03
「はあ!?はあああああああ!?」
二人は顔を合わせたまま、叫んだ。
「何も教えてもらえんかったけど?」
「あれだけの、情報でどうしろと?」
力なく項垂れる。これからどうしたら良いのか。
知らない場所にいきなり移された二人は呆然とするほかなかった。
青々と草の繁った草原に、光を反射してキラキラと光る湖。
草原の奥には赤や黄色の丸い実がついた木々も見える。
きっと状況が違えばはしゃぎにはしゃいだであろう。
二人の頬を涼しい風が撫でるが、悲壮感漂う二人が風ごときで復活できるはずがない。ましてや、周りを見渡す余裕などある訳がない。
遠くから複数の馬の蹄の音が近づいて来ているが、当然、二人は気付いていない。
間近まで迫り、馬から降りて近付いてくる複数の足音でようやく二人は顔を上げた。
「本当に・・・いた。」
先頭を歩いていた、真っ赤な髪の青年が、驚きとも歓喜ともいえる顔で二人をみて呟いた。
青年は二人の前で膝をつき、柔らかな笑顔を向ける。
「私はガウス、ガウス・モルディエラ。モルディエラ領の領主をしている。」
そういうと、青年は二人に向かって右手を差し出した。
混乱から立ち直れていない二人は顔を見合せる。
置かれた状況についていけない。
握手をしても大丈夫なのかも図りかねていた。
「・・・大丈夫。貴殿方に害は及ぼさない。約束する。」
青年、ガウスは行き場をなくした右手を胸に当てて軽く頭を下げた。
「・・・凜です。・・・こっちは弟の杜真です。」
凜は杜真の腕を引っ張りながら立ち上がる。
杜真は、凜の無言の促しに周りを見渡した。
走って逃げられる場所を探す為だ。
ガウスは、そんな二人の様子に少し困った顔を見せる。
「・・・リン・・・トーマ・・・」
ガウスはゆっくりと確かめる様に二人の名前を口にする。
「・・・いきなり声をかけてきた人間を信用するのはむりだと思う。私自身も現状に驚いているのが、本音だ。だが、話だけでも聞いてもらえないだろうか?」
少しの沈黙の後に凜と杜真は頷いた。
警戒はされて当然、とりあえずは逃げずに話しをきいてくれると頷いてくれた二人に、ガウスは少し安堵し上を指さした。
「私達はあの鳥に導かれて、ここまで来た。
あの鳥は神の使いと言われている。
・・・まぁ、私も、実物は初めてみたのだが・・・
青い身体に冠羽、虹色の尾羽と赤い瞳。
魔物や動物で、鳥や鳥に似た生き物は多いが、この姿をしている生き物は他にいない。
神の使いとして、文献や史実で伝えられてはいるが、実在するとは思われていなかった。」
二人はガウスが指し示した空を見上げる。
しかし、その場所には鳥らしき生き物はとんでいない。
「はぁっ?」
凜の口からは間の抜けた声がでた。
隣で杜真が盛大に吹き出した。
「・・・鳥?ですか?」
凜と杜真の目に写ったのは、先程の白い空間にいた執事である。
しかも、○ルトラマンか、○ーパーマンよろしく、空を旋回している。
執事が見られている事に気付いて、地上に向けて両手を大きく振った。水平飛行しながら、だが。
ブンブンと音でも聞こえそうな程のちぎれんばかりに手を振っている執事に、とうとうこらえきれなくなってしまった杜真が腹を抱えて笑いだした。
緊張していた空気が、弛む。
凛もそんな杜真をみて、一瞬だけあきれた顔をして、すぐに小さく笑った。
「私達には鳥に見えません。人、ですね。人に見えます。しかも、中々面白い感じで飛んでいます。」
困惑しているガウス達に凛が笑いながら言った。
「・・・人?」
ガウスは小さく呟いて、空を見る。
ガウス達にはどうやっても鳥にしか見えていない。
凛は困惑顔のガウス達を見る。
嘘をついている様には見えない。
ガウス達の様子を伺っていた凛が驚いて執事に視線を向ける。
頭の中に直接執事の声が響いてきたからだ。
[リンさん、トーマさん、その人が先ほど話した、助力をして欲しい方の内の1人です。ご安心ください。信用に足る人物ですよ。さて、私の案内はここまでとなります。しばらくはこの世界について色々と見聞されてください。又、すぐにお会いする事になると思います。それでは失礼致します。]
そう言うと、執事の身体は淡い光を放って霧散した。
ガウス達は、あっと小さな声を漏らして鳥がいなくなる様子を見ていた。
ガウスはすぐにはっと何かに気付いて凛に視線を移し訊ねる。
「二人には人に見えた、と言う事は、会話が?」
「はい。あなたを警戒しなくて良い事、それと、しばらくはあなた方と一緒にいる様にという事を言われました。」
凛はにっこりとわらってガウスの問いに答えた。
最初と違う凛の親しげな口調に、ガウスは顔を綻ばす。
「改めて、よろしくお願いします。凛です。あっちが杜真です。」
「こちらこそ、よろしく。リン、トーマ。」
(若干違う名前に聞こえるのは言葉が違うからだろうか)と思いつつ、リンは握手をしようとガウスに手を伸ばした。
ガウスは慣れた動作でその手を取ると軽く口付けた。
「うぉっ!」
辺りにリンの、おおよそ女性らしからぬ叫び声と、トーマの収まらない笑い声が響いた。