その日、服飾関係の用事を済ませたリンは、研究所から戻ってくるはずなのに一向に戻ってこないトーマをあきらめて、昼食をとっていた。
「ウォォォォオオオオオ!!!!!」
男達の野太い歓声があがる。
「できたあああ!!!」
「成功した!」
「ウォォォォ!!!グローーリアーーー!!!」
疲れ果てた男達の顔が達成感と言う名の光に包まれている。
狂喜している男達の横で、雄叫びが上がり始めてから小一時間程、冷静に様子を伺っていたロンは、殊更冷静に声を響かせた。
「ご成功おめでとうございます。
トーマ様、昼食の時間がかなり過ぎております。
リン様とのお約束の時間も過ぎておりますので、ガウス様への成功の報告も含めて、一旦、邸に戻りましょう。
ショーンも一緒に。」
ロンは男達の中心へ行き、狂喜の元の魔術具を手早くバックに詰めると、トーマを促して邸に向かった。
邸に戻った3人は、ガウスとリンの居場所を執事に尋ね、昼食後にガウスとリンとドレイクが話しをしているという歓談室に向かった。
ノックをし、許可を待ってから丁寧に入室するロンの後ろからトーマが勢い良く入ってくると、リンを見つけて走り寄る。
「出来た!!!姉ちゃん!!!まじ出来た!俺達、すごくない?!!」
トーマの興奮した様子に若干引きながらリンが答える。
「何が?」
「転移の魔術具!!!出来た!!!転移した!!!」
トーマの言葉にリンも驚いて、トーマの両肩を掴んだ。ガウスとドレイクも目を見開いてトーマからロンに視線を移した。ロンは縦に頷いてショーンを前に押し出した。
「本当です。ショーンが以前より研究していたのですが、中々上手くいかず、トーマ様が参加した事で急激に問題点が解決していき、何度も繰り返し実験を行った結果、間違いなく完成したと申し上げても大丈夫かと。」
ロンはそう言いながら机の上に転移の魔術具を広げた。
「・・・まじで?!すごくない?!いや、それが本当ならまじすごいやん!!!」
「やろ!!!これで俺の毎日の恐怖が解決!!!うおおおぉぉぉぉぉ!!!」
トーマの台詞にリンの動きが止まる。
「・・・恐怖って?トーマ?」
「トイレ!トイレのスライム!距離が近いのが、どーーーしても恐怖やったけん。これで解決ですよ!!!これを下に置いて、蓋して、その上にもう1つの魔術具置いて、」
トーマが魔術具の1つを机の下に置き、もう1つを机の上に置いた。
「机が蓋の代わりね。んで、ここに物を落とすと、」
机の上に置いてあったクッキーを1つ取って机の上の魔術具の上にそっと落とすと、淡い光に包まれた魔術具を通過するようにしてクッキーが机の下の魔術具の上にコトリと落ちた。
ガウスは静かにその現象を観察している。
ドレイクは驚いて机の上と下を交互に見比べていた。
リンが不思議そうに尋ねる。
「じゃあさ、この魔術具は一方通行なん?片方からしか送れん感じって事?」
リンの言葉にトーマが首を横に振った。
「いやいや、それじゃあ、転移の魔術具として中途半端やん?ちゃんとどっちからでも送れる様にしとるよ。」
トーマは、そういうと机の下の魔術具の上にあるくっきーを手にとって、さっきと同じように机の下の魔術具にそっと乗せた。同じように机の上の魔術具にポトリとクッキーが落ちてきた。
「ほら、ね?ちゃんと送れるやろ?」
トーマが満面の笑みでリンを見たが、リンは呆れた顔でトーマを見た。
「それってさあ、行き来が出来るって事やん?じゃあ、スライムも来るんじゃないと?」
リンの言葉にトーマの顔からみるみる内に笑顔が消えていく。トーマは仰け反ってもんどり打った。
「ぐううあああああぁぁぁぁぁ!!!っっっっっ俺の希望が!!!」
トーマの口から、さっきまでの狂喜の叫びとは真逆の絶望の叫びが響いた。